IT化が企業活動にもたらす効果 / 池内 正晴

1.IT化による業務効率化

 一昔前、コンピュータ機器を導入することに対してIT化ではなくOA化という言
葉がよく使われていた時代は、業務処理の効率化・省力化が主な目的と考えられ
ていた。
 たとえば、経理システムを導入することにより、経理業務の省力化が図られる
場合について、経理担当者が大人数いるような大企業であれば、人員削減などの
経営的なメリットがある。しかし、経理担当者が数名しかいないような中小企業
では投資コストにみあう、業務削減効果が出ないため、なかなか導入が進まなか
った。ある経営者からは「社員を楽させるために、なんで高い金を出さないとい
けないのか。」といったような発言を聞かされたこともあるなど、システム導入
の効果は社内に対して発揮されると考えられることが多かった。


2.IT化による競争力強化

 その後、技術の進歩や普及の拡大により、IT機器やソフトウェアの低価格化が
進んできたことにより、導入が比較的容易になったが、これだけでは、普及がす
すむ原動力としては役不足である。IT化によってもたらされる効果が業務効率化
だけではなく、納期短縮や低コスト化の道具として利用し、顧客に対するメリッ
トを出すことになると考えられるようになった。そして顧客に対するメリットの
大きさが、他社に対する競争力強化につながるとともに、同業他社が先行してIT
化を行った場合などは、それに対抗するために導入せざるを得ないといった状況
も発生し、導入が進むこととなった。


3.IT化による企業活動の可視化

 業務のIT化が進むことにより、在庫情報や受注状況など様々な情報がデータ化
されて蓄積されるようになってきた。そのデータを活用することにより、従来で
は月末などに伝票等を集計するまでわからなかったような情報が、ほぼリアルタ
イムで把握することが可能となる。様々な情報が数値化されて具体的に見えてく
ることにより、直感的に感じて思い込んでいたことのなかには、間違っていたこ
とがあることに気づくであろう。しかし、ここで気をつけなければならないこと
は、具体的に細かな点まで数値が見えることにより、気になった部分のみを注視
し過ぎて全体的視点に欠けた理解をしてしまうことがあるという点である。

 在庫管理や受注管理など、それぞれのシステムでわかるのは、そのシステムご
との情報であり、会社全体の状況を知るためにはそれらを横断的に見る必要があ
る。
 そのための仕組みがERP(Enterprise Resource Planning)システムである。こ
れを活用することにより、さまざまな社内資源が効率的に有効活用されているか
を把握することができるのである。


4.IT化による経営判断の最適化

 IT化を適切に推進することにより、業務を効率化し、顧客の満足度を上げるこ
とによる同業他社との競争力強化および、社内経営状況の可視化などが実現でき
るのである。
 あるテレビCMでの言葉で「数字は見るものではなく、読むものである」のよう
なセリフがあった。言葉の通り数字の結果に一喜一憂してもあまり意味がない。
良い数字が出れば、なぜよい数字がでたのか、悪い数字が出れば、何が原因でこ
のようになったかなど、数字の意味をしっかりと分析し、今後どうするべきかを
常に考え続ける必要がある。そうすることにより、次にすべきことが見えてくる
のである。
 企業の業績が悪化し、経費削減をする必要が発生した際に、真っ先にオフィス
の照明を消灯して経費を削減するように指示をしている経営者を時折見かける。
少しでも経費を減らしたいという気持ちを従業員に伝えるという姿勢という意味
であれば少しは評価できるかもしれないが、経費節減という意味では、ほとんど
評価できないであろう。オフィスの照明にかかる電気代がたとえ半分になっても
それが企業の収支に与える影響というのは、ほとんど無いのである。
 数字を見て、数字を読んでいる経営者であれば、経費削減効果がある様々な対
応について、簡単にできるものを片っ端から実施するのではなく、様々な手段を
評価して現状に対して効果的なものについて優先度をつけて実施するであろう。
さらに、場合によっては、経費がさらに増えたとしても、それを上回る収益が出
るような手段をとることがあるかもしれない。


5.IT化の効果を経営に生かすために

 IT化が進むことにより、経営者から見える数字の種類は、範囲の大きなものか
ら小さなものまで飛躍的に増大し、それらを見ながら経営の舵取りをしていくこ
とになるのである。その際にイメージのしやすさから、現場レベルの小さい範囲
の数字ばかりについて気にしてしまい、指示する内容が細かくなってしまいがち
である。しかし、経営者として判断をしていくためには、大きな範囲の数字でマ
クロ的視点からアプローチしないと大きな方向性が見いだせなくなってしまう。
そして、その大きな方向性のなかで小さな範囲の数字も見ながら、さらに最適化
された正しい判断を行っていくことが、企業の成長や存続につながっていくので
はないだろうか。

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■執筆者プロフィール

池内 正晴 (Masaharu Ikeuchi)

学校法人聖パウロ学園 光泉中学・高等学校
ITコーディネータ