■天才ジョブズ氏との別れと追悼
アップルの創業者、スティーブ・ジョブズ氏がこの世を去っていくばくかの時
が流れ、彼の残した功績、影響についていろんな方々が語っておられます。銀座
のアップルの前には花とりんごが飾られたりしてその死が悼まれていました。
カリスマ創業者の死、かってソニーの盛田昭夫さん、ホンダの本田宗一郎さん
の時もそうでしたが、経済・産業界の中にあってもその生き様への共感、あるい
は革新性から、広く一般の人々からもその惜しむ声が拡がりました。
かつて80年代は、ソニーのウォークマンを持っていると羨ましがられたもので
す。いつのまにかiPodにすっかり取って代わられ、先日発売になったiPhone4Sも
注文殺到となり、システムトラブルまで発生しました。
■デザイン・ドリブンなユニクロの世界戦略
また一方でユニクロがニューヨークに超巨大店舗をオープンします。10月14日
「ユニクロ ニューヨーク5番街店」をすでにオープン、続いて10月21日には、
「ニューヨーク34丁目店」をオープンします。
コンセプトは「未来のユニクロ」です。
2006年にニューヨークソーホー店を海外で初めて出店。その後ロンドン、パリ、
上海、心斎橋と旗艦店を展開してきました。そして再びニューヨークに戻ってグ
ローバル巨艦店の世界展開を目指します。
未来への発信、戦略ストーリーが見事にデザインされています。
ユニクロのイノベーション・プロジェクトはデザイン面では私が勝手に師匠と
して尊敬している佐藤可士和氏がクリエイティブ・ディレクターとしてが参加さ
れています。画期的な機能性と普遍的なデザイン性を融合し、世界の人々のため
の「究極の服」を開発すると謳われています。
http://kashiwasato.com/#uniqlo_innovation_project
■キーワードとしてのデザイン
アップルにしてもユニクロにしても商品から店舗づくり、店員のサービスまで
すべてが一貫して全体を貫くストーリーが見事に流れています。
かってはデザインというようなものは商品が成熟化し、同じような製品が肩を
並べる中で差別化する手段として検討されるといような位置づけでありました。
それが上記2社のように、最近ではコンセプト段階からしっかりデザイナーが参
加するようになって来ました。
会議所、行政関係のセミナーなどでも最近ではデザインに焦点を当てたテーマ
のものもよく見かけられます。デザインというものの比重が、徐々に大きくなっ
てきているようです。
■デザインとは
では、デザインdesignとはいったい何でしょう。
ウィキペディアでは、「デザインの語源はデッサンdessinと同じく、“計画を
記号に表す”という意味のラテン語designare である。つまりデザインとは、あ
る問題を解決するために思考・概念の組み立てを行い、それを様々な媒体に応じ
て表現することと解される。
日本では図案・意匠などと訳されて、単に表面を飾り立てることによって美し
くみせる行為と解されるような社会的風潮にあったが、最近では語源の意味が広
く理解・認識されつるある。」と書かれています。
この定義付けが正しいかは別にして、概ね共通の概念として上記のように理解
されていると考えて差し支えないでしょう。つまり計画、意図、考え方、その意
味をさまざまな媒体、すなわち製品やプログラムや映像やら・・に表現すること
と私は考えます。言いたいこと、伝えたいこと、思いを形に表現することでもあ
ります。
ただユーザーはその思いを受け取る側であり、ユーザーが認めてくれなかった
ら、その商品は受け入れられない(売れない)ということになってしまいます。
芸術家はその存在をかけて自分に満足する表現を追求すればいいのですが、デザ
イナーは見る人を満足させるようなことを考えねばなりません。
アップルの、いやスティーブ・ジョブズ氏の生み出した、誰にでも簡単に扱え
るノートがわりのコンピューターMacintosh のシンプルな美しさ、アップル復帰
後の斬新なコンセプトとデザインのiMac、iTunesとiPodによる音楽事業参入、そ
して2007年のジョブズ氏の伝説のプレゼンテーションでその素晴らしさを印象づ
けたiPhone。
多くの人々が、その革新性とともにデザインの細部へのこだわり、プレゼンか
ら販売店(アップルストア)、製品に一貫したデザイン性に、ファンは惹きつけ
られてきました。アップルにとってそのデザインの力は、大きなブランド力とな
っています。
■生き方をデザインする
ものから人へ、心の時代へと言われて久しくなります。環境、文化など心の時
代に相応しい事象への関心はますます高まってきています。だが現状はまだまだ
厳しい経済環境が続いています。社会のために、経済発展のためにという社会全
体の論理が主であった70、80年代から、個の価値観、個人の論理というものが注
目され、表に出るようになってきました。「ホンネ」と「タテマエ」という言葉
がよく使われます。「タテマエ」は社会の論理、「ホンネ」は個の論理、個人の
生き様への欲求です。
デザインというキーワードに触発され、スティーブ・ジョブズ氏の思い出に吹
かれて、「自分の生活をリ・デザインする」というようなことも考えてみたいと
思っています。
■執筆者プロフィール
藤井健志
一級建築士、中小企業診断士、ITコーディネータ
(勤務先)(株)日商社 プロジェクト開発部
fujii@nisshosha.co.jp
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