■はじめに
多くの企業・組織・団体では,様々な局面で課題解決のためにビジネス会議(以
下,会議)が開催されている。常日頃当たり前のように開催されているこの会
議であるが,開催目的を反映した成果が十分に得られているだろうか。また,
これから開催される会議は,どのようなことに心掛ければ良いのだろうか。会
議一つを取り上げても考えると色々な疑問に気づかされる。ここでは,この“会
議”のあり方について振り返る。
■“この会議原価36万円です”[1]
MDV社では,“会議”の開催目的(獲得目標)を明確にして,必ず具体的成果
を獲得しなければならないと定めている。この会議の具体的成果を評価する場合,
その評価指標を会議原価として一元的に判定できるようにしている。例えば,役
員は12000円/時間(170円/分),部長級は7800円(130円),社員は5000円(84
円)と計算されている。全社員が集まる全体会議で36万円/30分,年間で1728
万円になる。このように,開催される“会議”の原価が予め明示されることによ
って“原価対効果”が,“お金”という尺度で一元的に測定できる。当たり前と言
えば当たり前であるが,“会議原価”という誰しもが納得できる統一指標を導入し
会議の効率を向上させているのである。この考え方に基づいて会議を開催すると
全てが,会議原価と具体的成果で評価される。例えば,議長となる人は,裁量権
と責任をもって,どのような会議でも獲得目標を明確にして具体的な成果を得る
ように努力しなければならない。併せて,時間制約(会議原価)も遵守しなけれ
ばならない。MDV社では,この会議方式を採用することによって,社員の方々が
業務の進め方や問題点を深く考えて効率的に業務が進められるようになったとの
ことである。この事例でわかるように会議を原価で評価する効果が十分に期待で
きることが示されている。
■会議手順について
会議を開催する準備・開催・評価の手順について以下に説明する。
手順-1 :議長の人選
どのような会議においても議長の人選は重要である。対象となる議題に関して
知識・経験が豊富でバランス感覚に優れ会議を円滑に進めるこのできる人が良い。
しかし,このような人選が難しい場合には,議事運営の経験が豊富で参加者にバ
ランス良く意見を聴取し,目的・目標に沿った進行と参加者同士の意見交換・議
論を支援し,合意形成に導くことのできる人が望ましい。
また,議長は,あらかじめ開催する会議の目的に沿った複数の想定獲得成果シ
ナリオを用意しておくことをお勧めする。これは,会議目的そのものの解決が困
難な場合や複雑な場合に有効である。勿論,参加者の意見・意図と異なる結論に
誘導するようなシナリオは論外である。
手順-2 :参加者の人選
議長は,会議の目的に沿った議論ができ,獲得成果が期待できる参加者を人選・
招集する権限を持っている。議長がこの参加者の人選を誤ると会議の開催以前に
期待する獲得成果はすでに低下していることになる。よって,議長権限で参加者
を人選する場合,議長は参加者の特徴を把握し,会議を開催した場合を想定した
イメージトレーニングをおこなうことをお勧めする。例えば,3種類の獲得成果
のパターン:「期待以上の成果」,「期待した成果」,「期待以下の成果」のイメージ
トレーニングである。また,「絶対必要」な参加者が不在の会議は,開催を延期す
るなどの意志決定が必要である。
手順-3:会議開催ルールの設定
会議を開催する前にあらかじめ会議開催ルールを明示することが望ましい。開
催ルールは多様であるが基本となるのは,5W2H:What(何を), When(何時),
Who(誰が), Where(どこで), Why(何故), How(どのように), How much
(いくらで)の視点である。特に“How Much” すなわち「会議原価」の視点が
重要である。この「会議原価」は,会議開催ルールの5W1Hに基づいている。例
えば,会議を構成する要素には,会議開催時間,参加者人数・時間単価,事前準
備・事後処理対応事務局人数・時間単価,参加者の会議のための準備時間,提供
書類数の費用など,詳細に要素を洗い出せば結構な「会議原価」になる。
手順-4:資料の事前配付
会議を開催する前に会議資料を事前配布することによって,あらかじめ,参加
者に会議の目的・目標・期待する獲得成果を良く理解していただける。このこと
によって,会議開催時,短時間で本題に移ることができる。また,参加者は,事
前に獲得成果に到達する具体的な提案などを用意することが期待できる。
手順-5:会議室・設備の準備
議長・参加者が十分に会議に集中できるようにするためには,会議室(広さ・
空調・照明・静音など)や設備機器(プロジェクター,AV機器など)の選定を
十分におこなうべきである。例えば,参加者の体が邪魔してスライドが見えない
とか,文字が小さすぎて見えないとかは十分に配慮する必要がある。
手順-6:会議開催と進め方
議長は,開始時刻になれば参加者の確認をおこない会議を開始し,開催目的・
目標および想定する獲得成果を説明する。そして,議長は,本題である議題にし
たがって資料の説明をおこなうと共に参加者より意見を聴取し,併せて参加者同
士の議論が促進できるように支援する。但し,このような進め方は,会議の開催
目的・目標・想定する獲得成果の前提条件や特徴によって異なってくる。したが
て,会議の進め方はそれぞれの特徴を反映した方法で進めてよい。
設定した終了時刻になれば,議長は参加者に次回開催までの宿題を具体的に設
定し準備するように指示を出しておく。
手順-6:議事録作成・配布
議事録は,事務局が作成し議長および必要な参加者のチェックを受ける。最長
2日間以内に配布することが望ましい。あまり時間が経過すると参加者の記憶が
薄れて正確な議事録にならない恐れがある。
手順-7:会議原価と成果獲得
一連の会議手順にしたがって注目する会議原価を計算する。できれば,項目を
分けてそれぞれの原価を計算しておけば,各項目の原価の妥当性がチェックで
きる。また,獲得成果と開催した会議の効果の評価は,A:「期待以上の成果」,
B:「期待した成果」,C:「期待以下の成果」のような尺度で判定することがで
きる。この結果は,議長と参加者間で共有し次回以降の会議の効率化に反映す
れば良い。
■会議制約
前述した会議手順は,利害関係者などの会議制約がない場合には円滑におこな
うことができる。しかし,現実には,様々な制約が発生し「理想と現実は違う」
と考えがちである。もっともな話である。例えば,顧客との会議では“契約”,“商
談(商品仕入,販売など)”,“技術開発・設計”,“製造”,“ロジスティックス”,
“サービス”,“クレーム・トラブル”などがあり,同様に原材料の仕入れ先との
会議,協力企業との会議,社内会議などのそれがある。このように利害関係があ
り,思うような会議開催や進行ができない制約が発生する。勿論,社内の参加者
であっても「会議に参加する時間がない」,「スケジュールが合わない」などの制
約が発生することもある。このような会議制約は,「会議手順について」を参照し,
できるところから順次対応することになる。
■会議標準策定活動
「会議制約」の項で示したように,現実には社内会議以外は,利害関係が発生
し会議を円滑に進めることができない場合が発生する。このような制約を予め想
定し過去の会議開催の経験を反映して,これからの会議のあり方を考える「会議
標準策定活動」の推進をお勧めする。大きなカテゴリーとしては,社内会議標準,
外部会議標準(顧客,仕入先企業,協力企業など)などである。最初は,社内会
議の標準化活動から始め会議の頻度の多いものから会議手順・必要用紙フォーマ
ットなどを洗い出し,標準化し試行・評価・改善の後,社内標準として確立する。
ここで注意したいのは,最初から完璧な標準を狙わず,実用的に使えると判断し
た段階で社内標準(Version-1)として発行し利用者の意見を聞くことである。この
活動をスパイラル状に進めて,最後に外部会議標準を完成させ運用することであ
る。
■おわりに
“会議”のキーワードでWebを検索すれば,数えきれないほどのサイトがヒッ
トする。沢山の有益なご意見を読むと本当にもっともだと感心する。一方,悪
い会議の例も沢山あり,“他山の石”にしなければならないと感じた。今回の
MDV社の会議原価の評価指標は非常に良い視点である。この視点に加えて各社
独自の特徴を活かした会議標準化活動をおこない「会議標準」を策定・実行す
れば,より効率的な会議が実行でき「会議原価の低減」と「期待する獲得成果」
が得られるはずである。
企業によっては,「もっともな話だが,なかなかそのように上手く会議の仕組
みを運用できない」と言われるかもしれない。しかし,“目に見えない無駄遣
い”が延々と発生し続けることを考えれば,“会議標準策定活動”を設立し活
用に向けて行動しなければならないと気づかれるはずである。企業活動の会議
は,各階層での重要な“意志決定”活動である。“たかが会議されど会議”で
ある。もう一度,“会議のあり方”を振り返ってはいかがと感じる次第である。
注記)「会議の意味」: 関係者が集まって,一定の手続きにのっとり議題につい
て意見を出し,相談すること。出典: 岩波国語辞典,第四版,1988
参考文献
[1] メディカル・データ・ビジョン株式会社(MDV社),「この会議 原価38万
円です」,朝日新聞(夕刊),2014年6月9日
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■執筆者プロフィール
柏原 秀明(Hideaki KASHIHARA)
京都情報大学院大学教授,柏原コンサルティングオフィス代表
NPO法人ITC京都 理事,一般社団法人日本生産管理学会関西本部幹事
博士(工学),ITコーディネータ,技術士(情報工学・総合技術監理部門),EMF
国際エンジニア,APECエンジニア
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