地方と都市部を繋ぐ制度の活かしかた/松井 宏次

梅雨明けの陽射しの下でも夜の燈に照らされたなかでも、臙脂(えんじ)をベ
ースにした装飾の、その映える様の見事なこと。中国、インド、ペルシャ、シ
ルクロードを伝わって来たタペストリーの文様と色彩は、山鉾を見に集まった
人々の目を今年も楽しませてくれたことでしょう。
ひと月に渡る祇園祭りも終わって8月。京都の街は、あちらこちの町内で、地
蔵盆の準備が始まる頃となります。
よく話題になることですが、伝統やしきたりを伝えていくことと、新進の動き
を迎え入れ取り込むこと、その両面を持つことが京都の特長のようです。

■地方の市町村で、地域に根ざした事業のお手伝いをさせて頂くことで、街や
村、地域という単位のことを、さまざまに考える機会が多くあります。ご支援
する事業が、商工業、サービス業であれ農林漁業であれ同じです。

農林漁業という1次産業は、どのような地域や地方にもあり、その地の特色も
持つ地域資産として重視されるべきものです。ただ、1次産業だけでは十分な
収益が得られないのが一般的な現状。地方の活力を取り戻す方法としては、1
次産業をその枠に留めるのではなく、それをひとつの核とし、2次、3次産業
と有機的に繋がりながら、新しい産業を生み出すことが望まれます。

こうした新しい取組みを行うとき、必要な鍵のひとつが、「よそ者」の登場で
す。ことに、過疎地や過疎化傾向にある地域にとっては、よそ者の登場と活躍
が不可欠です。しかし、そうした地域で、都市部などの外部から来た人が活躍
をすることは、容易ではありません。その人が、事業や産業を興す力を備えて
いたとしてもです。多くの地方では、外部の人材を受け入れる力すらも失われ
ていることが、しばしばです。

■ここでは、農業に関連して地方にある地域と都市部等の外部とを結ぶ公的な
制度を紹介してみたいと思います。最近の京都府で始まった制度「モデルファ
ーム運動」をその例として取り上げます。

農業は、食糧生産だけでなく多面的な機能を持つという考えが、まず基本にあ
ります。農業に用いる農地は、農作業の生産基盤であるとともに、生態系の保
全や国土保全、水源のかん養機能、地球保全、良好な景観の形成など多面的で
公益的な機能を有しているという考えです。
そうした農地について、保全・活用を進めようとするとき、過疎化、高齢化地
域で起きている耕作放棄地の増加は、大きな問題と把握されます。モデルファ
ーム運動では、地域の土地所有者や集落の住民だけでなく、広く、企業、NPO、
学校などの団体の参画・協同を想定しています。地元と、参画・協同する活用
団体との間で活用協定を結び、その運動を推進するという仕組みです。
このとき参画協同する活用団体は、地元である必要はなく、むしろ都市部の団
体、人々がそれを担うことが期待されます。

このモデルファーム運動そのものは、直接、地域での新しい産業や事業への取
り組みを支援するわけではありません。しかし、仮に農業の多面的機能が多く
の人の賛同を得たとしても、それだけで、農地を守る運動が長く継続し、従来
の1次産業の枠を越えての地域の新たなビジネス創出には繋がっていかないだ
ろうことは、あらためて押さえておきたいと思います。
この運動を契機とし、外部からの参画・協同者があってこその、新しいビジネ
ス、産業が生み出されることが大切です。

ビジネスに直結しない運動の制度であればこそ、地域に必要なよそ者の活躍を、
じっくりと促すことができるとも言えそうです。
まずは、公的な機関のマッチングやコーディネートによって、外部の力の受け
入れを経験し、試し、確かめてみる。そのうえで、その地域を基盤とした新し
い事業を、外部の知恵や力を大いに使いながら立ち上げる。
そういった視野、視点も持ちながらの制度利用をすすめてみたいと思います。

参照
http://www.pref.kyoto.jp/modelfarm/
http://www.maff.go.jp/j/soushoku/sanki/syokuhin_cluster/index.html

■執筆者プロフィール

松井 宏次(マツイ ヒロツグ) SoftPlow Business Lab
ITコーディネータ 1級カラーコーディネーター 中小企業診断士
e-mail:hiro-matsui@nifty.com Twitter : honobuono