復興から再生へ/玉垣 勲

◇日経平均株価一時、1万円に
 先日、東京市場で日経平均株価が一時、昨年3月10日の1万434円以来の
1万円を回復しました。この2月に日銀が追加金融緩和で世界の緩和に追随、デ
フレ克服の意思を示す消費者物価指数の当面の目標値を1%に設定したことから
株価の先高観もあり、この6月には株価は1万1000円を見通す専門家もいま
す。
 ユーロ危機を契機に欧米の金融機関がアジア太平洋地域から引き上げ、代わり
に日本の金融機関の融資拡大が始まり、日本企業のM&A(合併・買収)案件も
増えてきています。20世紀には米国が強いドルを武器に対外投資を拡大しまし
たが、いま世界経済が大きく変化する中で強い円を武器に日本が対外投資を拡大
する環境が整いつつあり、雌伏20年、日本経済復活のチャンス到来を予見する
強気な見方もあります。

◇東日本大震災と日本の成長力
 一方、東日本大震災、原子力発電所事故の収束を含めて一刻も早い被災地の復
興が最優先の課題であることは国民誰もが感じています。その際に看過できない
ことは、長期的な視点に立って日本の将来像を描くことが、復興推進のためにも
欠かせないと考えられます。現在、先進国共通の課題として一部の高所得階層と
低賃金の単純労働者の分かれる格差拡大があります。この問題解決は容易ではあ
りませんが、だからこそ、経済活性化、そのために新しいフロンティアを切り開
き、そして経済を質的に変えていく成長が必要であると思います。
 グローバル化とアジアの成長は、日本にとって新たな産業を創出する、新たな
仕事を作り出すことになるはずです。大幅に不足する医療や介護の仕事の高度化
は、現実にはそう簡単なものではありませんが、少なくともそうした方向を目指
さないと現状を脱却できません。そのためにも次世代の人材を育て、増やしてい
く地道な努力が必要です。教育や技術習得には多くの時間がかかりますが、その
道筋をきちんと示せば多くの若者が自分の将来に対して明るい展望が持て、それ
が経済を活性化させるでしょう。そのための積極的な人材投資がいま問われてい
ます。

◇若年層を活かした経済活力増進を
 将来的に労働力不足が懸念される中、今後長期にわたって労働力の中核を担う
のは若年層です。総務省の最近の年齢階層別完全失業率によると、15~24歳
の若年層の完全失業率が男子で9%超で、他の年齢層との違いが際立っています。
また、雇用されていても、低賃金の非正規雇用となる割合が高く 、安定的な人
生設計ができていない若年層が多いと言われています。若年層の雇用環境の改善
は間違いなく最重要課題のひとつです。
 人口減少があっても、資本蓄積や技術の進歩が重要な成長のエンジンとなりま
す。絶え間ないイノベーションを生み出すことができれば経済の活力を維持する
ことが十分可能です。これまでの人口増加や高度成長を前提に構築されてきた既
存の制度は機能不全に陥っており、このまま放置すれば、若者や現役世代に一方
的に負担を強いることとなり世代間不平等が広がるだけです。社会保障制度や税
制改革など将来にわたるテーマの論議はこれまでその議論の多くが高齢者中心に
展開され、若者や現役世代の利害が十分に配慮されてきませんでした。
 日本は低成長ながら貿易収支や経常収支の黒字を背景に世界の金融市場で一定
の評価を受けてきました。しかし、貿易収支が赤字に転じ、経常収支も近い将来
赤字となる可能性が高まる中、若い世代が成長の担い手となる持続可能な福祉社
会の突破口が切り開けるかは、この2月に閣議決定された社会保障・税の一体改
革大綱でも「若い世代が如何に夢を持って生きていけるかは、日本の将来を映す
鏡」と謳われたことを理念に終わることなく、若者や現役気世代を加えた上での
論議からこそ実効性のあるものとなるでしょう。
 
◇経済社会と消費者行動の変化
 自由経済下では、ビジネスチャンスに果敢に挑戦できますが、予期せぬリスク
にも遭遇します。今度の大災害も自然災害の側面もありますが想定外のリスクと
見做し、見過ごすことは許されません。震災の影響に思いを致し、今後に備える
のは当然です。消費者の行動にも変化に注目しなければなりません。災害が全般
的な景気の低迷に拍車もかかりました。消費が減退した典型的事例は国の内外を
問わず旅行者の減少による旅行業でした。また、その他のレジャー産業も控え目
となり、消費者マインドは冷え込みました。その一方で、節電でエアコン、扇風
機やミネラルウォーターの消費は拡大しました。
 一方、震災の直接的影響ではありませんが、国内の携帯需要が飽和状態と言わ
れている中、スマートフォンの需要は拡大、今後、アンドロイド搭載も合せたス
マートフォンが携帯電話の主流となる可能性は高くなるでしょう。地デジ化、ス
マートフォンが売れたこと自体が消費の変化でありますが、これらが普及するこ
とで消費行動変化への触媒となります。また、最近に至り、ソーシャル・ネット
ワーキング・サービスはツイッター、フェイスブックの利用が一気に増大しまし
た。これにより消費者にとっての情報の窓口は大きく変わってきました。当然、
今後の消費者行動はますますネットを介した情報を重視し、ネットを介しての消
費の拡大に発展するでしょう。このようなITの進化を如何に取り込むかは中小企
業にとっても取組みべき重要な課題になりました。

◇ブランド力を高めて地域産業の再生を
 今度の東日本震災、ユーロ危機をはじめとする世界経済の変動は、改めて「事
業継続」の重みを実感しました。変化や危機に直面した時には、自らの商品特性
を明確にしながら人手やお金をさほどかけずに各社が新たな取引先の開拓や顧客
との関係強化に取り組む際に力となるのが、ホームページやブログさらにはツイ
ッターやフェイスブックなどのソーシャルメディア、スマートフォンやタブレッ
トなどのモバイルがあります。これらのITツールを活用して自社のブランド力を
高めることができます。
 さらに、私たちは、今後の東北の復興を将来の日本の経済再生のモデルとすべ
きとの認識が必要です。地域経済再生のために復興支援と共に自らの地域経済の
再生に新たな戦略を構築する必要があります。その再生を担う主役は地域に根差
す中小企業の活性化です。
 全国各地域社会にはそれぞれの特性がありますが、とくに各地域の伝統産業、
観光業の特性発揮の重要性は強まってきます。現状維持は、「後退の域をでない」
との認識のもとに、伝統産業の再生、観光業の新たな展開が大いに期待されます。
その発展のカギはITツールの利活用にあるものと存じます。行政、関係団体、経
営・IT関係専門家に加え、地域金融機関のIT利活用のための中小企業支援が相ま
って地域経済の再生がなることに今一度思いを致し英知と行動力を結集したいも
のです。


■執筆者プロフィール

玉垣 勲
IT経営・代表、労務管理事務所・所長
(中小企業診断士、通訳案内士(英語)、ファイナンシャルプランナー)