SB・CB(ソーシャルビジネス、コミュニティビジネス)を考える / 松井 宏次

 陽の光が変わり、水がぬるみ、日暮れが遅くなりました。春に向けて、樹々が
芽吹き始めています。あちらこちらで、ざわつく気配がある近頃の世情ですが、
心意気を大切にしながら新しい道を拓く人々にお会いできることも多いです。 
 景色が彩りを取り戻して行く季節です。
 今回のコラムでは、NPO法人であるITコーディネータ京都にとって関わり
の深い、ソーシャルビジネス、コミュニティビジネスについて考えてみます。


■SB・CB(ソーシャルビジネス、コミュニティビジネス)
 SB・CBという英字を見て、ソーシャルビジネス、コミュニティビジネスの
略語だと連想する人は、そう多くは無いと思います。略されていなくて、ソーシ
ャルビジネスやコミュニティビジネスと見聞きしても、それが何か今ひとつわか
らないというのが、ごく一般的な受け取られかたではないでしょうか。

 経済産業省などによれば、「地域社会で顕在化しつつある、環境保護、高齢
者・障がい者の介護・福祉から、子育て支援、まちづくり、観光等、多種多様な
社会課題を、ビジネスの手法で解決して行く」ということが、その基本とされて
います。そして、そのためには、「住民や、NPOや、企業といった様々な主体
が互いに協力しあう」のだともされています。

■ソーシャルビジネスの発祥 
 ソーシャルビジネスとコミュニティビジネスの違いが気になることがあるかも
知れませんが、ほとんど同じものと考えて差し支えないようです。
 ちなみに、ソーシャルビジネスの発祥は、自身がそのソーシャルビジネスとい
う言葉を送り出した、かのムハマド・ユヌスのグラミン銀行です。貧困層へ、そ
の自立の支援のためのマイクロクレジット(無担保かつ低利の少額ローン)とい
うグラミン銀行のビジネス。そこでは、自ら仕事をつくるためという使うべき目
的を持ちながら、旧来の融資の枠組には入れない人に対して、「信頼」を支えに
ローンが組まれました。

 不勉強なことに、私自身は、ユヌスがビジネスを組み立てた過程や、成功の要
因をきちっと調べたことは無いのですが、そこには、貧困層という貼られたラベ
ルに囚われないユヌスの視線があったに違いないと思っています。潜在する力を
見抜く力です。

■コミュニティのはたらき
 コミュニティビジネスという呼び方は、ソーシャルビジネスのうちで、より地
域に強く結びつく取り組みを指すものとして使われているようです。
 この「コミュニティ」もひとつの鍵です。地縁・血縁や、地域の文化のなかか
ら自然にかたち作られて来た共同体(コミュニティ)。暮らしの基盤の多くは行
政や公共機関が提供するものですが、日々の暮らしの細部は、その地域の自然発
生の共同体が担って来ました。

 良く指摘されるように、現代では、コミュニティが希薄になり、かつてのよう
なはたらきが失われています。煩わしい他人からの干渉が無くなるいっぽうで、
ちょっとした気遣いなどで賄われていた暮らしの細部が、欠けて来ました。例え
ば、隣に届いた荷物を預り合う、多めの食材をご近所で分け合う、顔見知りの高
齢者をそれとなく見守る、気軽に声を掛け合うなどといった日々の細部です。
 そうした細部への対応が、直接、間接に、コミュニティビジネスの着想に繋が
ります。もちろん、それは、かつての自然発生的なコミュニティでのはたらきか
ら、そのまま取って代わるものでは無いのですが。
 ただし、コミュニティビジネスを有効に成立させるためには、地域の共同体と
しての思いを取り戻すことが重要です。そのビジネスを立ち上げ、継続させて行
くことを、地域で暮らす人々自身のこととして、かたちづくる工夫が欠かせませ
ん。

 先日、地域の農業組織をつくるときに、集落のなかを、お寺や神社への寄進と
同じように考えて欲しい、と説いて回って、営農組合の出資金(一戸あたりけっ
こうな額です)を集めたという話を聞きました。つまり、地域の人に「かたちは
無いが地域が共同で担う大事なことにお金を出すことである。そして、お金を出
したことでの効果(ご利益)は期待するが、それはお金で戻って来るわけではな
い。」と受け取って貰えたということになります。このことは、さまざまな意味
合いを含み、そして示唆に富んでいます。
 
...
 
 モノやコトは、その元々の名前が薄れて来たときにこそ、人々の暮らしに浸透
しているということが、しばしばあるようです。
 さて、このSB・CB、ソーシャル・ビジネス、コミュニティ・ビジネスとい
う言葉も、いずれ聞かれなくなるのでしょうか。そういえば、こういう仕事って
SBやCBって呼ばれてましたね、という風に。

-参考-

[政府広報オンラインからの引用]
  ソーシャルビジネスの定義
(1)社会性
      現在解決が求められる社会的課題に取り組むことを事業活動の
      ミッションとすること

  ※社会的課題の例:
  環境問題、貧困問題、少子高齢化、人口の都市への集中、
    高齢者・障害者の介護・福祉、子育て支援、青少年・生涯
     教育、まちづくり・まちおこし など

(2)事業性
    (1)のようなミッションにビジネスの手法で取り組み、継続的に
     事業活動を進めていくこと

(3)革新性
     新しい社会的商品・サービスやそれを提供するための仕組みを
     開発したり、活用したりすること

[YUNUS CENTRE のウェブサイトからの引用]
  ソーシャルビジネスの7原則
   1.グラミン・ソーシャル・ビジネスの目的は、利益の最大化では
     なく、人々や社会を脅かす貧困、教育、健康、技術、環境といっ
     た問題を解決することです。
   2.財務的、経済的な持続可能性を実現します。
   3.投資家は、投資額を回収します。しかし、それを上回る配当は
      還元されません。
   4.投資の元本の回収以降に生じた利益は、グラミン・ソーシャル・
     ビジネスの普及とより良い実施のために使われます。
   5.環境へ配慮します。
   6.雇用者は良い労働条件で給料を得ることができます。
   7.楽しみながら。

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■執筆者プロフィール

   松井 宏次(まつい ひろつぐ)
   ITコーディネータ 中小企業診断士 1級カラーコーディネーター