ミャンマー概観・ビジネス最新事情 / 下村 敏和

8月初旬にミャンマーを訪問する機会があり、日本貿易振興機構(ジェトロ)ヤンゴン事務所や在ミャンマー日本大使館そしてティラワとミンガラドンの2つの工業団地などを訪問しました。人口は2014年実施の国勢調査で5,148万人、国土面積は日本の1.8倍もある。国土の50%が森林で、タイ、ラオス、中国、インド、バングラデシュの5か国と国境を接している。中国、タイ、ベトナムなどかつて日系企業が進出し、製造業、IT産業他事業展開を行っているが、ミャンマーはアジア地区最後のフロンティア、ASEAN最優位のレイバーコストとして注目を浴びている。現地状況を少し垣間見ましたのでその状況について簡単にまとめてみたいと思う。

 

■政治・経済概況

 テイン・セイン大統領は、2011年3月の就任以降、積極的な改革路線を打ち出し、政治、経済・社会、行政及び民間セクター改革を進めてきた。政治面でも海外在住の民主活動家の帰国受け入れ、政治犯の釈放、強制労働徴用制度の廃止の実現などミャンマーの民主化及び人権状況は大きな前進を見せている。

 また、135ある少数民族との和平プロセスが最優先課題で2015年11月の総選選挙でアウンサンスーチーさん率いる国民民主連盟(NDL)もこの和平プロセスを継承する方針。ティン・チョウ大統領は、スーチー議長を事実上の指導者であることを明示した上で、今後、国民和解、国内和平及び民主主義連邦のための憲法改正及び国民生活向上を目指すことを表明している。2013年4月にスーチー議長来日、同5月安倍総理がミャンマー訪問、その後外務大臣の訪問などが相次いでいる。

 一方、経済面では国際通貨基金(IMF)によると、2014年度の実質GDP成長率は7.7%と3年連続で7%を超える高い経済成長を達成した。その背景として、2011年の民政移管後、世界各国から多様な業種の対内投資が増加し始めており、ヤンゴンやマンダレーといった大都市では、外資系小売店や外食産業の新規開店が相次ぎ、ホテルやオフィスビルの建設ラッシュが続いている。ビジネスや観光を含めた来訪者も高い水準を保っており、依然、供給が需要に追い付かない状況だ。現在、ヤンゴン市内では日本の中古自動車が溢れており、道路インフラは喫緊の課題である。

 しかし、若年層の仕事が少ないため、タイ、マレーシア、シンガポールなどの近隣アジア諸国に移民や出稼ぎを行っている。とりわけ、隣国のタイにその大半が集中している。ただ、非正規(非合法または非公式)移民が相当数に上り、その実態を把握できていない状況である。ミャンマーの人口の約 10%の約 500 万人ものミャンマー人労働者が海外で働いているとの推定されている。

 

■産業構造と輸出入状況

 産業面では、農林水産業がGDPの約30%を占め、労働人口の約60%強が従事する重要産業である。また、GDPに占める工業(製造業)は約33%で業種別には、食品加工、木材加工、縫製業といった労働集約的な軽工業が大半を占める。

 工業製品の製造は僅かなため、殆ど輸入に頼っている。エネルギーに関しては、天然ガスが豊富で、タイや中国(2013年7月パイプライン完成)向けに輸出され、総輸出額の約30%(2013年)を占めるミャンマー最大の輸出品目となっている。

 日ミャンマー貿易は3年連続の日本の出超に日本の「貿易統計(通関ベース)」によると、2014年の日本の対ミャンマー輸出は前年比12.3%増の11億8,610万ドル、輸入は13.4%増の8億5,810万ドルとなった。日本側の出超は3億2,800万ドルとなり、3年連続となった。日本の対ミャンマー輸出を品目別にみると、輸送機器(乗用車、トラックなど)が72%で最大、次いで一般機械(建設機械など)が9.4%となった。一方、ミャンマーからの輸入を品目別にみると、1位が衣類(縫

製品)で60%、2位が履物で12%となり、上位2品目の軽工業品で引き続き輸入の7割以上を占めた。低廉な労働力を背景に、ミャンマーが労働集約型産業の委託加工先として活用されている。

 

■工業団地と経済特別区

 ヤンゴン空港から7kmにあるミンガラドン工業団地はミャンマー建設省住宅局と三井物産が共同で1998年に開業したが、販売が低迷し、2006年に三井物産は撤退している。その後、民主化の影響もあり、2012年に第一期地区は完売となっている。現在35社で約半分が日系企業である。ただ、この地区は停電が1日1回1H位あり、月平均約20時間となるが、発電機で対応可能なレベルである。訪問した企業は瞬断後、自動切り替えにより約30秒で復旧させることができるが、これに耐え得る事業であることが条件となる。

 一方現在、ヤンゴン近郊のティラワ地区において、日本政府主導で工業団地の開発が進められている。この地区は経済特別区として法人税や輸入関税ほか優遇措置がある。開発に当たりMyanmar Japan Thilawa Development(MJTD)が2014年1月に設立され、先行開発エリアの約400ヘクタールのうち、第1フェーズの約200ヘクタールが2015年夏に開業し、2015年12月時点で52社が進出し、日本企業はその約半分で、現在は12社が稼働している。業種は縫製業以外にも、自動車部品、電子部品、食品、建材、物流、化学など、多岐にわたっている。なお、操業

に不可欠な電力については、住友商事がミャンマー電力省傘下の電力公社からティラワ経済特区に隣接するティラワガスタービン火力発電所(発電容量50メガワット)の建設工事を受注し、既に25メガワットが完成している。停電は少なく、安定的に供給されることが期待される。

 

■IT企業の進出

 IT系日系企業としては第一コンピュータリソース社がミャンマーで最初(2008年7月)にソフトウェア・オフショア開発拠点(MDCR)として進出している。MDCR社の社内公用語は日本語。日本語検定1級と2級の保持者が全社員の34%にのぼる。その後、NTTデータ社が2012年末に同様に進出。そのほか中堅ソフトウェア企業も続々とミャンマーに進出、スマートフォン用アプリ制作などを手掛ける。

進出ラッシュの背景にはアジアのIT技術者の不足と人件費高騰がある。これまで主にソフト開発を受託してきた中国、ベトナムは人手の確保が難しくなってきたうえに賃金が上昇し魅力が薄れつつある。ミャンマーは開発コストの競争力に加えて日本語習得能力の高さがある。ミャンマー語は日本語と文法が一致している。数年後にはかなりの日系IT企業の要員が増えるものと思われ、将来的にはIT要員の不足を補うために日本に来て欲しいところである。

 

 最後にミャンマー日本商工会議所の会社数は、2011年の53社から2016年6月末現在の313社へと大幅に増加している。ミャンマー進出のメリットとして、豊富で安価な労働力に加えて国民レベルでの対日感情の良さ(仏教徒の価値観)などがある。リスクとしては、先にも述べた電力供給や通信インフラの脆弱さロジスティクス問題などが挙げられる。今後、いくつかのリスクを抱えながらも、早期利得を求めて進出タイミングを計る企業が急増することを実感しました。

 

(参考文献)

 ・ミャンマーのビジネス・投資環境 日本貿易振興機構(ジェトロ)

 ・ミャンマー事情 在ミャンマー日本大使館

 

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■執筆者プロフィール

 

 ヒーリング テクノロジー ラボ  代表 下村 敏和

 

 ITコーディネータ

 電話番号:075-200-2701

 E-mail:t-shimomura@zeus.eonet.ne.jp

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コメント: 1
  • #1

    坂口幸雄 (水曜日, 28 9月 2016 09:49)

    グローバルに活躍してありますね!アジア地区最後のフロンティアである
    ミャンマーの事を面白く読ましてもらいました。