システム構築に於ける成果報酬型契約の可能性 / 藤原 正樹

 今回は、システム構築プロジェクトに於ける成果報酬型契約の話です。

 私の大学の博士後期課程に在籍されている社会人大学院生の方の研究テーマで
す。ITコーディネータを始め、ITを活用したビジネス変革に取り組まれている方
には重要なテーマだと思いますのでメルマガで取り上げました。

■ 成果報酬型契約とは?!
 成果報酬型契約とは、構築したシステムがビジネス上の成果(利益の増大、コ
スト削減など)を生み出した達成度に応じて、システム構築対価を増減させると
いう契約です。構築・納品したシステムがビジネス上の成果を生み出せばその成
果に応じた報酬を受け取りことができるが、ビジネス上の成果を生むことが出来
なければ報酬が減額されるという契約です。

 従来、企業などがシステム構築をITベンダーとの間で契約する場合、システム
開発規模の見積もりを元に委託契約をするのが一般的です。「要件定義」という
作業で、システムの機能と範囲を確定した後に、開発作業全体の規模と費用、納
期を確定し契約します。
システムが完成し納品が完了すれば、開発を受託したITベンダーはこの契約に基
づいた報酬を受け取ります。
ITベンダーが投入した原価を元にその提供価格を設定するため、合理的な契約で
あると思われますが、大きな課題がありました。
 それは、構築したシステムがその後、ビジネスにどの程度貢献したかが一切問
われない契約であるという点です。

 このメルマガの読者の中にITベンダーの方がおられたら、「そんなことは当た
り前のことだ。構築したシステムを活用して、どのようなビジネス的成果を生む
かは、発注した企業の側の課題で、システムを構築したわれわれITベンダーの責
任範囲外だ。」と言われると思います。
確かに、システム構築を受託するITベンダーにとっては当たり前のことでしょう。

 ところが、システム構築を発注した企業の社長の立場に立てばどうでしょうか?
大枚をはたいて構築したシステムなのだから、投資額に見合った十分な経営上の
成果を生んで当たり前と考えるでしょう。

■ ユーザー企業とITベンダーの利害対立
 システム構築プロジェクトが成功するには、発注側であるユーザー企業と受託
側であるITベンダーが協力してWin-Winの関係を築くことが大切であると言われて
います。

 しかし、実際に企業の行動論理を考慮すると、そのような”きれいごと”は通
用しにくいことが解ります。ユーザー企業の担当者は、その経営層からより低コ
ストでビジネス上の効果のより高いシステムを構築することを求められます。他
方、ITベンダー側は、より高い売上げ(ユーザーから見ると高コスト)になるシ
ステムを低い原価で構築することを求められます。さらに、システム構築の段階
では、発注側企業とITベンダーの間で多くのコンフリクトが発生するのが一般的
です。

 このように、ユーザー企業とITベンダーの間には明確な利害の対立が存在しま
す。この利害対立を克服するのが「成果報酬型契約」に他なりません。

 成果報酬型契約では、ユーザー企業とITベンダーが同じ目標を持って行動する
のが特徴です。システム構築の成功=ビジネス上の成果達成が共通する目標とな
るのです。

■ 成果報酬型契約の現状と課題
 ユーザー企業とITベンダーがWin-Winの関係で協力する契約形態である成果報酬
型契約は、理想的なシステム構築契約のあり方といえますが、課題も多くありま
す。ここでは、成果報酬型契約に取り組んでいるITベンダーの事例から導かれる
成果報酬型契約成功の前提条件と課題を示します。

 成功のための第1の前提条件は、ビジネス企画など超上流工程からITベンダーが
関わることです。ITベンダーのコンサルタントには、高い提案能力が問われるこ
とはいうまでもありません。従来のシステム開発受託のようにシステム要件が確
定してからの受託開発の場合は、成果報酬型契約になじまないと言えます。

 第2の前提条件は、成果報酬に関わる「成果」の評価が明確に出来ることです。
この場合の成果とは、ビジネス上の成果であるため情報システムがどれだけその
成果に寄与したかを測定するのは困難です。これは、両社間の「合意」によって
可能になるものです。

 さらに、ユーザー企業とベンダー企業相互の信頼関係やパートナーシップが確
立されていることが前提であることも容易に想像がつきます。

 課題として、成果報酬型契約は様々なリスクを含む契約形態であるため、十分
なリスクヘッジ策が必要となります。例として、ITベンダーにとって成果報酬型
契約は資金繰りの難易度が高いビジネスモデルです。新規開発投資を少なくする
工夫が必要となります。

 以上のように成果報酬型契約を進めるためには多くの課題が存在します。
この課題を克服することが出来たなら、理想的なユーザー企業とITベンダー企業
の関係が築かれるのではと思います。

<参考文献>
・栗山敏「成果報酬型契約がプロジェクトの成否に与える影響に関する事例研究」
  日本情報経営学会第68回全国大会予稿集、2014年

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■執筆者プロフィール

藤原正樹(フジワラ マサキ)

NPO法人ITコーディネータ京都 理事
公立大学法人 宮城大学 事業構想学部 教授
博士(経営情報学)
中小企業診断士 公認情報システム監査人(CISA)