(NPO)ITコーディネータ京都の研究会では、前年度において京都の観光関連産
業や伝統産業の活性化を支援する取組として、京土産品等を扱う地元企業数社に
個別訪問して、夫々の企業の活性化策を探りました。今回は、その活動から得ら
れた一つの方向性を記述してみようと思います。
一口に観光関連産業と言っても、次のように様々な業種が含まれます。これら
を単独に活性化する方策、業種横断的に連携して取組むことにより活性化を増強
する方策が考えられます。中長期的には下記の産業全般にわたり活性化策を探り
観光関連産業を全体として活性化するソリューションを探りたいところですが、
前年度においては身近なところから始めることとしました。
(1)直接的に観光体験をする資源
寺院、神社、庭園、温泉や自然、お祭りや家元等の文化資産、花街関連施設等
(2)休憩・飲食・宿泊関係の産業
日本旅館、ホテル、他の宿泊施設、休憩施設、各種料理店、カフェ、等々
(3)京土産品、伝統工芸品等の産業
西陣織、友禅染、和装小物、仏壇・仏具、お香、袈裟、清水焼、七宝焼
京菓子、京漬物、ゆば等、京人形、北山杉、茶華道具、等々
(4)移動を支援する交通産業
鉄道、空運、タクシー、公共交通、ガソリンスタンド、駐車場、貸自転車等
(5)情報支援、物流支援、メモリアル産業
観光情報・案内業、道路情報提供、宅配業、写真・ビデオ制作
(6)広報宣伝、事前手配産業
コミュニティ、ネット系観光情報サイト、出版物、旅行観光ポータルサイト
旅行代理店
具体的に取組んだ業種は、京人形、漆器、版画、風呂敷、京土産品、それらの
複合業態です。共通する特徴は、物品販売であるために、顧客が京都に来なくて
も事業が成り立つという点です。一方、伝統的な製品作りだけでは右肩下がりの
売上トレンドです。加えて、製品を作り出すための工芸職人や材料の供給面では
10数年先の見通しが暗いという特徴もあります。更に、歴史の長い企業が多いの
ですが、規模的には中小~小企業ばかりの印象です。
活性化策の方向性を考えてみます。取扱う製品は歴史のある伝統工芸品の要素
が強いのですが、それらは現代の一般的な生活様式若しくはライフスタイルから
見ると実用性が薄く趣味の性格が強くなっているように思われます。
一つの方向性は、伝統の素材又は技術を駆使して現代的なライフスタイルに受
入られるような製品開発をすることです。熱心な企業は、既にこれを実践してい
ます。更に突っ込んで、デザインや配色だけでなく、用途開発と組合せて最適化
することが重要になります。素材又は技術を用いて新たな製品を作り出し、これ
によるライフスタイルの提案をすることが目標です。
他方では、趣味性が強い存在になっていても、そのような趣味を持つ人達は世
界中にいるということが分かっています。ただし、何処にその顧客がいるのかが
分からないのが現状です。よって、趣味を同じくする人達に自分から集まってき
てもらう仕組みを構築すれば良いと思われます。リアルの世界で趣味を同じくす
る人達に呼びかけてコミュニティを作って楽しく活動する。20年以上前と違って
インターネットが普及してネット上にコミュニティが形成されています。最近は
ソーシャルネットワーク(SNS)が急激に拡大しています。リアルとバーチャルの
双方を融合させてコミュニティの輪を拡大できるはずです。伝統産業界には100
年企業も多く存在します。先代から受け継いだ事業を次世代に伝承していくにし
ても、製品だけを伝えるのではなく、当然に市場も伝えてやる必要があります。
ところで、大企業が殆んど見られない業界では、当然にICT(情報通信技術)の
利活用も進んでいません。一番手っ取り早いやり方は、昔に経済産業省が推進し
た集団化による取組で業務効率を飛躍的に向上させて収益性を高めることができ
ます。しかし、これは商店街の活性化と良く似た問題を抱えており、強力なリー
ダーシップが現れない限り遅々とした進捗状況です。同業種内であれ、異業種間
であれ、外的なリーダーシップが望まれます。例えば、行政か、その外郭のパワ
ーが欲しいところです。サプライチェーンやデマンドチェーンの整備と効率化に
は、外的な力の必要を感じました。
観光関連産業は、京都にとっては大変に重要な資産です。東京にTDL、大阪に
USJがありますが、最近京都にできた観光資源は水族館ですか。小京都と言える
ような超大規模な施設を作ってみては如何でしょうか。観光産業も伝統産業も、
更にはベンチャー企業も活性化するリアルの仕組みを期待したいところです。
(NPO)ITコーディネータ京都の研究会では、単独の中小規模企業でも取組める
ようなICT活用を提案すべく取組を進めつつあります。手頃な価格でIT経営に取
組むための技術的な環境は整ってきつつあります。やる気を起こされた観光関
連又は伝統産業関連企業は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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■執筆者プロフィール
中村久吉(なかむらひさよし)
ITコーディネータ、ISO27001主任審査員
中小企業診断士、プライバシーマーク主任審査員
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