●安心・安全、絆、エコ、そして社会貢献
あの東日本大震災から1年余りが過ぎて世間の風向き、価値観の流れがその方向
を変えつつあるように思います。4つのキーワードで整理しました。
一つ目は、「安心・安全」
それ以前から大きな流れはあったようですが、建築確認申請の構造計算偽装問題
や、狂牛病や賞味期限切れ食品問題から、「安心・安全」と言う言葉がさかんに
登場するようになりました。震災後の津波や原発事故により、一層人々の意識に
上るようになりました。
二つ目は「絆」
昨年の今年の漢字にも選ばれたように、あちこちでこの言葉も目にしました。大
惨事に遭遇して自分の身を守ってくれるものが結局は家族や地域社会なのではな
いかということが意識されるようになってきました。この直後の調査で、結婚願
望の人の割合が急に増えたことも報じられていました。
三つ目は「エコロジー」
1997年のCOP3地球温暖化防止京都会議以来、日本はCO2削減に向けて
様々な努力を行って来ましたが、原子力発電に対する疑念からも「節電」あるい
は長引く景気低迷という現実からも「節約」という意識が広がってきています。
そして四つ目に「社会貢献」
これらをより大きく包み込む形で、「社会に貢献したい」という考えが、
3.11を契機に日本中で広く拡大してきたように思われます。
いままで社会の問題や、他人の苦しみなど他人ゴトとして「へえー、かわいそう
に」で済ましていたことを、「自分ゴト」として捉えられるような人が増えてきま
した。
上記で述べたような環境問題にたとえ多少でも貢献したいと、エコな暮らしを送
ろうとする人々。ボランティアとして被災地に駆けつける人々。地域コミュニテ
ィの活動に積極的に参加する人々。またフェアートレードなどに情熱を注げる人
々。社会起業家を目指す人々が増えています。
●マーケティング3.0
2年ほど前に出版されたフィリップ・コトラーの『マーケティング3.0』とい
う書籍があります。彼は、これまでのマーケティングの潮流を「製品中心主義」
のマーケティング1・0から「消費者中心主義」のマーケティング2.0への変
化と整理した上で、来るべきマーケティング3.0の時代は「人間中心主義」に
なると予測しています。
「人間中心主義」と言うと中世キリスト教の神の世界から古代ギリシャ、ローマ
の文化を復興させたルネサンスを想い出すのですが、ここで彼が唱えているマー
ケティング3.0の世界は「価値主導のマーケティング」。
すなわち、人々は自分が大切にしたいと考えること=価値観にもとづいて消費を
行うということです。従来のように単に「消費者」として人々を見るのではなく
知性(Mind)感情(Heart)人間性(Spirit)を併せ持つひとりの「人間」とし
て把握しようとしています。ハイデガーの語る das Man(ひと)とder Mensch
(人間)の関係に近いものがあります。
自分個人よりも社会全体、地球全体の調和や幸福を願い、その実現に向けて何ら
か貢献したいという社会的価値の追求が求められるような世界に近づきつつあり
ます。まさに日本の現在の状況がそのような場面を差し掛かりつつあるといえる
のではないでしょうか。
製品が中心で機能的価値が求められたマーケティング1.0の世界、それは高度
成長下のいわば「作れば売れる時代」でした。
そのうち市場にものが溢れ競争が激化し、消費者の嗜好が高度化・複雑化したた
め「顧客中心のマーケティング」へと進化しました。情緒的価値が付け加えられ
たマーケティング2.0の時代、個々の消費者のニーズに細かく対応し、「顧客
を創造すること」「顧客を満足させ、つなぎとめること」が、マーケティングの
目的とされました。
マーケティング3.0の世界は、製品やサービスを通じた社会的価値を追求し、
「世界をより良い場所にすること」を目的とすると謳っています。
●利用者がパートナーになる時代
地球温暖化などの環境問題や、経済成長のひずみが生み出した貧困問題、など現
在を取り巻く課題は山積みです。そんな中で現代の消費者は自分の欲求を満たす
だけでなく、自分の購入する商品が地球環境に悪影響を及ぼさないかとかを考え
るようになりつつあります。そのような考えの人が増えてきました。
今日の市場において企業に対する「信頼」が低下していることが指摘されていま
すが、ソーシャルメディア、ソーシャルサービスを効率的に使いながら、企業と
消費者の関係性、絆を高めていくことが、これからますます求められてくるマー
ケティング活動となるでしょう。
ツィッター、フェイスブックなどのSNSの広がりとともに、生活者は水平的な
ネットワークによる緊密に連絡手段を得、価格・品質等についても広く口コミさ
れるようになりました。企業と生活者の立場が逆転してきました。消費者がリー
ドする時代となりました。
いかにして生活者に協力してもらえるか?
生活者に共感してもらえる企業になるために、顧客に対する貢献、社会に対する
貢献の姿勢を明確に打ち出す事が必要です。ソーシャルメディアを通じて生活者
と誠実に対話すること、その積み重ねが共感される企業、ソーシャルメディアに
愛される企業につながるでしょう。
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■執筆者プロフィール
藤井健志
一級建築士、中小企業診断士、ITコーディネータ
(勤務先)(株)日商社 プロジェクト開発部
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