電子記録債権制度の活用 / 大塚 邦雄

最近お客様から問合せのあった電子記録債権について取り上げます。
電子記録債権構想は、「e-japan戦略II」の中に組み込まれ、2007年6月
に企業が保有する手形・売掛債権を電子化し、インターネット等を介して債権を
流動化させることによって、主に中小企業の資金調達を円滑化する目的で成立し
2008年12月に施行されました。
今、この電子記録債権制度がようやく浸透しつつあります。その背景と制度を説
明し企業の資金繰り対策の1つとして活用するにあたっての課題を述べます。

 法案成立から早5年も経ってようやく浸透したという点では、制度そのものが
まだ時機尚早であったともいえます。
「e-Japan戦略II」では、より顕在化された形で捉えられる商流あるいは
物流の世界が注目を浴び、受発注データを標準EDIで授受したり、商品にIC
タグを付けたりされましたが、金流では電子債権が埋もれてしまいました。
 これは債権決済という仕組みの多様性・信頼性をカバーする上で、その影響が
拡がっていったことによります。それでもメガバンクが主導する形で日本を代表
する大手企業とその取引先を中心に局所的に取り扱われてきました。しかしそれ
は各電子記録債権機関が独立しているため電子記録債権機関相互での決済ができ
ません。そこで全国銀行協会が全国の金融機関を取り纏める形で電子債権機関を
立ち上げることになっています。(実際は本年5月サービスインの予定ですが延
期となっています)全国の約1300の金融機関が参画するとなれば決済の利便性は
飛躍的に高まります。
 
 では、この電子記録決済では何が便利になるのでしょうか?一般的には、
(1)手形管理のコスト削減
 手形振り出しから決済迄に関わる事務の削減、印紙税の削減、金融機関への
 アクセスの削減があります。
 最近は手形に代わって期日現金払いとかファクタリングを利用するケースがみ
 られますが、資金決済の融通性がなかったり、利用が一部に限られています。
(2)売掛債権の有効活用
 手形や期日現金払いに比べ債権の分割が容易なため、資金繰りの融通性が高ま
 ります。
(3)信用保証の確保
 手形などに比べ債権のトレーサビりティが確保されます。特に大手企業からの
 支払いであったり、公共団体からの支払いであれば信用調査も簡単に済みます。
などが揚げられます。

 某飲料会社では、電子記録債権を2010年の1月から採用していますが、手形は
1995年以降なくし期日現金払いに切り替えていて、原料・資材・物流・宣伝・設
備など多様な取引先へ支払いのために電子記録債権を利用して、キャッシュフロ
ーの改善を図っています。

 しかし、デメリットもあります。
(1)手形から全て切り替えられなかったりすると、一時的に二重コストになった
 りしますが、インターネット等の利用で管理費抑制の余地はあります。
(2)利用にあたっての取引先金融機関の手数料体系・水準が不明な点が揚げられ
 ますが、金融機関のサービス価格競争が進めば適正価格になると考えられます。
(3)取引先企業との関係で、相互に承諾が必要ですので、双方のメリットの一致
 を求めたいものです。

 この電子記録債権を利用にするにあたっては、事務上の改善に伴ってシステム
上の改善も必要となってきます。
 主なシステム上の改善点としては次のことが考えられます。
(1)振込業務の集約化
 手形決済に代わり金融機関とのデータ連携による業務を統一したシステムの構
 築すること。
(2)決済の自動化
 入金情報をもとに債権データの消し込みを確実に実施すること。
(3)資金管理業務との連携
 もともと資金調達の円滑化を目的としているものであり、資金管理システムに
 連動し、合目的化させること。
(4)会計システムへの自動仕訳データ連動
 債権の発生・譲渡・取消・決済の一連の流れを会計システムにシームレスに繋
 げること。
が課題として挙げられます。
また、システムベンダーの会計パッケージなどでも今後対応版が発売されるもの
と思います。

 今や自社だけで業務効率化を図ることが限界になりつつあります。商流・物流
だけでなく金流を合理化し間接費削減の1方策として検討されては如何でしょうか。

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■執筆者プロフィール
 大塚 邦雄
 情報処理システム監査、ITコーディネータ