1.行動を迫る情報
たとえば、クルマを運転していて横断歩道に歩行者を見つけたら、すぐブレーキ
を踏むだろう。「横断歩道に歩行者」(情報)→「ブレーキを踏む」(行動)、
というわけで、情報が行動に直結する典型例である。この場合、行動を先延ばし
にすることはあり得ない。
情報のこうした機能を行動切迫性とでも呼んでおこう。とすると、企業活動にお
いても、こうした行動切迫性をもつ情報がきわめて重要であることが推測できる。
最大の取引先から重大なクレームが入った場合、競合が自社にとって致命的な新
商品を出した場合など、直ちに的確な対応を迫られる。こうした情報を掴み損ね
たり、その意味を理解しきれなかったりした場合の影響は甚大なものがある。
目の前のことだけではない。3年後、5年後を考えた場合、いま舵を切っておか
ねばということもあり得る。この場合、時間的には中長期だが、対応は迅速にす
る必要がある。任天堂のようなゲーム機メーカーは、スマホ黎明期にいち早くス
マホの可能性を理解し、ゲームアプリへと舵を切るべきではなかったか。「いま
このタイミングを逃したら手遅れ」ということがあり得るのである。
2.情報の適切な分類
企業の中には膨大な情報がある。参照すべき外部情報も膨大である。が、その中
で行動切迫性をもつ情報は、おそらく少ない。そして、情報の海の中に紛れてい
る。が、それを探し出すことはきわめて重要である。企業活動は各組織行動から
なり、各組織行動は各人の行動からなる。行動が適切に起動されなければ、企業
活動は重大な問題に直面するであろう。それゆえ、情報と名のつくものの中で、
行動切迫性をもつ情報はきわめて重要であると言える。
では、それをどうやって見つけ出せばいいのだろうか? その前提として、企業
内の情報を適切に分類把握しておく必要がある。まず、いま述べた行動切迫性を
もつ情報、つまり、行動を起動する情報がある。では、それ以外はどうだろうか。
考えられるのは、一旦起動した行動をできる限り有効に、効率的に継続実行する
ことを支援する情報である。たとえば、受注業務を機会損失なくかつ確実に進め
るためには、在庫情報が常に正確に把握できる必要がある。こうした情報は効果
的で効率的な行動を支援する情報であろう。また、そもそも戦略や計画を立案す
るために必要となる広範な情報がある。そうした情報は日々のオペレーションや
マネジメントを支援する情報とは区別して把握される必要がある。
そして何と言っても注意を払わなければならないのが、その他の情報、つまり、
何に使われているのかわからない情報である。毎日、CCも含め、メールでいろい
ろなデータがエクセル等で送られてくる。誰が使うのかよくわからないデータ、
「ふーん」と言ったままスルーされ、誰の行動をも起動も支援もしないデータ、
だが、作成している側は膨大な時間を費やしているデータ、こうした情報が少な
からずあるのではないだろうか。これは人的資源と時間資源の浪費である。こう
した情報はできるだけなくしていかなければならない。
3.情報と行動を関連付けてデザインする
このように、企業内の情報を適切に分類し、それぞれの情報の機能を見極め、と
りわけ行動を起動する情報を選び出し、それと行動との関係をデザインして行く
といったトータルの情報マネジメントが重要であろう。そうしたことを前提とし
てはじめて、情報を適切に生成し、蓄積し、伝達、活用するためにITが本来の
有効性を発揮するのだと思う。
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■執筆者プロフィール
清水多津雄
ITコーディネータ
企業内ITCとしてITマネジメントに従事
大学・大学院での専攻は哲学
現在、オートポイエーシス理論、とりわけニクラス・ルーマンの社会システム理
論をベースに企業で役立つ情報理論&方法論を模索中
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