この時期恒例となりましたが、私ゼミ所属学生の卒業論文のテーマを紹介しま
す。
テーマは、表題の通りスポーツ観戦の未来です。
ある調査によるとプロスポーツの観戦者数は、厳しい状況が続いています。娯楽
が多様化しているという背景は否定できませんが、スポーツを観戦する人口、と
りわけ競技場に足を運ぶ数は減少傾向にあります。
2020年の東京オリンピック開催という最大のチャンスを有効活用すべく、新た
なスポーツ観戦の楽しみ方を考えてみましょう。
まず、最近注目されたスポーツファン拡大に向けた取り組みを紹介します。
・カープ女子:プロ野球セリーグ・広島東洋カープカープの女性ファンの呼び名
です。男性客中心であったプロ野球の観客増のため、女性ファン向けのイベント
を展開したことからはじまりました。今では、球場に来る観客の40%が女性で、
その内20%強が20代以下という結果を残しています。この動きは、「セレッソ女
子」などサッカーJリーグでも生まれています。
・永久欠番:東北楽天ゴールデンイーグルスは、ファンのために背番号10番を永
久欠番としています。「スターティングメンバー9人に次いで、ベンチ入りする
控え選手の1人としてチームを盛り上げてほしい」という思いから背番号10番を
永久欠番としています。同じ目的で、千葉ロッテマリーンズは背番号26番を準永
久欠番としています。
これらに共通している点の第1は、単に試合を受け身で観戦する立場から、チ
ームの一員として積極的に競技に参加することを促していることです。第2に、
選手とファンの一体感を演出している点です。
■ ソーシャルオリンピックがもたらしたもの
2年半前になりますが、2012 年夏のロンドン大会は史上初の「ソーシャルオ
リンピック」として注目を集めました。Twitter やFacebook といったソーシャ
ルメディアはロンドン大会以前から登場していましたが、世界的にソーシャルメ
ディアが普及して迎える初めてのオリンピックであったといえます。スポーツを
見ながらTwitterで感想をつぶやきみんなで盛り上がるという”観戦”スタイル
もこの頃から定着してきました。
ロンドン大会においては、IOC が公式に選手のソーシャルメディア活用を奨励
する姿勢を示しました。IOCは、The Olympic Athletes’Hub というサイトを公
開し、選手やチームのアカウントを検索してフォローできる機能やフォローされ
ている人数の多い順にアスリートを表示する機能を提供しました。
あと1点注目すべきは、スポーツチーム・選手とファンとの双方向での交流が
拡大していることです。従来は、スポーツチーム・選手からの一方向の情報提供
に限られていたのが、双方向での交流が可能になったことにより選手とファンの
一体感が深まりました。
■ 拡張現実(AR)による体験型オリンピック
これまで見てきたように、スポーツ観戦のスタイルは着実に進化しつつありま
す。「試合への参加型観戦」、「選手とファンの一体感」などとして表現できる
新しいスポーツの観戦スタイルは、今後どのように発展していくでしょうか?
私が注目するのは、ウエアラブルコンピュータと呼ばれる装着型のデバイスと
拡張現実(AR)の融合です。
例えば、選手が身につけたヘッドマウントディスプレイから得られる映像とAR
から得られる競技場の立体的画像を結びつけることが出来れば、選手目線から競
技を体験できます。グーグルグラスのようなメガネ型端末をつけて競技場で試合
を観戦すれば、デジタル情報とリアル情報を合体させた試合への「参加」が可能
になります。
スポーツの観戦は、リアルタイム性と選手、観客同士の一体感が魅力です。ソ
ーシャルオリンピックなどとして注目された能動的な観戦スタイルは、今後どの
ように進化していくでしょうか?
スポーツファンならずとも、気になる分野です。
<参考文献>
・田村豪「スポーツ観戦における拡張現実の活用」公立大学法人宮城大学事業構
想学部事業計画学科:2014年度卒業論文
・金子拓真「スポーツにおけるファンとの関係構築」同上:2013年度卒業論文
・太刀川英輔「史上初!ARで『体験型』五輪」『月刊事業構想』2014年3月号,事
業構想大学院大学出版部
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■執筆者プロフィール
藤原正樹(フジワラ マサキ)
NPO法人ITコーディネータ京都 理事
公立大学法人 宮城大学 事業構想学部 教授
博士(経営情報学)
中小企業診断士 公認情報システム監査人(CISA)
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