「太陽がいっぱい」と題して「太陽を直接見てはいけないが,プロジェクトの危
険は直視しなければいけない」という内容のコラムを書いたのが,2009年8月3日
でした。同年の7月22日に皆既日蝕があって,それに触発されて書いたのですが,
奇しくも本稿の配信は,金環日蝕の日ですね。
どうも日蝕とご縁があるみたいですが・・・(笑)
■「日蝕」は天の警告 !?
古来,中国では日蝕は天の警告とされており,天子の死や国の滅亡を予告してい
ると思われていたそうです。
振り返ってみると,2009年はトヨタが71年ぶりに営業赤字になったり,新型イン
フルエンザが流行したりしました。
そういえば,私自身も初めて後方部門に配属されました。
少しはゆっくり出来るかと思ったら,5月には初救急車・初入院・初ICUを経験し
たり,結構大変な年でした。まあ入院中は直前に発売された「1Q84」を,ゆっく
り読むことができましたが・・・
■「日蝕」は英語では「eclips」!?
「eclips」と聞くと,多くの読者はjavaの統合開発環境を思い浮かべるのではな
いでしょうか ?
競走馬を思い浮かべる方は,生活態度を改めたほうが良いです(笑)
もともとeclipsは力が抜けるというような意味らしく,転じて「蝕」の意味にな
ったそうです。Sun Microsystems → eclips(蝕)・・・でもって Oracle に買
収されてしまったのかも知れません。Sun Microsystems が,Oracle に買収され
た後の,eclips のリリースが Helios(ヘリオス:ギリシャ神話の太陽神)だっ
たのは,ちょっと皮肉かもしれないです。
■「日蝕」によって見えてくるもの
科学史的な出来事として,1919年の皆既日食を利用して重力レンズ効果を確かめ
ることにより,一般相対性理論の検証が行われました。
ニュートン力学的には太陽に隠れるはずの恒星が,重力レンズの影響で観測でき
たというものだったと思います。
太陽は,その強烈な輝きによって,周囲の星や自らの本当の姿を隠してしまって
いるように思います。
「経営」は人・物・金と言われますが,人を見る場合,太陽のような影響を与え
るものに「肩書き」や「声の大きさ」「態度」のようなものがあります。
その人の本来の「個性」「能力」を見るためには,一度は「日蝕」のように肩書
きを外した状態で観察する必要があるのではと思います。危機的な状況になった
場合,最終的に頼れるのは相手の「人間性」です。
自分がプロジェクトメンバーの場合,肩書きや地位を盾にする人のために何日も
徹夜して歯を食いしばって結果を出す気にはなれません。自分のプライドがかか
った場合には別ですが・・・
ですから,自分がマネージャの場合にも,やはり部下やメンバーを引っ張るのは
マネージャとか部長とかの肩書きではなく,自らの「人間性」や「能力」であり
たいと思います。
例えば,プロジェクトでトラブルがあった場合,プログラミング能力の高い手を
動かせる人が必要になることが多いです。組織上で偉い人が部下よりもプログラ
ミング能力が高いわけではないことは,ほぼ自明です。
手を動かす人と口を動かす人との信頼関係が出来ていれば,強力なチームになり
ますが,気持ちが乖離していると手と口がバラバラの動きをします。口が動く人
は耳が動かない(笑)ことが多く,結果は「言った」「言わない」の無限ループ
に陥り,プロジェクトは崩壊します。
ビジネスの基本は「信頼関係」です。
言ったこと(約束)は実現させること,またその覚悟が必要です。
これをお読みの方の中には参加された方も居られるかも知れませんが,以前「ロ
ジカル・シンキング入門」の中で「Read」「Listen]「Observe]「Think」という
話をしました。
皆さんの中でシステムを発注する側に居られる方は,プロジェクトがトラブった
場合,プロジェクトを冷静に「Observe:観察」して,本当に今必要なのは手を動
かす人なのか,口を動かす人なのか・・・手を動かす人と口を動かす人の信頼関
係はどうなのか・・・「Observe:観察」してください。
プロジェクトに問題がおきるとすぐ人を追加するところが多いですが,口しか動
かさない人を外して人を減らすことで,プロジェクトが案外上手くいくことがあ
ります。コストも下がります。
私が経験した大きなプロジェクトの時に,中途半端に顧客打合せにでてきて余計
な発言を繰り返しては,会議をかき回す上司がいましたが,喧嘩して外したこと
があります。結果,お客さんには喜んでもらって,しかもプロジェクトは成功
しました(笑)
また肩書きの立派な人,声や態度の大きい人がいると,重要な会議でその人の意
見が充分な検証がないままで通ったりします。
アナリストやシステム・エンジニアとして,顧客の要件を引き出す時のミーティ
ングでは,往々にして声の大きい人の意見が通り,実際には使えないシステムに
なったりします。中小企業の場合に顕著な例が多いですが,大企業でも,実際に
重要な業務を取り仕切っているのは,現場の責任者ではなくパートの従業員の方
だったりします。
誰が本当に業務を知っているのか・・・本当に満足してもらうべきなのは誰なの
かを見極めることができる能力は,SEとして重要な要素かと思います。
■みせかけの「輝き」を消して本当の「輝き」を
このゴールデン・ウィークのことですが,20年位前に 2年弱ほど一緒に仕事をし
てくれた元部下が突然連絡をくれて,家族旅行の途中に立ち寄ってくれました。
あの仕事も典型的なデス・マーチでしたが・・・結果,売り上げは 3年で10億を
超え,粗利も毎年 1億くらい叩き出しました。彼は,今はITとは離れて広島で会
社を経営していますが,懐かしくて嬉しく思いました。
今の会社の以前の部下で,今は別の大手インターネット関連にいる人で,毎年花
見に京都まで来てくれる人もいます。
「有朋自遠方来 不亦楽乎」というところです。
どちらの場合でも,彼らは,当時の私より多くの部分で高い能力やスキルがあり
ました。
ただ共通して言えるのは,当時の私が肩書きを笠に着るのではなく,全身全霊で
プロジェクトをこなしていたと言うことだと思います。ですから彼らも,こんな
馬鹿な上司を見限らずに,頑張ってくれたのだと思います。
■観測にはご注意を
前回の「太陽がいっぱい」にも書きましたが,太陽を直接見るのは危険です。
チラッと見るだけならまあ良い(光の強さと時間の積が問題)のでしょうが,日
蝕を観測する場合は,サングラス程度では不充分だそうです。日蝕グラス等の専
門の器具で十分な防備をしてください。
今年は6月6日に,金星の太陽面通過とかの天文イベントもありますので,こちら
でも役立つかと思います。
次回,日本の本州で「中心蝕」が見られるのは,2035年9月2日(2030年6月1日に
北海道では見られる)だそうです。
その頃きっと私は,星になっていると思います(笑)
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■執筆者プロフィール
上原 守
ITC,CISA,CISM,システムアナリスト,プロジェクトマネージャ
エンドユーザ,ユーザのシステム部門,ソフトハウスでの経験を活かして,上流
から下流まで,幅広いソリューションが提供できることを目指しています。
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