過日、松下資料館を見学する機会を得ました。昨年末に木津川市からJR京都
駅南のPHP研究所内にこの資料館が移設され、今や新たなパワースポットとし
て多くの見学者が来館されるようです。その中には幹部研修として利用されてい
る企業も多いようです。館内には松下幸之助さんの業績や各種講話そして松下さ
んの薫陶を受けられた方々の感想や思い出話など音声や映像を通して分かり易く
解説されています。
A:松下幸之助の歩んだ道、B:経営道・商人道、C:経営者・リーダーの条
件/人材育成の考え方、D:人生の行き方・考え方/働くということ、E:政治
への情熱─限りない繁栄国家を求めて、F:庭園シアター 松下哲学の真髄
と6つのコーナーに分かれています。業績は多くて語り尽くせませんが、私なり
に感銘を受け共感を覚えた点を経営について/社会起業家として/人間としての
観点からまとめてみたいと思います。
■経営について
経営について経営道や商人道として多くの考え方がまとめられています。
1)企業理念確立と企業は公器
中でも「経営理念を確立すること」と「企業は公器」であることを、昭和2年
頃から唱えられ、信条や精神について見える化されています。その根底に哲学が
あり、さらに具体的な経営目標が盛り込まれ、ぶれることのない経営が企業の発
展に繋がっていったことと思います。「企業は公器」は近江商人の「三方よし」
の社会貢献に通じるものを感じます。
2)衆知を集めた全員経営
自の足らないところを知り、部下の提案を誉め、一人でも多くの衆知を集め、
仕事を任せ、自主的に責任感を持って仕事に取組む環境を創り、その中から喜び
や生きがいを感じる全員経営を提唱されています。企業の発展とともに事業部制
(昭和8年)を敷かれた点は“任せる経営”の実践であり、これも多くの企業の
組織化に繋がっています。
3)週休2日制と学ぶ心
昭和40年に松下電器が日本で初めて導入したとされている週休2日制は、松
下さんに言わせれば「一日休養、一日教養」であり、それは自分のためであると
同時に、社会の義務・責務でもあると言う。人生は終生勉強であり、学ぶ心があ
って初めて新しい知恵やアイデアも生まれてくる。まさに同感です。
■社会起業家として
戦後の混乱、混迷の中ですべての人が生き生きと仕事に励み、生活を楽しむこ
とができる繁栄・平和・幸福の社会を実現するためにPHP研究所を設立(昭和
21年)され、PHP社会(Peace/Happiness/Prosper-
ity)の実現のための理念と方策を世に問う活動を開始されています。さらに
日本の政治、経済の危機的状況を予見して国家・国民のPHPを実現するために、
生産性の高い政治を目指して、国家経営を推進していく指導者育成のための「松
下政経塾」を1979年に設立されています。
1)観光立国の提唱
松下さんが日本の持てる「景観の美」や「自然の美しさ」はいかなる埋蔵資源
にも勝るとも劣らぬと強調し、今まで自国のみで独り占めにしてきたが、相互扶
助の理念に立って広く世界に開放すべきであるとして「観光立国こそ、わが国の
重要施策」と提唱されたのが、昭和27年(1952年)で実に60年もの前に
看破されている点に驚きます。今や観光立国の推進は、政府の重要な成長戦略で
あり、昨年史上初めて、訪日外国人旅行者数1000万人を達成しています。オ
リンピックの2020年には2000万人を目指します。
2)精神大国への道を
戦後、国民の努力によって経済大国と言われるまで発展したが、それだけで良
いのか、これからの日本は“精神大国”“道徳大国”ともいうべき物心一如の繁
栄国家を目指そうと1971年に提言されています。昨今のいじめや自殺の多さ
を予見されていたのか、人一人の命の大切さを改めて考えます。
■人間として
松下さんは、成功とは、自ら与えられた天分を完全に生かし切り、使命を遂行
することだとし、これこそが「人間としての成功」だと考えられていたようです。
1)使命感を持つ
私も仕事を通じて多くの感動を得たり、失敗して落胆したり、時には食事をす
る時間も忘れて仕事に集中したり、プロジェクトメンバーと本番後の美酒を味わ
ったり、トラブルで徹夜をしたり、様々な経験をしました。そして、仕事から決
して逃げず、正面からぶつかり、自らを追い詰め、神経を研ぎ澄ましていると何
らかの発見、発想が浮かぶことも多く経験しました。仕事が面白い、そしていつ
の間にか使命感を持ってその仕事に打ち込んでいる、この時こそハーケンで絶壁
をよじ登るように飛躍的にその人の能力が伸びるものと思います。つねに事に当
たって個人がさらに輝き、成長するような与えられた使命を見つけなければなり
ません。ただ、使命を果たすことも重要ですが、使命を見つける過程で失敗を繰
り返しながら成長することも重要です。そして自己実現に繋がることが「人間と
しての成功」に繋がるものと思います。
2)素直な心
逆境は尊い。しかしまた順境も尊い。どちらであれ、与えられた境涯に素直に
生きることである。謙虚の心を忘れぬことである。素直さを失ったとき、逆境は
卑屈を生み、順境は自惚れを生む。ただ、その境涯に素直に生きるがよい。とさ
れ、『素直な心』を考える自己診断チェックシートを頂戴しました。
そこには、私心にとらわれない/耳を傾ける/寛容/実相が見える/道理を知
る/すべてに学ぶ心/融通無碍(ゆうずうむげ)/平常心/価値を知る/広い愛
の心 など10の視点からまとめられています。謙虚に時々チェックしたいと思
っています。
(参考文献)
・松下資料館見学ガイド 松下資料館発行
・道をひらく 松下幸之助著
・松下幸之助 成功の秘伝75 渡部昇一著
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■執筆者プロフィール
ヒーリング テクノロジー ラボ 代表 下村 敏和
ITコーディネータ
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坂口幸雄 (土曜日, 24 5月 2014 13:27)
ずいぶんと昔の話ですが、
現在でもそのまま立派に通用すると思います。
さすが先見の明があります。