IoT時代のエコシステムについて / 杉村 麻記子

ITC京都のメルマガでは、

 「第4の産業革命 スマート・マニュファクチャリング(1/25配信)」、

 「2つのIoT(2/22配信) 」、

 「IoTは我社にも関係あるのか(5/23配信)」

とIoTについての記事が多く投稿されている。

IoTもバズワードから、実際に活用する事例も少しずつ出てきている。

本投稿では、IoT時代におけるエコシステムについて考察する。

 

1.エコシステムとは

 エコシステムとは「生物とその環境の構成要素を1つのシステムとしてとらえる【生態系】を意味する科学用語」というのがもともとの定義だ。

 それが経営・IT分野の新語として使い始められ「複数の企業が商品開発や事業活動などでパートナーシップを組み、互いの技術や資本を生かしながら、開発業者・代理店・販売店・宣伝媒体、さらには消費者や社会を巻き込み、業界の枠や国境を超えて広く共存共栄していく仕組み。」と定義されている。

(出典:知恵蔵2015による)

 

2.エコシステムの事例

 エコシステムの事例としては以下のようなものがある。

 

a. Uber(ウーバー)

 タクシー会社が撤退し、公共交通である路線バスも基幹道路のみという「交通空白」の丹後町でウーバーが実証実験が開始されたとのニュースをご覧になった方も多いだろう。

 ウーバーは2009年の創業。

 運転手もいなければ、自動車も持っていない会社が、スマホアプリを使ったタクシー配車サービスで世界58カ国、300都市以上でサービスを展開している。

 サンフランシスコのタクシー最大手のイエローキャブを破たんに追い込んだ話も有名である。

 このエコシステムによるビジネスモデルが受け入れられた理由を利用者とドライバーの視点で書くと以下の通りである。

 

【タクシーを利用する人の視点】

 -目的地に行くのにタクシーをすぐ見つけたい。

 -料金もできれば安いほうがいい

 -もちろん安全第一で

【ドライバーの視点】

 -客待ちや車を流さなくてもお客様を見つけたい

 -料金は間違いなく回収したい

 -乱暴なマナーの悪いお客様は乗せたくない

 

 この双方のニーズを実現したのがウーバーだ。

 利用者は利用したドライバーを評価する仕組みがあり、品質の低いドライバーはこのシステムによって低評価がつけられる。利用者もそのドライバーは利用しなくなる。

 もちろん利用者側もドライバーに評価されるので、ヤフオクと同じようにお互いがスムーズで気持ちのいい取引を心掛けるようになるわけだ。

 ウーバーは、アプリによるクレジット払いプロモーションによる無料クーポンなどで、新たな利用者を増やしている。

 実際にタクシー会社に所属していた運転手も退職しウーバーのドライバに登録するというケースも多く、賃金が増えたという報告もあるようだ。

 利用者とドライバー双方にとってWin-Winの関係を気付くエコシステムとそれを実現するスマホアプリがウーバーの成長を支えている。

 時価総額が5兆円の企業となったウーバーは、現在も世界へ展開中ではある。成長に伴って、白タク規制問題や安全性の確保など様々な課題もあるようだ。

 

b. Netflix(ネットフリックス)

 オンラインDVDレンタルとしてアメリカで創業したNetflixは、会員向けのVODサービスを提供し事業を拡大した。

 TV(地上波やケーブル)やビデオレンタルが中心であった映像コンテンツの視聴スタイルを、インターネット経由でのマルチデバイス(4Kテレビやスマホやゲーム機など)にかえ、既存のサービス業者に対抗するために、ちまたに公開されている映画やTVドラマなどだけではなく、オリジナルの作品の製作、配信に力を入れ急成長した企業。

 日本でも直木賞作品で話題となった火花(原作:又吉直樹)の独占公開で話題になっている。

 膨大なコンテンツを配信するためのIT投資は自社でサーバを構築すると莫大になり、かつ柔軟な拡張が困難だが、Netflixはサーバーやストレージを持つのではなく、外部のクラウドサービスを利用し世界規模での映像配信を行う一方、マルチデバイスへの対応は各メーカーを巻き込みエコシステムにより実現している。そして自社のリソースは付加価値を上げるためのコンテンツの自主製作や、利用者の評価も高いレコメンド機能の実現などに向けている。

 日本市場でどの程度受け入れられるのか今後の動向が注目される。

 

3.IoT時代のエコシステムとは

 エコシステムとして紹介した2社はインターネットやスマホ、外部のリソースを活用し、新たなサービスを提供しお客様をうまく獲得してきた。

 ではIoT領域でのエコシステムとはどのように考えればいいのだろうか?

 新たなビジネスの創造、アイディアを実現するための手段としてIoTを活用する場合、すべてを自社で構築すると莫大な投資がかかる。

 一方で市場に提供されているIoTの様々なサービスの中から自社に必要なものを選別し利用すれば、エコシステムとして早期に利用することができる。

 外部のサービスを素早く導入することで、自社では新たなビジネスモデルとなりうる付加価値をどう創出するか?といった観点でサービス内容やビジネス形態を考えることに集中できるのだ。

 特にIoT端末の通信やセキュリティについては、高度な課題であり専門的な知識を持った会社のサービスを活用するのが現実的であり活用すべきである。

 また自社の考える新しいビジネスの仕組みを実装するためのアプリケーション(API)が提供されているプラットフォームがどれか?を見極めてエコシステムとして取り込むサービスを選択する。

 そしてもう一つ忘れてはいけないのは、サービス利用者もエコシステムに組み込むという考え方だ。

例えば、GoogleMapのカーナビゲーションシステムでは詳細な渋滞情報がリアルタイムに表示されるが、これはスマートフォンでGoogleMapを利用する位置情報が使われている。

 その結果、一機数百万円と言われる交通量・速度などの情報を収集する装置を主要道路にしか設置できないVICSよりも高精度で主要道路以外でも渋滞情報を提供している。

 また箕面市で実証実験をしているotta(オッタ)※は、子供たちの見守りをするために保護者のスマートフォンにあるBluetooth機能を使って、子供の持つビーコン端末を検知してサーバーに集約する。

 ビーコンのリーダーを街中に設置するには膨大な投資が必要だが、保護者のスマートフォンをリーダー代わりに利用することでコストを抑えることができる。

 

4.ITコーディネータとして・・

 ITCとして中堅・中小企業の支援を行う場合、提供されているIoTのプラットフォームをそれぞれ理解し、利用する目的に合致したものがどれか? それぞれの特徴、課題は何かを理解したうえで、利用者も含めたエコシステムをどのように構築するかを助言することが求められる。

 イノベーションはモノを作るのではなく、コト(サービス、お客様にとっての目的)を提供し、それを長い期間使ってもらうという基本的な考え方は昔から何も変わらない。

 適切なエコシステムを活用・構築することでリソースが限られた企業が、新しいイノベーション創出にチャレンジできるよう支援することがITCに求められる。

 

※otta(オッタ) https://www.otta.me/

 

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■執筆者プロフィール

 

杉村麻記子

ITコーディネータ・中小企業診断士

 

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コメント: 1
  • #1

    Jesenia Thorp (火曜日, 31 1月 2017 18:33)


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