寿命タイマー・経済合理性の悪魔 / 丸山 幸宏

<目次>
(1) 下駄箱編
(2) 25年以上現役の、吊るしのスーツ編
(3) 25年以上現役の、マウンテンバイク(MTB)編
(4) 19年目のクルマ編
(5) 15年目のブラウン管テレビ編
(6)「りんごタイマー」編
(7) ITのアーキテクチャを企画・設計するときのアプローチ編

<まえがき>
・この春に引越しをしまして、いろんな”もの”を振り返ることを強要され、気付かされたこと、に触れてみたいと思います。
・しばらくの間、旧宅と新宅の両方を使えるという、ぜいたくな事情から、まずは”今”必要なものだけ持っていく様にして、何度か繰り返すうちに、残ったものは概ね処分しても構わないよね、という強制ダイエット大作戦を企てました。
・先に結末を触れますが、もう秋だというのに、未だ旧宅に依存した生活を送っておりまして、引越しダイエット大失敗です。

「発掘あるある、こんなもの、あんなもの」


(1) 下駄箱編
・靴箱に入ったまま履かなくなった靴は処分、たまにでも履くものは残す。そうすると、お気に入りのものは、ソールを交換したりして使い続けているんですね。
・90年頃に海外で買ったコールハーンの革靴、これまでに紐とヒール部の交換のみで、現在も月に2、3度履いています。
・同じ頃に買ったリーボックのバスケットシューズ、これも紐の交換のみで、現在もメンテナンス作業靴として使っています。その後買ったたくさんのスニーカー等一体成形のものは、樹脂素材の劣化が速くて皆短命だったのに、このバスケットシューズは驚きの寿命です。
・ナイキ配下となった後のコールハーンの革靴、新記録の速さでソール革(靴底の前側)が摩耗して、ヒール(かかと)より先にソールを樹脂製に交換、紐も早々に劣化して交換、ヒールがまだ大丈夫なのに内装まで劣化し始めてしまい引退が近そうな状況です。
「製品の寿命タイマー、どんどん短くなってるぞ、儲かってる大企業さん !」と言いたくなります。

(2) 25年以上現役の、吊るしのスーツ編
・この頃の”ちょっといい”吊るし(オーダーメイドではなく店に置いてある既製品)は、生地もそこそこいいものだし、内装も丁寧で、今の吊るしよりずっといい仕事がされていました。
・祖父が仕立て職人で洋服店を、父親もテーラードの紳士洋品店を営んでいたこともあり、子供の頃に選び方を仕込まれていたんでしょうか、未だにスーツは裏側ばかりをチェックしています。
・チェック順は、(a)見た感じのたたずまい (b)生地触感 (c)着心地 (d)襟と肩の作り (e)内装の仕上げ、といった感じでしょうか。
・お付き合いのポイントは、「使ったら休ませる」で、連続して着ないことでした。

(3) 25年以上現役の、マウンテンバイク(MTB)編
・未だにほぼ毎週末使っています。恐るべし”ちょっといい”MTBの耐久性です。
・基幹部品である、3つのハブ、前後のギヤ&ブレーキとペダルが、未だにオリジナルのまま使えています。今時珍しく、サドルが本革です。
・ゴム・樹脂部品は消耗品ですが、雨と紫外線を避けて保管して、定期的にケアすると長持ちします。もちろんタイヤ、ワイヤー類、ブレーキシューは何度か交換。
・不思議なことに、ハンドルバーのグリップ(握るところの部品)が、ゴム製だけど肉厚なためか、未だにオリジナルです。定期的に回して、力のかかるところを分散させているのが幸いしているのかな。

 

(4) 19年目のクルマ編

・およそ20万Kmお共してくれている相棒です。これまでにゴム・樹脂製の消耗品はいろいろと交換して来ましたが、基幹部品であるエンジンや駆動系は、定期メンテ以外手がかかっていません。
・タイヤ・オイル・ブレーキパッド以外で交換した主なものを例示すると、以下となります。
 (a) 消耗品:ショックアブソーバ x 4
 (b) 消耗品:シャフトブーツ(ドライブシャフトのエンジン側&タイヤ側の接続部分の樹脂カバー) x 2
 (c) 予防保守:エンジンのタイミングベルト&ウォーターポンプ周り
 (d) 予防保守:ブレーキのマスタシリンダー x 2
 (e) 消耗品巻き添え:パワーウィンドウのワイヤー巻き上げパーツ劣化で、なぜかユニットごと x 2
 (f) 消耗品巻き添え:ドアミラーの折りたたみギヤ劣化で、なぜかユニットごと
・(e)と(f)は、コンポーネント指向の設計・製造が流行ったことでたった10g程のギヤ山が摩耗しただけで、1ユニット3万円以上もする”一体部品群”として交換せざるを得ないもので、DIYをある程度する者からすると、いろんな合理性に流されて一部の(マイナーな)ユーザ利益に目をつぶっているぞ、と思うところ。
(f)のもう一方も同様の不具合が出たのですが、DIYで工夫して「手でたたむドアミラー」として延命措置を施しました。

(5) 15年目のブラウン管テレビ編
・旧宅には、未だに稼働中のソニーのブラウン管テレビがあります。100kgのテレビはクレーンを手配して2Fのベランダから運び出さねばならず、そこそこの液晶テレビが買える見積をもらい、引越し先へ持って行くのを断念しました。
・このテレビ、7-8年目に”ソニータイマー”が作動しましたが、出張修理担当者が想定で持参した「よくある部品交換」で復活しました。今度タイマーが作動したら、もう部品がないので引退かな。しかし運び出すコストを考えるとインテリアとして家と心中かな。

「寿命タイマーへのささやかな抵抗」


・昔「ソニータイマー」、今「りんごタイマー」、次「自分タイマー」
・この5つの例から、「いいつくり」が手から離れていくと、悲しいかなその寿命を受け入れざるを得ないことが見て取れます。
 (1)靴や(2)スーツは職人さんが、(3)はDIYでまだまだお気に入りを使い続けることができそうですが、(4)クルマや(5)テレビはそうはいきそうにありませんね。
・その典型例が「家電製品」で経済合理性のもとに仕組まれた「寿命タイマー」が必ずいつか作動します。
 賢い家電ほど、便利な家電ほど、寿命が短いような気がします。
・「IT製品」に至っては、悪魔のごとき経済合理性のもと、理不尽と思える様な「寿命タイマー」が横行している気がします。

(6)「りんごタイマー」編
・バッテリー劣化やメモリ枯渇という寿命タイマーは、重複する機能をそれとなく売り続けることと同様に、とっても経済合理性に叶った優れたビジネスモデルで、りんご教のお布施のようなものですね。
・仕事でiPhone + iPad + MacBookAir、家でiMacという私の場合、もう抜けられませんからね。
・我が家の古いiMacは、ハードディスクが3世代目で、メモリは当初1GBからせこく小刻みに増やして現在4GBで、未だリビングで現役です。
・我が家の白いMacBookは、バッテリーレスだけど、Windowsマシンとして、未だ現役です。
・一方、仕事で使っているMacBookAirは、バッテリー持ちが悪くなってきたのでそろそろ引退。
 携帯電話は、iPhoneの3G->3GS->4->5Sと来ましたので、家にはコレクションのようにゴミとなったiPhone・iPodTouchがそれぞれ複数台あって、iPadやiPadMiniの古い世代機はぼちぼちバッテリー劣化と機能制約が気になり始め、タイマー作動待ちのりんご機器が全部で5台ほど控えています。

「ITに携わる者として、寿命タイマーと向き合う」


・システムの寿命タイマー、EOL(End Of Life)というとてもやっかいな管理指標があります。
 それぞれ違う寿命タイマーを持った、様々なハード・ソフト・ミドル・その他構成要素をバランスさせて管理するのが、世間のIT部門の大事な仕事です。
・ところが、基本的に、より短命な構成要素が引き金になって、関係する構成要素も引き連れて、何らかの対応が必要になります。

 システムの数が増えると、これらの構成要素はかけ算でどんどん増えてしまいますから、その保守対応もどんどん複雑になってしまいます。
・昔、先輩によく聞かされた「システムは建築と同じ !」、まず”アーキテクチャありき”です。
 業界構造が似ていることとして、よく引き合いに出されますが、内部構造が似ていることとしても習いました。
・家を建てるとき、いい”基礎と躯体”がすべての源で、”水じまい”が保守の要だと教わりました。
 システムも同じだと思います。
 ”アーキテクチャ”がすべての源で、”複雑さと利用者利益の両方と向き合ってバランスさせること”が要だと思います。
・少々乱暴ですが、この源の能力が「IT部門の企画・設計力」、要の能力が「IT部門のマネジメント力」と言い換えることもできると思います。
 その意味で、とりあえずの御用聞き保守は、いたずらにシステムを複雑にして寿命を縮めるだけでなく、保守性他の能力も下げてしまいます。つまり、延命のさせ方次第で、Quality of Lifeが下がるんです。

「最後に、”アーキテクチャありき”を少し補足しておきます」

 

(7) ITのアーキテクチャを企画・設計するときのアプローチ編(経営の中期計画程度がInput)
・EA(Enterprise Architecture)という方法論があります。電子政府ということばが流行った頃のものなので、15年以上前からあるものです。
 これは、全体を4つに分けて考えて、それぞれの関係を踏まえて、言って見れば”基礎+3階建てで考える”フレームワークとなります。

  (a) 基礎:TA(Technical Architecture)
 ・アプリケーションで使用されるテクノロジーとITコンポーネントを記述するために使用
  (b) 1階:AA(Application Architecture)
 ・ビジネスプロセスをサポートするサービスやアプリケーションシステムを記述
  (c) 2階:IA(Information Architecture)
 ・プロセスの関係者やアプリケーションの間で、やり取りされる、ビジネスの目標とデータを記述
  (d) 3階:BA(Business Architecture)
 ・ビジネス戦略を定義し、組織の構造とビジネスプロセスを記述

・シンクタンクのガートナーによると、EAの定義は以下の様になります。
「EAとは、エンタープライズの将来の状態を記述し、その進化を可能にするような主要な原則とモデルを作成・伝達・改善し、ビジネスの構想と戦略から、効果的なエンタープライズの変化を生み出すプロセスのこと」
・んー難しい。次回はこのあたりをかいつまんでみたいと思います。

------------------------------------------------------------------------
■執筆者プロフィール

Yukihiro Maruyama(丸山幸宏)
 ボスはインド人。夢は外から地球を眺めること
Principal Consultant
 得意分野は、グローバルなソーシング・EAとITポートフォリオ管理
日本インフォビューテクノロジス(株)
ITコーディネータ
http://www.ivtlinfoview.com/

コメントをお書きください

コメント: 2
  • #1

    坂口幸雄 (日曜日, 08 11月 2015 23:03)

    大変興味深い内容でした。IT業界と建築業界は共通点がある。
    システムは建築と同じ!」、まず”アーキテクチャありき”である。
    しかし業界の歴史の長さに差があるので、業務の成熟度には大きな差があると思います。
    http://www.itc-kyoto.jp/2013/04/22/it%E6%A5%AD%E7%95%8C%E3%81%8C%E5%BB%BA%E8%A8%AD%E6%A5%AD%E7%95%8C%E3%81%8B%E3%82%89%E5%AD%A6%E3%81%B6%E3%81%93%E3%81%A8-%E5%9D%82%E5%8F%A3-%E5%B9%B8%E9%9B%84/

  • #2

    丸山幸宏 (木曜日, 24 12月 2015 17:07)

    坂口さん、
    コメントありがとうございます。
    #先ほどたまたまここを徘徊して気付きました、亀レスご容赦を。

    なるほど、成熟度であり遂行能力そのものに、いろんな差がありますねー。

    若い頃は、この伸びしろに業界の可能性を感じたものですが、グローバルでの競争力を考えさせられることがあり、外に身を転じてみました。