自社の損失コストを把握していますか? / 柏原 秀明

■はじめに
 日本経済は,阿倍晋三政権になって徐々に上昇に転じ好機になるだろうと期待
されている。また,このような経済環境から就職状況も好転し若人達にとっても
一安心である。この一安心できる状況の中でこそ,自社のビジネス活動において
“新しいビジネスを考える”と共に“日常的に発生している損失コストを考える”
を振り返ってみてはいかがだろうか。ここでは,気づいているようで気づいてい
ない重要課題である“日常活動で発生する損失コスト”につて述べる。

■損失コストの発生源とその巨額損失コスト 
日常活動における損失コストの発生源は,例えば製造業では“経営活動”,“企
画・マーケティング活動”,“研究・開発活動”,“製品開発・設計活動”,
“製造活動”,“販売活動”,“サービス・メンテナンス活動”,“広報・宣伝
活動”,“人事活動”,“財務活動”,“情報システム運用活動”など様々な活
動の中にある。言い換えれば,全ての活動の中に“損失コスト発生の芽”は常に
潜んでいる。これらの“芽”は,誰にも察知されずに密かに双葉となり根・茎・
葉と大きく成長するのである。この大きく成長した段階で初めて“何かおかしい”
と気づいたり,顧客・消費者からの“強いクレーム”で気づかされるのである。
しかし,気づいた時には,既に“手遅れ”である。初めてその損失コストが,予
想以上の巨額さに驚き目をそむけたくなるのである。
社会的な影響の大きい事件は,マスメディアに掲載され周知されることになる。
例えば,エアバッグ事故のT社(損失額556億円)や建築用免震積層ゴムの性能
基準偽装のT社(損失額140億円)そしてファーストフード用鶏肉の期限切れ利
用・床に落ちた鶏肉をそのまま機械に投入利用したM社(損失額380億円)などが
ある。この事件から,諺の「後悔先に立たず」を思い起こす。よって“損失コス
ト発生源の芽”を早期に発見し根絶することがいかに重要であるかが理解して頂
けると考える。

■損失コスト撲滅調査プロジェクトチーム
  損失コスト撲滅のための発生源を調査し,発見・把握・改善・評価する活動は
相当なエネルギーが必要である。よって,プロジェクトチームの設立が有効であ
る。プロジェクト化により“目的・目標設定と投入要員・設備などのコストおよ
び有期間内に成果を出す”ことが明確にできるからである。このチーム活動を
PDCAサイクルの手順にしたがって説明する。

●Plan(計画)
自社のビジネス活動を全体的に鳥瞰し図・表などプロジェクト内で情報共有でき
る資料を用意する。この資料に基づいて損失コストの発生源となる実施活動対象
を設定し,想定される作業項目(WBS: Work Break Structure)と要員割当てを
中心におこない「損失コスト撲滅調査プロジェクト計画書」を作成する。ここで,
想定規模の大小もよるが,事前に予備調査をおこない損失コストが大きいと推測
される部分を中心に開始することが肝要である。

●Do (実行)
・損失コストの現状把握
「調査プロジェクト計画書」に基づいて推測される具体的な損失コスト発生源の
現状把握をおこなう。この現状把握の調査は,事実データの収集をおこなうため
に重要である。この事実データ収集活動は,五現主義:「現場」,「現実」,
「現物」,「原理」,「原則」に基づいてヒアリング・調査を丁寧・十分におこ
なわなければならない。特にヒアリング時に納得・理解できない場合には,トヨ
タ生産方式の「なぜなぜ分析」のように損失コストの発生源の主原因が浮き彫り
にされるまで把握・理解する姿勢が大事である。また,損失コストの把握には
“定性的把握”と“定量的把握”とがある。“定性的把握”は,それを“大・中
・小”額の分類で表わし把握することである。一方,“定量的把握”は,どの程
度の損失コストが発生しているかを数字(金額)で示し把握することである。つ
ぎにこの数字と本来の妥当な数字(コスト)とを比較すると共に,これらの収集
された一連の事実データを纏めて「損失コストの現状把握調査結果報告書」を作
成する。

・損失コストの見える化と見せる化
「現状把握調査結果報告書」に基づいて損失コストの“定性的分析”と“定量的
分析”をおこないいずれの活動が,優先的に損失コスト撲滅活動として実施され
るべきかを評価し,「損失コストの調査分析・評価報告書」を作成する。この結
果を自社内で通達・告示し“損失コストの見える化と見せる化”を徹底する。こ
の通達・告知後,優先的に実施すべき活動グループには,「損失コスト撲滅(改
善)指示書」を作成し,その活動グループに提示と助言をおこなう。

注記)「損失コスト撲滅(改善)指示書」を受領した活動グループは,本撲滅調
査プロジェクトチームの助言・支援を受け“損失コスト撲滅プロジェクトチーム”
を結成し具体的な撲滅活動をおこなう。

●Check(分析・評価)
損失コスト撲滅調査の実行結果に基づいて,当初設定された目的・目標とその成
果について,活動内容・方法・手順・費用などの視点から分析・評価する。

●Act(改善)
 分析・評価に基づいて改善点を明確にしこの指摘を“第2弾の損失コスト撲滅
調査プロジェクトチーム”に反映させ新たなPDCAサイクルの実行に移す。

■おわりに
“固太り経営”で勝者になるためには,“仕事は一度で正しく”が基本である。
また,衆知の言葉である“乾いた雑巾(ぞうきん)を,まだ絞ってムリ・ムダ・
ムラを絞り出す”ことを日頃から励行されることが肝要である。
経営破綻した企業の末路は悲惨である。経営資源(ヒト,モノ,カネ,情報)は
枯渇し,顧客には多大な迷惑をお掛けし,自社・協力企業の社員・家族は路頭に
迷い,社会的貢献はおろか憎悪のみが渦巻くことになる。是非,今日から“自社
の損失コストの把握”をされることをお勧めする。


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■執筆者プロフィール

柏原 秀明(Hideaki KASHIHARA)
京都情報大学院大学教授,柏原コンサルティングオフィス代表
NPO法人ITC京都 理事,一般社団法人日本生産管理学会関西本部 幹事
博士(工学),ITコーディネータ,技術士(情報工学・総合技術監理部門),
EMF国際エンジニア,APECエンジニア