ドイツ流の未来工場ビジョンIndustry4.0 / 馬塲 孝夫

●製造業において、Q(品質)C(コスト)D(納期)は、永遠の課題であり、
日本をはじめとする先進国では、QCD改善のため、ITCを活用した工場の
自動化が積極的に推進されてきました。これを支えているのが、工場の制御装
置(PLC)や、産業用ロボットであり、この分野での日本の技術力は世界1、
2を争い、我が国の基幹産業として、世界を席巻していることは周知のとおり
です。

●一方、日本と同様に工場の自動化に高い技術を持つ国にドイツがあります。
近年、このドイツにおいて、将来目標とすべき未来工場のビジョンIndustry
4.0が発表され、話題になっていますので、今回は、この新しい動向について
紹介します。

●Industry4.0の命名には、第4次産業革命の意味が込められています。第1
次は、18世紀後半に起こった蒸気機関による機械化、第2次は19世紀後半
から始まった電力活用による大量生産、第3次は、20世紀後半からの、電気
とITを組み合わせた工場用制御装置(PLC)による自動化技術の出現です。
そして、その先に来るのが第4次産業革命で、まさに、それが、Industry4.0
が担おうと目指すものなのです。

●この構想は、2012年に公布されたドイツ政府の戦略的施策「高度技術戦略の
2020年に向けた実行計画」に沿って、産官学の共同プロジェクトとして開始さ
れ、2013年に、世界的な工作機械見本市であるハノーバーメッセで、最終報告
書が発表されました(参考文献)。このプロジェクトはドイツの国家戦略によ
るものですので、ドイツを代表する研究機関、大学に加えボッシュ、シーメン
ス、SAP、ティッセン、TRUMPF,ダイムラー、BMW,ドイツテレコ
ム等、ドイツの名だたる企業が多数参加しています。

●では、Indutry4.0とは、いったいどのようなものでしょうか。また、従来の
考え方と何が違うのでしょうか。資料によると、コンセプトは壮大で、「世界
が直面している問題を工場が解決する」とあり、その具現化として「サイバー
フィジカルシステム」によるスマート工場を目指しているとの事です。言葉だ
け見ると理解が難しいのですが、要は、現在進行中の、工場用制御装置PLC、
産業ロボット、各種工作機械、搬送装置等ITと装置を組み合わせたオートメ
ーション化を更に進め、工場全体の完全ネットワーク化により、需要に応じて
瞬時に生産計画を策定し、迅速に生産を完了する、非常に柔軟な生産工程を実
現する事を目標としていると言えましょう。技術的には、センサ技術、ビッグ
データ、バーチャル設計技術、通信技術を活用し、どんな企業の生産設備や、
管理システムにも繋がる「工場用ネットワーク」を備え、「ダイナミックセル
生産」方式により、顧客ごと、製品ごとに異なるデザインや構成、注文、計画、
生産、配送を無駄なく円滑に実現する事を目指しているのです。

●ここまで読むと、「なんだ、そんな事、トヨタ等の日本の先進的な工場で既
にやっていますよ。」と言われるかもしれません。確かにそうですが、現在は、
あらゆる生産設備を標準的なネットワークで繋いだり、顧客管理、製品設計、
生産、配送等を一気通貫にシステム化したりする事は未だ出来ていません。
Industry4.0は、現状のレベルを一段上げ、ICTにより守備一貫したシステ
ム構築を可能にしようというものなのです。また、単に無人化工場を目指すの
ではなく、自動化と、作業者の協調生産システムをICTにより構築し、労働
者のモチベーション向上、そして、ドイツらしく、生産による環境負荷低減ま
でを、ICTで実現する事を目指している事も新しい点です。

●このように、ドイツの目指す、未来工場ビジョンIndusty4.0は壮大です。そ
して、内容はやや抽象的ではありますが、製造業の最先端国らしく、その方向
性は間違っていないと思います。日本や米国の生産技術者も、ほぼ同様な考え
をもっていると言えるでしょう。では、いつ、このようなシステムが実現する
のでしょうか。主要メンバであるシーメンスの担当役員は、実際の工場に採用
されるのは2030年頃と予想しているようです。

●以上、ドイツが目指す、未来工場のビジョンIndustry4.0を紹介してきまし
た。そのコンセプトの一例は、既に今年のハノーバーメッセでデモ展示されて
います。Industy4.0は、将来のスマート工場実現の推進役として非常に重要な
役割を果たすと考えられますが、一点、忘れてはならない視点があります。そ
れは、ドイツが、このようなビジョンを国家戦略として推進する意味合いです。
私は、この裏には、工場、生産システムのすべてを繋ぐネットワークの標準化
の主導権を確保し、基幹産業である産業用機器の優位性を保とうとの戦略があ
ると思います。そして、このような標準化作業は、ドイツは元来得意な国なの
です。このような、思惑を充分に考慮しながら、わが国の政府、業界関係者は、
日本流の未来工場実現に向けて、対応していかねばならないと思います。

参考
・Industrie 4.0 ワーキンググループ最終報告書(2013)-英語版-
 http://www.plattform-i40.de/sites/default/files/Report_Industrie%204.0_engl_1.pdf

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■執筆者プロフィール

馬塲孝夫(ばんばたかお) (MBA)

ティーベイション株式会社 代表取締役社長
(兼)大阪大学 産学連携本部 特任教授
(兼)株式会社遠藤照明 社外取締役
URL: http://www.t-vation.com

◆技術経営(MOT)、FAシステム、製造実行システム(MES)、生産産情報
 システムが専門です。◆

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コメント: 1
  • #1

    倉田 忠彦 (火曜日, 09 12月 2014 09:17)

    本日(2014.12.09)の日経新聞の1面にIndutry4.0のことが出ていますね。ドイツと中国との標準化の協力も気になります。ご指摘のように日本もこれまでのように企業単位では太刀打ちできそうになく、政府、業界あげての対応が必要ですね。