■ はじめに
阿倍晋三首相は、3本の矢で「1億総活躍社会」を目指し、GDP600兆円を目標に
設定された。この600兆円を達成するためには、ものづくりで約150兆円を達成し
なければ残りの約450兆円の達成は難しいのではないかと思われる。
すなわち、ものづくり以外のサービスビジネスを含めた分野への付加価値の波及
効果の期待である。
一方、「世界は一段とグローバル化・ボーダレス化し、一層の大競争時代を迎
えつつある」といわれている。このような環境の中、日米欧の製造業のビジネス
は大きく変貌しつつある。ドイツでは,次世代製造業の「スマート化」のために急
速に進展する情報通信技術(ICT: Information & Communication Technology)
を活用し、国際規模で展開されるサービス指向ビジネス実現のために新たな潮流
となるサイバー・フィジカル・システム(CPS: Cyber Physical System)を用いた
“第4の産業革命”を実現しようとしている。また,このような取組みは、米国
においても活発におこなわれている。
ここでは,このドイツを中心としたIndustrie 4.0および米国を中心とした
IoT(Internet of Things)のビジネスにおける活用を反映したIndustrial
Internet Consortiumについて概説する[1]。
■ Industrie 4.0(インダストリー4.0)[2],[3],[4]
2011年11月、ドイツ政府は「ハイテク戦略2020行動計画」を策定した。
この行動計画には、5つの重点分野と10個の未来プロジェクトが含まれている。
この中の1つとして情報通信技術の製造分野への統合戦略「Industrie 4.0」を
採択した。このCPSのコンセプトは、インターネットなどの通信ネットワークを
利用し工場の内外の設備機器や業務パッケージ
(PLM: Product Lifecycle Management,
CRM: Customer Relationship Management,
ERP: Enterprise Resource Planning,
SCM: Supply Chain Management)
でモノやサービスを「つなげる」ことである。
CPS実現のキーワードは、3D-Digital Model, RP(Rapid Prototyping),Robots,
Sensor Technology, M2M(Machine to Machine), IoT(Internet of Things),
Autonomous, Man-Robot Collaboration, Big data, Standardなである。
この活動の狙いは、新たな価値の創造であり、そのビジネスモデルは、個客(顧
客一人ひとり)が、自分の欲しいものを大量生産と同等の品質と低コストで実現
できる「マスカスタマイゼーション」にある。
すなわち個客の要望は、生産設備を「レゴブロック」のようにモジュール化し自
由な組合せ・交換により実現しようとしている。
この活動の注目点は、ドイツの産官学が一体となってサイバー空間(デジタル
空間)とフィジカル空間(物理空間)を同じような空間として扱いものづくりの
仕組み全体を国際標準化しようとしていることである。
すなわち前述のレゴブロック同士の組合せが標準インターフェース化され“レゴ
ブロックの中身”は、自由に機能・性能実現ができるように進められようとして
いる。この仕組みが国際標準化されれば、5大陸にまたがるものづくり連携が容
易に実現できるメリットは大きい。
■ Industrial Internet Consortium [5],[6]
米国では、2014年3月にGE,AT&T,CISCO,IBM,INTELの5社が生産インターネッ
ト(Industrial Internet)や モノのインターネット(IoT)に関する普及推進団
体: Industrial Internet Consortium(IIC)を創設し、OMG(Object Management
Group)が事務局を務めている。
IICは、オープン相互運用基準やスマートデバイス・設備機器・利用者・プロセ
スおよびデータを接続するための共通アーキテクチャーを明らかにし具体化する
と共に、米国のCPS構想へ反映しようとしている。
対象革新産業分野は、エネルギー,ヘルスケア,製造,運輸,行政などである。
IICへの参加はオープンで、全世界で100社を超える企業や団体が加入している。
■ おわりに
日本では、1995年4月に10年間の国際協力プログラム:次世代知的生産システ
ム(IMS: Intelligent Manufacturing Systems)が開始され米国・カナダ・オース
トラリアなどの各国が参加し、30以上のプロジェクトが実施された。
その成果はISO/TC184に反映され大きな成果をあげた経緯がある[7]。
これらの大きな経験・実績を踏まえて欧米の動向を把握しながら日本が培ってき
た独自の「強み(例:センサー技術,すり合わせ技術)」を訴求ポイントとして
“第4の産業革命”への強みとなることを強く期待する。
一方,この“第4の産業革命”は、世界市場の主導権を握ろうとする日米欧の
熾烈な競争が予想される。
安倍晋三首相が先導する科学技術立国日本が、是非ともこの主導権を握りGDP600
兆円の達成を期待したい。
参考文献
[1] 柏原秀明:“ものづくりの新たな潮流-第4の産業革命-”,NAIS Journal
Vol.10,p.60,2015.9.30
[2] 高橋敦:”ドイツで見えたスマート工場の未来”,日経ものづくり,
pp.65-73,2015.6
[3] JETRO: https://www.jetro.go.jp/jfile/report/07001735/07001735a.pdf
[4] JST: http://www.jst.go.jp/crds/pdf/2014/RR/CRDS-FY2014-RR-04.pdf
[5] IIC : http://www.industrialinternetconsortium.org/
[6] 一般社団法人日本OMG : http://omg.or.jp/
[7] MSTC: http://www.mstc.or.jp/activity_report/ims/
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■執筆者プロフィール
柏原 秀明(Hideaki KASHIHARA)
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