インバウンド・ビジネスの地方創生への期待 / 下村 敏和

 昨今、京都の神社仏閣や大阪の道頓堀を歩いていて外国人の急増に目を見張る
ものがあります。それもそのはず、2015年は過去最高の1973万人(前年比47.1%
増)が来日。45年ぶりに訪日外客数と出国日本人数が逆転し、旅行収支は1兆
1217億円と53年ぶりの黒字になりました。この劇的なインバウンド(訪日外国人
客)の増加が地方再生への起爆剤になることを期待したいところです。

■インバウンド急増への対応
 日本政府観光局(JNTO)の発表によると主な要因は、クルーズ船の寄港増加、
航空路線の拡大、航空運賃の低下、これまでの継続的な訪日旅行プロモーション
による訪日旅行需要の拡大などとされています。もちろん、円安、ビザの大幅緩
和、消費免税制度の拡充等も大きく寄与しています。中でも、中国は499万人と
韓国、台湾を抜いて初めてトップに立ちました。
東アジア72%、東南アジア+インド11%の合計で実に83%を占め、欧米豪の13%
を大きく引き離しています。
 これら訪日外国人客受け入れ環境整備として国が掲げているものに、
1)多言語対応、
2)無料Wi-Fiの整備、
3)免税店の拡充、
4)宿泊施設の充実・多様化・情報提供、
5)税関や出入国管理の迅速化、
6)ムスリム対応(イスラム教徒のための食事や礼拝室対応)、
7)観光ルートの創設 等があります。 
 実感として、案内板やHP上の多言語化、無料Wi-Fiも徐々に設置され、免税店
の看板を見ることも多くなっています。京都や大阪でも宿泊施設が慢性的不足で
宿泊代の高騰にビジネスマンが困るくらいの状況に陥っているのは言うまでもあ
りません。入国に関する迅速化では職員の増員や顔認証システムの導入が検討さ
れています。また観光ルートでは、例えば飛騨高山や白川郷、五箇山もそれ単独
では惹きつけるのは難しく、名古屋、金沢のルートのついでに立ち寄ることで成
り立つと考えられています。それぞれ対策が練られていますが、まだ数と質の面
で追いついていない状況です。
 
■日本の魅力の再発見
さて、次に日本のどこに外国人は魅力を感じて来日されるのでしょうか。
1)地理的な近さ、
2)ショッピング、
3)自然、
4)伝統、文化、飲食、
5)遊び(テーマパークほか)、
6)温泉、
7)先進的技術などが挙げられます。
 急増しているアジアからは近いし、ショッピングでは高級ブランド品や化粧品、
医薬品などの「爆買い」が良く知られています。また自然という点ではアジアか
ら見れば日本ほど「四季」を感じられる国はないようです。北海道の自然も人気
がありますが、世界有数のパウダースノーを誇るニセコも今や世界の「NISEKO」
となっているといわれています。
 2013年には、ついに「和食」がユネスコの世界無形文化遺産に登録されました!
和食の最大の特徴は、季節感です。つまり、和食は四季がある日本だからこそ成
立した「旬の文化」なのです。「おいしい!美しい!ヘルシー!」で、世界的な
和食ブームといわれる昨今、2013年の海外消費者調査では、中国、香港、台湾、
韓国、フランス、イタリアの6ケ国で「好きな外国料理」のトップに「日本料理」
が選ばれました(ジェトロ調べ)。
 ユネスコのHP上で確認すると、日本の世界遺産登録数は19(文化遺産15、自然
遺産4)となります(2015年7月現在)。古都京都の文化財は1977年、富士山は2013
年に登録。この登録数と訪日外国人客数との相関関係はあるようです。
 日本人にとって当たり前の日本の伝統技術へのこだわり、品質へのこだわり、
ほんまもんの文化、さらには温泉やUSJのようなテーマパーク、ロボットなどの
先端技術やゲーム、アニメ技術等々、日本あるいは日本企業の独自性を再認識し、
「Made in Japan」を発展させることが極めて重要であるように思います。

■地方創生への期待
 過日、京都商工会議所で増田寛也氏の「地方創生」の話を聴く機会がありまし
た。少子高齢化が進み、2050年には、日本人の人口は1億人を大きく割り込み
9708万人となり、そのうち65歳以上の高齢者の割合は38.8%と推定されています。
その後も人口減少と超高齢化社会が進みますが、何とか人口8千万人を維持した
いという。東京一極集中が進む中、地方消滅の危機を何とかインバウンド・ビジ
ネスで救えないか? 救世主にならないか? 先に述べた大型クルーズ船、地方
空港そしてLCC「格安航空会社」が切り札にならないか?
 昨年、我が国へクルーズ船により入国した外国人旅客数は、一挙に前年比2.7
倍の約111.6万人となりました。これは中国からのクルーズ船の寄港増加などが
要因ですが、過去最高の965回の寄港があり、博多港245回(前年99回)をトップ
に長崎港、那覇港の順となりました。ホテルにもなるクルーズ船の需要は今後も
伸びるものと思われます。
 また現在、日本国内に97の空港が存在しています。かつて地方空港を「作りす
ぎ」、「無駄な公共投資」と揶揄され、開港当初は閑散としていましたが、今や
茨城空港や富士山静岡空港は中国ほかチャーター便や観光客の拠点空港として新
たな活路を見出しています。北海度の新千歳空港や旭川空港などの外国人利用客
も大きく伸びています。さらに、JRと航空各社はこうした外国人向けに割安の専
用チケットで、外国人旅行客を地方に呼び込み、人口減少に伴って利用客が減っ
ている地方路線の維持・活性化につなげたい考えです。
 一方、日本を代表する観光都市京都は、世界で最も影響力があると言われてい
るトラベル雑誌「トラベル+レジャー」(2015年)が発表した「ワールド・ベス
ト・アワード」によれば、世界の人気観光地ランキングで1位になりました。
 日本における伝統産業は厳しい環境の中ですが、岩手県の南部鉄瓶は世界ブラ
ンドとして復活し、中国需要が急激に伸びて半年先まで予約待ちという状況です。
京都の漆器や焼物、人形、版画ほか、既に色々なアプローチをされていますが、
まだまだ世界に知られていない伝統産業が沢山あります。ブルーオーシャン市場
として、インバウンドの怒涛の勢いに乗じたいところです。

 最後に、東京オリンピック開催に向けて訪日外国人客が2020年前後大きく伸び
ることが予想されます。観光、飲食、ホテル、ショッピング等々、インバウンド
・ビジネスが地方創生に大いにインパクトを与えることを期待するところです。

(参考文献)
・インバウンドの衝撃-外国人観光客が支える日本経済 牧野 知弘著

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■執筆者プロフィール

 ヒーリング テクノロジー ラボ  代表 下村 敏和

 ITコーディネータ