ハラール認証について / 米田 良夫

 奈良の町を歩いていますと、聞きなれない言葉が多く耳に入ってきます。多くは中国や韓国からの旅行者と思われます。今後も経済成長著しいアジアからの旅行者が増えると予想されます。そこで、今回は、ムスリム(イスラム教徒)の旅行者に向けたハラール認証について考えてみます。

 

 ムスリムといえば中東というイメージですが、実は、アジアが一番多く、世界ムスリム人口の62%、約9.7億人がいます。具体的には、インドネシアには2億人超、パキスタンには約1.8億人、バングラデシュには約1.5億人、インドには1.8億人が住んでいます。

 訪日するムスリムにとって一番のネックとなるのは、食事と礼拝になります。食事については、酩酊作用のある飲み物(アルコール)や、豚、豚由来もの(ゼラチン、コラーゲン、ベーコン、ソーセージの皮、調味料など)が非合法(ハラーム)となっています。野菜や果物、穀類、海産物、卵、牛乳などが合法(ハラール)です。加工品はアルコールを含んでいた場合はだめで、鶏、羊、牛の肉は、屠畜の方法が問題となります。特に、豚由来のものに注意が必要です。調味料や食材の材料として豚由来のものが多く使われているからです。料理用お酒はもちろんハラームで使えません。醤油や酢もアルコールが入ってないものを使うなどの工夫がいります。そんななかハラール認証を受けた熊本県の牧場や、千葉県の醤油メーカーがあり、少しずつハラール対応が進んでいます。

 また、ナイフやフォーク、お皿など食器はハラール専用として、保管を別々にします。調理器具もハラール専用とし、包丁やまな板、フライパンなど区別します。以上ように別々に使用したり、管理する手間はかかります。

 

 礼拝については、1日5回(夜明け、昼、午後、日没、夜)、キブラ(メッカにあるカアバ神殿)に向かって行われます。時間は場所によって違うため、毎日ネットで確認が必要となります。礼拝のための施設としては、最低、一人が礼拝できるスペースが必要です。礼拝マットやメッカの方向を示すキブラを設置しておく必要があります。礼拝をする前には身体を清めますので、清浄する場所がいります。なければ洗面所で水が使えるようなハンドシャワーや水差しなどを用意します。礼拝場所は男女別ですが、無理な場合、ついたてなどで分ける必要があります。女性用の礼拝着も用意しておいた方が望ましいです。旅行者には礼拝を短縮・合わせる特例もあります。公的な場所では、関西空港や難波CITYなどが礼拝場所を設置しています。

 

 以上のようなムスリムへの対応に関して、証明書を発行しているのが、ハラール認証制度です。その歴史をマレーシアに見てみますと、1982年に輸入肉の規制、1994年にハラールロゴの導入、2004年にハラール認証制度MS1500:2004を発行、2009年にMS1500:2009を発行してきています。

 ハラール認証は、世界統一の基準はなく認証機関も多数存在します。その中でもマレーシアは政府機関が運営しており、厳密なハラール基準を確立しています。そのなかでハラール認証を「生産地から消費者までの全工程についてハラール基準に基づき、すべての製造流通過程(飼料、屠畜、動物愛護、衛生、加工、倉庫管理、輸送、社内ハラール取組み等)を第三者機関(ハラール監査団体)が確認し、『ハラール製品』認証し、消費者が安心して消費、摂取する事ができるようにする事」と定義しています。認証の有効性は、ハラーム加工食品の識別容易性と、ムスリムにとって安心・安全の確保があげられます。

 ハラール認証の大きな流れは、

 1. 申請と費用

 2. 監査と審議

 3. 承認と認証書発行

となります。

 その認証の監査・証明は、ハラール認証団体が行います。有効期間は通常1年間で、各製品ごと、工場ごと、店舗ごと行われます。

 詳細は省きますが、マレーシアスタンダード MS1500:2009により要求事項をみてみますと、

 3.1 経営者の責任

 3.2 施設

 3.3 装置、道具、機械および加工用補助機

 3.4 衛生、公衆衛生および食品安全

 3.5 ハラール食品の加工

 3.6 ハラール職人の貯蔵、輸送、陳列、販売および提供

 3.7 包装、ラベル付けおよび広告

 3.8 法的要件

からなっています。

 

 ハラール対応に積極的に取り組んでいるのは京都市です。2013年にはムスリム受け入れのための勉強会を立ち上げ、12月にはムスリム専用のホームページを作成し、ハラール対応のホテルやレストラン、モスクの紹介を始めています。ハラール認証もホテルグランヴィア京都や老舗の美濃吉などが受けています。また、大学もハラール対応に積極的で、京都大学や同志社大

学、立命館大学の学生食堂はハラールメニューを用意しています。京都外国語大学では、京都市内ハラールマップやハラール食になる日本食の開発などに取り組んでいます。

 このようなハラールへの取り組みが少しずつ広がり、ムスリムにとって優しい日本ということになり、多くのムスリムの観光客が訪日していただくよう期待しています。

 

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■執筆者プロフィール

 

クリッジナリティー 代表 米田良夫

中小企業診断士、ITコーディネータ

E-mail:y-yoneda@credgenality.com