ケータイを、今一度振りかえってみる / 松井 宏次

夏の暑さが残るまま暦が立秋を迎えるころから、空の様子が違って見えるように
なって来ます。どこか名残惜しくなるのは、今でも子供の頃の気持ちが残ってい
るからでしょうか。
今年は、京都も豪雨に見舞われるような暦の変わり目となってしまいました。
台風の季節にも向かうなか、各地の被害が重ならないことを祈るばかりです。


このITC京都のコラムのなかで、私が、何度か記事にさせて頂いている話題に
「ケータイ」があります。

携帯電話/ケータイについて、今のスマートフォンのような進化の方向を私が実
感できたのは、比較的最近のことで、10年ばかり前の夏。以前の記事にも書き
ましたが、祇園祭の鉾に向かってカメラ付き携帯電話をかかげて撮り、メールで
画像を友達や家族に送っている、そんな人を、ひとりや二人でなく、群衆として
目にしたときでした。携帯「電話」ではなく「ケータイ」という言葉が使われる
はずだと納得したものでした。

しばしば言われるように、現在のスマートフォンは、以前からある製品技術、仕
様の組み合わせという面を持ちます。ただし、それはもちろん単なる復活や再来
に留まらず、情報通信ネットワークやサービスの高度化と関わり、繋がること
で、新たな社会の仕組みとなるまでに至っています。

携帯電話普及のはじまりは、1990年代。現在のサイズに近い携帯電話が、当
時世界最少としてNTTdocomo社から発売されたのが1991年。同社に
よって携帯電話電話によるe-mail送信やウェブサイト利用を可能にしたi-modeの
サービスが開始されたのは1999年。i-modeのサービスの広がりは2000年
代に入ってからでした。
かたや、インターネットについて乱暴に整理してしまうと、90年代は、利用の
黎明期であり、使われ始める様々な兆しの起きた時代で、高速大容量な回線、ブ
ロードバンドが普及する前夜でした。

また、90年代には、PDA(Personal Digital Assistants)と呼ばれる製品群
が登場しました。PDAという概念そのものを提唱したアップルコンピュータ
(現アップル)社のニュートンや、日本では、電子手帳として一世を風靡した
シャープ社のザウルスや、タッチタイプのできるキーボードを備えたモバイル端
末、NEC社のモバイルギアなどが、愛用者を得た時代でした。

90年代は、今のスマートフォンや、携帯端末の前身にも見える、さまざまな製
品、技術が市場に送り出されました。ただし、現在との大きな違いとして、高度
な情報通信ネットワークや様々なアプリケーションが、まだありませんでした。

2000年代に入ると、ヤフー(現ソフトバンク)社のYahooBBなど普及価格
の高速通信ネットワークサービスの登場を契機に、ブローードバンドの時代を迎
えます。呼応するように、Twitter、Facebookといったソーシャルネットワーク
や、YouTube、Ustreamなどの動画・音声の共有配信サイトが次々と登場し、国内
での利用者も増えて来たことは、ご存知の通りです。
この2000年代に入ってからの動きは重要で、例えば、iPhoneの広がりひと
つを取りあげても、ブロードバンドを利用した音楽の流通配信システムや、ソー
シャルネットワーク(SNS)との繋がりなくしては、これほどに、従来の携帯電
話に取って代わらなかったであろうことは、よく指摘されている通りです。

総務省の情報通信白書の市場区分のレイヤー分類を借りると、「端末」レイヤー
の性能向上も、もちろんあったものの、「コンテンツ・アプリケーション」、
「プラットフォーム」、「ネットワーク」の各レイヤーの重要な進化があったの
が、2000年代です。

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[情報通信白書の市場区分レイヤー分類]

 コンテンツ・アプリケーションレイヤー(上位レイヤー):
 「情報通信に関わるサービスやコンテンツの制作及び供給に関わる事業、
  情報通信システムに関するアプリケーションやソフトウェアの開発・
  運用等に関わる事業に該当するレイヤー」

 プラットフォームレイヤー(上位レイヤー):
 「ユーザー認証、機器(端末)認証、コンテンツ認証などの各種認証機能、
  ユーザー認証機能、課金機能、著作権管理機能、サービス品質管理機能
  などを提供するレイヤー」

 ネットワークレイヤー:
 「通信と放送を含むネットワークを経由した伝送事業に該当するレイヤー」

 端末レイヤー:
 「ユーザーが利用する情報通信端末や機器・装置等の製造事業に関する
  レイヤー」
 ……………

ちなみに、今年の情報通信白書では、インターネットの社会基盤化について、無
線技術、ストレージ技術などICT技術の革新を背景としたネットワーク・サービ
ス環境の飛躍的進化によって大きく適用範囲を拡大したとし、ユビキタスネット
ワーク社会の構築にむけ、技術・サービス・各種機器など環境面の整備は整った
ものと説いています。
そして、スマートフォンやタブレット端末の世界的な普及が、進化したネットワ
ーク・サービス環境にパソコンに匹敵する機能を有する携帯端末を通じて、誰も
が、どこでも接続し、多種多様なサービスの利用を可能にしつつあるとしていま
す。
また、米国で電子書籍の内容充実を背景にタブレット端末の普及が大きく伸びて
いる状況に触れ、我が国でも複数のスクリーン端末の利用が進むであろうことも
白書は示唆しています。

スマートフォンであっても、タブレット端末であっても、機器自体の諸性能、操
作性、安定性、堅牢性といった機器そのものの能力だけでなく、ユーザーとして
は、コンテンツ・アプリケーションなど、端末レイヤー以外のレイヤーを、利用
する目的に応じて、きちっと見定めておく必要があります。
現在、その普及が多方面で促されている、ビジネスでのタブレット端末の利用に
おいては、一層その見定めは大切です。

情報通信白書
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/index.html

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■執筆者プロフィール

 松井 宏次(まつい ひろつぐ)
 ITコーディネータ 1級カラーコーディネーター 中小企業診断士