最近のスマートデバイスと著作権に関連する事例 / 松山 考志

 先日、ソニーが「VAIO」ブランドで有名なPC事業の売却を決定したニュースが
流れ、驚いた方も多かったと思います。ソニーは、PC事業を投資ファンドに売却
し、2014年春モデルを最後として、PC事業を終了する予定です。PCの価格競争の
激化、タブレット等のスマートデバイスの普及などが逆風となり、2012年度の出
荷台数は760万台とピーク時から100万台以上減少したことが原因です。
 スマートデバイスの拡大は急激で、2013年度の正確なデータはまだ出ていませ
んが、昨年10月末にガートナー社が発表した資料によると、2013年のパソコン出
荷台数は前年比11.2%減の3億300万台、これに対してiPadなどのタブレット端末
の出荷台数は前年比53.4%増の1億8,400万台となる見通しです。
 このようにタブレットを代表するスマートデバイスの需要が拡大している中で
最近目にしたスマートデバイスと関連する著作権の事例を紹介したいと思います。

1.自炊:書籍をスキャナー等で電子データ化
 スマホ、タブレット端末、電子書籍リーダーのスマートデバイスを利用し、小
説・新聞・マンガを読まれる方が増えています。自分の場合は、何度も読みたい
書籍の数ページや記事をスキャンしPDF化して、電車での移動中に読むことがあり
ます。以前は重い書籍を鞄に入れて持ち歩いていたわけですから、スマートデバ
イスが1台あれば複数の書籍を取り込んでいつでも読めますし、鞄が重くならな
いというのは本当に嬉しい限りです。この自分が所有している書籍をスキャナー
などで電子データ化することを「自炊」と呼ぶようになってきています。
 この自炊ですが、そもそも勝手に他人の書籍等をスキャンしスマホなどに取り
込んで問題はないのでしょうか。答えは自らが私的に利用する場合は問題ありま
せん。根拠は著作権法の21条と30条にあります。著作権法21条は「著作者は、そ
の著作物を複製する権利を専有する」と規定し、著作者に複製権が帰属するとし
ていますので、複製は著作者のみに帰属するというのが大原則です。一方で著作
権法30条では「私的使用」に関する例外規定を置き、私的使用に限り許容してい
ます。
 ただし、自炊については問題と考えられるケースがあるので注意が必要です。
スキャン行為自体は書籍の所有者が行うが、業者がスキャンの場所と機器を提供
するケースは許容されているようです。一方で書籍の所有者が業者にスキャンを
行うように依頼する場合、地方裁判所は、業者のスキャン行為は書籍の所有者の
複製行為ではないと判断しています。2012年に作家の東野圭吾さんをはじめとす
る著名な作家や漫画家、漫画原作者が自炊代行業者に対し自炊代行の差し止めを
求める訴えを提訴しました。昨年9月30日に「自炊代行」と呼ばれるサービスは著
作権侵害に当たるという判決が東京地裁で初めて下り、業者2社に対して計140万
円の賠償と業務の取りやめが命じられています。
 このように、自炊については「私的使用」にとどめ、スキャンしたデータの交
換や提供なども慎む必要があると言えます。

2.スマホアプリ開発と著作権
 スマホアプリやソーシャルアプリは、開発規模が小さく、小予算で開発ができ
るために人気キャラクターなどをモチーフにしたアプリを見かけることがありま
すが、これらの素材を容易に利用すると著作権を侵害する可能性があるので注意
が必要です。海外の事例ですが、学生が製作したiPhone向けゲームがあの有名な
Tetrisにあまりにも似ているとの理由で、ゲームのライセンス所有者から著作権
侵害を訴えられるという事件がありました。
 また、一方で通常のパッケージソフトと比べて開発規模や予算が小さいために
時間やコストをかけて知的財産権を管理すると、必要以上のコストが掛かり、場
合によってはそれだけでプロジェクトが破綻してしまうこともあり得ます。その
ため製作者はオリジナルで素材などを制作することを心がけることが大切です。
真似るものがなければ著作権侵害は発生しません。フリー素材などを活用してコ
ストダウンを図ることも可能でしょう。そうでなければ、きちんとライセンス許
諾を受けてアプリ開発を行うことです。スマホアプリの開発においては、素材に
関する先行調査と著作権管理が大切と言えそうです。

(参考)
・著作権法 第30条
 著作権の目的となっている著作物(以下この款において単に「著作物」という。
)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用する
こと(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、
その使用する者が複製することができる。(以下省略)

・4Gamer.net http://www.4gamer.net/
・ガジェット通信 http://getnews.jp/

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■執筆者プロフィール

 松山 考志
宅地建物取引主任者