企業の”ソーシャル化”を考える / 藤原 正樹

最近、ソーシャルという言葉をよく耳にします。

ソーシャル・メディアをはじめ、ソーシャル・ビジネス、ソーシャル・ネイティ
ブ、ソーシャル・キャピタル、ソーシャル・シフト、などなどです。流行語大賞
になった”絆(きずな)という言葉も同じ流れにあるようです。さらに、”社会
のソーシャル化”など直訳すると意味不明の用語も登場しています。

 ソーシャル・メディアはニューウエーブのITであり、ソーシャル・ビジネスは
社会的課題解決のビジネス的手法です。このように、対象となる分野は異なりま
すが、その根底には大きな社会環境的変化があるようです。
今回は、”企業のソーシャル化”をキーワードにその本質を探っていきたいと思
います。

■ BtoCからBwithCへ
 BtoCからBwithCへという表現を聞かれた方も多いと思います。企業から顧客へ
という一方通行の関係ではなく「顧客と共に」を強調した言い方です。
 マーケティングは、製品中心のマス・マーケティング1.0から、顧客中心のマー
ケティング2.0へと発展してきました。現在はマーケティング3.0と呼ばれ、その
最大の変化は顧客がものを言う能動的な存在となったことです。顧客は受け身の
存在ではなく、商品の企画、製造、販売、アフターサービスまで、あらゆる側面
でものを言う存在となったのです。顧客の声に背をむける企業は、顧客から厳し
い批判を受け企業価値の大幅後退を余儀なくされています。

 顧客との協働を実現している2つ例を示します。
ユニクロのUNIQLOOKSというWebページは、ユニクロファンによって成り立ってい
ます。ユニクロの服の着こなしを投稿することで、ユニクロのブランド価値向上
に協力しているといえます。
http://uniqlooks.uniqlo.com/

無印良品は、「くらしの良品計画所」というWebサイトを軸にファンと共に商品開
発を進めています。
http://www.muji.net/lab/

 これらに共通するのは、顧客が自発的に商品開発や販売に参加していることで
す。これは、単なるマーケティング上の変化ではないでしょう。顧客は企業から
コントロールされる受け身の存在ではなく、「意思を持った生活者」として企業
と相対しているのです。

■ 経済的価値と社会的価値が共存する社会へ
 従来、企業は経済的価値を生み出すことで社会の進歩に貢献すると理解されて
いました。ところが、米国発金融危機を通じて”行き過ぎた資本主義”への批判
が拡大しました。その中で注目されてきたのが低所得層を対象としたBOPビジネ
ス(注)や社会問題を企業の手法で解決しようというソーシャル・ビジネスでし
た。これらに共通するのは、経済的価値と社会的価値を同時に生み出そうとする
試みです。戦略論で有名なマイケル.E.ポーターは、この流れを「共通価値の戦
略」として体系化しています。

「共通価値(Shared Values)という概念は、経済的価値を創造しながら、社会的
ニーズに対応することで社会的価値も創造するというアプローチであり、成長の
次なる推進力となるだろう。・・これまでの資本主義の考え方は、『企業の利益
と公共の利益はドレード・オフである』『低コストを追求することが利益の最大
化につながる』といったものであり、依然支配的である。しかし、もはや正しい
とは言えず、また賢明とは言いがたい。共通価値の創造に取り組むことで、新し
い資本主義が生まれてくる。」

 社会的不正義を行う企業は、顧客から厳しく指弾され市場からの撤退を余儀な
くされる社会が生まれつつあります。”強欲資本主義”への批判は、金融業界だ
けでなくすべての企業に向けられており、すべての企業に変革を求めているので
す。

■”企業のソーシャル化”が求められている!
 ここまで述べてきた、マーケティング3.0が企業に求めていることと、「共通
価値の戦略」が求めていることは、一見すると別の動きのように思えます。
 私は、この2つが同じ流れの上にあるととらえています。底流にあるのは、
「意思を持った生活者」の登場です。

 「意思を持った生活者」は、ある時は支持する企業と共にそのブランド価値向
上に参画し、ある時は企業の不正を厳しく指弾する告発者となり、また別の場面
では政治的変革を求める「ものを言う市民」として登場します。

 このように企業を取り巻く環境は大きく変化しています。それに対応するのが
”企業のソーシャル化”に他なりません。企業のソーシャル化とは、一言で表現
すると「ものを言う生活者としての顧客と真摯に向き合う」ことだと言えます。

 金融危機は”お金より大切なもの”を気づかせ、3.11東日本大震災は”人のつ
ながりの大切さ”を教えてくれました。時を同じくして利用者が急拡大した
TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアは、生活者のエンパワーメントに
大きく貢献しました。

 今進行しているのは、社会の大きな変化であり、企業は「企業のソーシャル化」
を通じて変化に対応することが求められているのです。

注:BOPとは「Base of the Pyramid」の略であり、最も収入が低い所得層を指す
言葉で、約40億人がここに該当すると言われる。BOPビジネスは、企業の利益を
追求しつつ、低所得者層の生活水準の向上に貢献できるWin-Winのビジネスモデ
ルに特徴がある。

参考文献
・斎藤徹「ソーシャルシフト」(日本経済新聞出版社)
・フィリップ・コトラー「コトラーのマーケティング3.0」(朝日新聞出版)
・マイケルE.ポーター「共通価値の戦略」(『ダイヤモンドハーバードビジネス
 レビュー2011年6月』)

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■執筆者プロフィール

藤原正樹(フジワラ マサキ)

NPO法人ITコーディネータ京都 理事
公立大学法人 宮城大学 事業構想学部 教授
博士(経営情報学)
中小企業診断士 公認情報システム監査人(CISA)