外部環境の変化に有事即応できる経営体力の増強策を探る/玉垣 勲

■国際価格の上昇
 このところ資源、食糧価格の高騰が続いています。これまでデフレの進行を懸
念してきましたが、石油、小麦などの上昇が将来にわたり続くとインフレとなり
いわゆるスタグフレーション(不況下の物価上昇)の心配さえ出てきます。この
ような国際価格上昇の背景は、中国などの新興国の需要拡大、それに先進国の金
余りによる投機資金が商品市場へ流れていることにあります。
 国際価格の高騰は今後どうなるのでしょうか。引き続き中国など新興国の需要
拡大、先進国低金利政策は持続するものと思われますので一朝一夕にこの現象
が治まるとは思えません。
 この潮流の変化に対して国際経済との係わりの深い日本は、原材料、資源の調
達力の強化、優れた技術力を発揮して付加価値の高い産業構造への転換が一層求
められてくるでしょう。

■外部環境の変化への対応
 一方、日本の金融市場を見ますと、世界とりわけアメリカの市場動向に大きな
影響を受ける体質にありますが、経済と相応の関係にある政治は不安定ながらリ
ーマン・ショック以来徐々に立ち直りが見られてきたところでした。
 ところが先に見ましたように原油などの上昇で株式市場などは上昇機運に冷や
水をかけられたかっこうで投資家もそのスタンスは慎重な態度に変化の兆しが見
られますし、円為替も円安に向かう材料もいまのところ見当たらず輸出依存度の
高い日本経済の先行きは楽観できません。
 また、何よりも産業界、企業にとってコスト上昇による企業収益への圧迫、家
計部門には、雇用、給料への影響が心配され、生活防衛を余儀なくされます。

■京都を代表する企業の存在
 しかし、日本経済・日本企業はこれまでも数々の試練を忍耐力、進取の精神、
行動力で乗り切ってきました。
 過日、NHKテレビ「ルソンの壺」で京都を代表する企業の一つであるユーシ
ン精機の小谷真由美社長が出演する番組を見ました。同社は、昭和44年創業の
企業ながら今では取り出しロボット生産で世界の4割、日本で6割のシェアを誇
る大企業です。先代は、現社長の夫で、創業から長らく先代は開発、現社長は営
業の二人三脚で今日の成長を遂げられました(惜しくも先代は若くして他界)。
 同社長は、企業発展・成長のカギを問われ、「常に進化することである」と言
われてましたが、「高速化、ヒントは現場にあり」をモットーに幾多の困難を乗
り切って来られたとのです。また「不況期は次なる進化を遂げる好機である」と
の発言には感動も覚えました。
 物静かな語り口ながらも気迫がみなぎっており海外出張は月に一度は欠かさず、
毎週月曜日には朝7時半から本社幹部が集まって会議を開いて、現場の動向など
を共有することにしているとのことでした。市場開拓、海外進出にはとりわけ積
極的で、次なるターゲットはベトナム、インドネシアへ行くと言い、その行動力
には脱帽です(私ごとながら殆んどおみかけすることはありませんが、同社長宅
は私の家のごく近所です)。

■大小の企業群の存在
 同じく京都を代表する企業で、化合物半導体を中心に生産している「サムコ」
があります。同社の辻 理社長とは以前にお会いしたこともありますが、辻社長
も温厚な人柄でありながら若くしてシリコンバレーに行って学んだ研究者であり、
行動派でもあり、いまでは京都、シリコンバレー、英国ケンブリッジ大学の三極
体制で研究開発を行い、これから薄膜事業に関連する新事業、新分野をいち早く
立ち上げる、さらに社会に貢献したいと言うベンチャー企業です。
 一方、日本経済の基盤を支える地元中小企業の存在、創業企業の林立は経済発
展に欠かせません。私の自宅近辺でも元野球選手が串かつ、やきとりのお店「夢
叶」を先頃創業、また1年ほど前にできた店名「まるや」の食品店があります。
まるやは小さなお店ではありますが開店当初は、揚げ物だけのお店でしたが最近
では、肉、お弁当など品数を増やしており店の前には車での買い物客も目立つよ
うになってきました。私も時々立ち寄りますが、このようなフェイス・ツー・フ
ェイスの地元販売店の存在も生活者には欠かせないことも忘れてはなりませんね。

■進化を続ける通信技術、ITツールの活用
 SaaS、クラウドコンピューティングなどITツールの進化は止まるところ
を知りませんね。メーカーにおいては、身の丈に応じたITツールの導入、高度
化で品質、納期、コスト3拍子そろった最適システムを導入して経営革新に成功
した企業の事例、IT機器そのものへの投資を抑えてクラウドコンピューティン
グで顧客増を図った販売業の事例、低迷期にあった経営状況下でIT機器などへ
の新事業投資で品質と地元産の原材料を駆使して市場に新風を起こした農業事例
さらにIT機器の活用と所謂IT経営の推進で危機を乗り切ったサービス業の事
例など成功事例は枚挙にいとまがありません。そのいずれの事例も行政などの支
援制度の活用、ITコーディネータなど外部の専門家のアドバイスが奏功してい
ます。
 また、最近ではインターネットで使えるWeb、ブログの他にtwitter
(ツイッター)facebook(フェイスブック),mixi(ミクシー)など
の上手に活用して顧客増、販売チャネルの拡充を試みる新手も登場してきました。
 このように時代、環境の変化に対応して果敢に挑戦する意欲ある企業から多少
の紆余曲折はあっても、社内の人材は育ち、外部との人脈、ネットワークの拡充
がなり、経営改革、IT経営の推進力は高まり、事業のさらなる発展が見込める
ものと存じます。


■執筆者プロフィール

玉垣 勲
IT経営・代表、労務管理事務所・所長
(中小企業診断士、社労士、通訳案内士(英語)、ファイナンシャルプランナー)