1.はじめに
2008年9月にリーマンショックが日本の経済を直撃した。その時に日本人は人
口減少や日本市場の収縮傾向に気づき、日本企業が海外ビジネスを伸長しないと
生き残れないことを実感した。2008年は日本の本格的なグローバル化の元年とな
った。人材のグローバル化も始まっている。外国人の採用が本格的に始まり、逆
に多くの日本人が外国資本の企業で働くようになってきた。IT業界においてもグ
ローバル化が進展し、私と同じ団塊の世代の仲間にも退職後、外国資本の企業で
働く人がいつの間にか増加してきた。
グローバルな金融市場・情報ネットワークが「国境の壁」を取り去っている。
日本企業はどのように対応すべきか。それは人材である。“人は石垣、人は城”
である。アジア地域で活躍するグローバル人材の育成が急務となる。
2.グローバル人材育成研修の重要性
私は海外に進出する日系製造業の情報システムの構築支援をITベンダで長年担
当するともに、海外職業訓練協会(OVTA)で国際アドバイザーとして海外に駐在
される方へのキャリアコンサルティングに携わってきた。コンサルティング内容
は「中国の日系企業のIT市場の調査」、「中国現地法人のIT上流工程の仕様作成」、
「現地法人の情報システム構築の支援」や「ERPパッケージ中国展開のための
研修」など様々である。
その際に中国で日本人駐在員と会話して感じたこととして、赴任前に十分なグ
ローバル人材育成の研修を受けていないことが印象的であった。そのため異文化
コミュニケーションでトラブルを体験する人が多い。日本企業では研修費が大幅
削減され、あたかも関西から東京に転勤するのと同じ感覚で、研修なしで中国に
赴任してきている人が多い。
以下、海外に赴任される方へのキャリアコンサルティングを実施した経験から、
異文化コミュニケーション能力の向上のために重要と思われる2点を説明する。
それは「韓非子の法家思想、性悪説」と「心と体の健康、ストレスマネジメント」
である。
3.韓非子の法家思想(性悪説)を読もう
人間の本質については両極の考え方がある、性善説(孔子、儒教)と性悪説
(韓非子、法家)である。これは今も昔も変化がない。単純化すると、日本は性
善説の社会だが、中国は性悪説の社会である。駐在する方は、日本では性善説、
中国では性悪説のダブルスタンダードでいくのがよい。日本では、韓非子につい
てあまり書物が読まれていない。矛盾、守株、逆鱗等、韓非子が出典の成語も多
い。韓非子の思想や悲しい生涯は一読に値する。
4.ストレスマネジメントを理解しよう
変化の激しい中国社会での仕事と生活がもたらすストレスやプレッシャーの中
でうつ病等を患う方が多い。公式な統計はないが、中国における日本人駐在員の
自殺者数は相当多いとされている。
中国特有のストレス要因としては以下があげられる。
・中国の任国事情
治安、食の安全、医療(病院や保険)、学校、家族(日本にいる親の病気・介
護)が課題となる。例えば、廃棄した油や肉が再販されている。
・中国のビジネス
取引先との関係(債権回収、キックバックの常態化)、宴会による人脈つくり
が課題となる。自殺の最大の原因は「債権回収、キックバック問題」と考えられ
る。
・日本のビジネス
日本本社から与えられた責任と権限、几帳面な日本人の気質が課題となる。体
育会系が、真面目に頑張りすぎてうつ病になるケースが多い。逆に、適当に仕事
をする人はうつ病にならない。異文化コミュニケーション能力の高い人は、仕事
もプライベートも無難にこなしている。
通常、駐在員の心理は次の5段階を推移すると言われている。なぜか結婚生活
に類似している。
・ハネムーン段階(当初の1、2ケ月)
殆どの駐在員は当初、張切って赴任する。目に入るものはエキゾティックで新
鮮に感じる。まだ“悪い所”や“見えにくい裏面”は見えていない。
・倦怠期段階(当初の数ケ月~半年)
仕事や家庭で問題が発生してくる。些細なことも解決できずに残る。段々と悪
い所が見えてくる。駐在している国が次第に嫌いになってくる。言葉が分かり始
め、自分への悪口や陰口が少し理解できるようになる。駐在員がその国に適応で
きるかどうかはこの段階を無事に通過できるかで決まる。
・緩やかな適応段階
徐々に倦怠期段階の回復の兆しが見えてくる。現地での仕事のやり方が次第に
理解できてくる。
・安定化段階
現地の生活に慣れ、仕事も効率的にできるようになる。余裕が出てくる。
・逆不適応段階
海外の仕事と生活に慣れた駐在員が人事異動で日本に帰ると、日本での自分に
対する処遇、職場の雰囲気、住宅環境、子供の学校等々でフラストレーションが
溜まる。
5.最後に
異文化コミュニケーションでの意思疎通にはやはり言葉が大切である。大家、
開始学習中文! 皆さん、中国語を学習しましょう!
------------------------------------------------------------------------
■執筆者プロフィール
坂口 幸雄
ITベンダ(東南アジア・中国での日系企業の情報システム構築の支援)、
JAIMS日米経営科学研究所(米国ハワイ州)、
外資系企業、海外職業訓練協会等を経て、
グローバル人材育成センターのアドバイザー、
http://www.g-jic.com/index.php/gyoumu
資格:ITC、PMP、PMS、CISA、日本経営品質賞セルフアセッサー
趣味:犬の散歩、テレサテンの歌を聴くこと、海外旅行、お寺回り
(四国八十八カ所遍路の旅および西国三十三カ所観音霊場巡り)
コメントをお書きください
坂口幸雄 (日曜日, 08 11月 2015 22:52)
TPP(Trans-Pacific Partnership)交渉の妥結により、今後グローバル人材へのニーズが高まる。