社長のITレベルが上がれば確実に業績はアップする/成岡 秀夫

<はじめに>
●業績が芳しくない企業の社長さんの共通項で、ひとつ感じるのはその年齢
だ。おおよそ65歳前後というのが、ひとつの分岐点になっているように感じ
る。生まれ年では昭和20年前後になる。団塊の世代より少し前の世代だ。この
世代、年齢の方は、特にITに関する分野では両極端な傾向を示す。つまり、非
常にITに関して造詣が深く、自身でもいろいろとトライされている方々と、も
はや自分ではやらないと割り切って、全く取り組まない方々だ。当然、結果と
しては前者のほうが、やはりグッドな結果が出ている。

●Windows95が世に出てから15年。いま65歳の方は当時50歳。50歳といえば、
ばりばりの現役で一番忙しいときだ。社内のランクもかなり上だろう。いま社
長をされている方は、おそらく当時も代表取締役だったに違いない。そうなる
と、周囲が黙っていても、こういう社長が不得意な分野は、誰かがカバーする
ものだ。また、そうでないと会社は成り立たない。それまでは、そうやって組
織全体でカバーしてきた。全社一丸となって汗をかけば、当然会社へのリター
ンも増えるし、個人にも戻ってくる。

●忙しいのにかまけて、IT特にパソコンを中心とするITスキルアップに真剣に
取り組まなかった。具体的な業務や操作は、周囲の誰かがやってくれた。人に
頼んでおけば、何とかなった時代環境だった。社長の周囲にはベテランの女子
社員が多く存在した。人も余裕があった。頼めば誰かがやってくれた。そんな
いい時代だったから、好んで進んで自分が苦労しようと思わなかった。苦労し
なくても、当時は何とかなった。まだ、世間でそんなにIT、IT、WEB、WEBなど
と言わなかった。だから、のんびり構えていた。

<成岡もそうだったが・・・・>
●意外かも知れないが、成岡も実は当時は食わず嫌いだった。ワープロが普及
しだした頃、全然見向きもしなかった。結構自筆の字がきれいだったので、特
に清書の必要を感じなかった。また、社内に多くの事務系の社員がいて、特に
毎年新卒の大卒女子を採用していたから、そういう業務を任すに困らなかっ
た。だから、悠々自適でほとんどそういうことに手を染めなかった。相変わら
ず、罫線の紙に表を作って、電卓でたたいて足し算をしていた。縦横が合わな
いのはしょっちゅうで、それを合わすのに時間がかかった。

●ところが大転機が訪れたのは、子会社の責任者になり東京に単身赴任したと
きからだ。売上はそこそこ大きい子会社だったが、管理部門の人員は数名。特
に東京本社の管理部には、数名のスタッフしかいない。関連の大企業との報告
会議が毎月開催され、そこに数字の資料や毎月の業務報告書が必要になる。内
容が内容だけに、誰にも頼めない内容がてんこ盛りだった。なので、止むに止
まれず自分でしないといけなくなった。さあ、最初は大変だった。数字が合わ
ないから、時間がかかること、おびただしい。

●そこで、割り切ってこれは正面から取り組まないといけないと達観した。こ
の割り切り、諦めが今日の姿の元になっている。あの時、子会社の責任者で東
京に単身赴任しなかったら、これほどになっていたかどうか、はなはだ疑わし
い。逆境に掘り込まれたから、仕方なくやらざるを得なかった。意外と人間そ
ういうもので、割り切って開き直ったらできるものだ。まずいも、遅いも、恥
ずかしいも、面倒くさいも、そんな悠長なことを言ってられない環境になっ
た。これが神からの言いつけだった。それに真剣に取り組んだ。

<トップがITに弱い企業は業績も上がらない>
●これ以降、真剣に取り組めば取り組むほど、スキルは上がるし技術は向上す
る。そうなると欲が出てくる。もっと、もっととどんどん前に進むようにな
る。人間という動物は、自分でやると決めたことは、少々何があってもひるま
ない。そして、そのスキルと技術を使って、社内にどんどん改善、改革を求め
るようになった。自分が中年で出来たんだから、若い連中はもっとやれるはず
だ。年配の社員も、頑張れば出来る。とにかく、トップが自分で経験、体験し
たことだから、誰も反論できない。

●まずは、自分からメールやグループウエアで発信する。会議のデータを自分
で作成する。丸秘の部分は削って、見せてもいい部分だけを幹部に公開する。
それを使って会議をする。研修の講師を自らする。外部との会議に自分で作成
した資料を出す。自分で作成したら、説明もうまくできる。他人の作った資料
を説明するのは難しい。自分で作成すれば、自分で説明しやすい。他人に作ら
すと時間がかかる。気に入らない部分をとことん直さす。それに時間がかか
る。周囲も迷惑する。

●当日近くなって、前日あたりに、また気が変わる。それを依頼される部下も
たまったものではない。そんなくらい自分でやれと心では思っているが、相手
がトップだから言えない。そうなると、不満がお腹にたまる。来期の計画、数
字の予算、人員の配置、重点項目など、他人に頼めない内容のものも多い。こ
れが自分でできないと、双方にストレスが溜まる。生産性は著しく損なわれ、
部下のやる気は大きく損なわれる。顔では笑っているが、心の中ではバカにし
ている。これでは組織の活性化どころではない。

<どうすればトップのITレベルが改善されるか>
●素直になればいいだけだ。自分が遅れていると思えば、それを素直に認識す
る。そして、自分で改善を考える。考えにくいときは、周りのよき理解者に助
言を求める。そして、自分の力量にフィットした家庭教師をしばらくゲットす
る。誰か近くにいて、少し困ったとき、行き詰ったとき、迷ったときに、気軽
に質問し指導をしてくれる個人家庭教師がいないといけない。成岡も実家の85
歳のワープロも触ったことのない母に、携帯のメールを教えるのに3ヶ月か
かった。しかし、何とかなった。いま、非常に役立っている。

●集中してやれば、3ヶ月くらいで簡単なメールのやりとりくらい出来るよう
になる。いや、出来るようになるんだという意思を持ってやれば、必ず何とか
なる。何とかするんだという気持ちで始めないといけない。もし、全社員に向
けて、社長が自分の言葉でメールで語ることができたら、その効果は非常に大
きい。ユニクロの柳井さんは、毎年正月の冒頭に全社員に向けて、その年の決
意、目標、をこんこんと語りかけるメールを送っている。もう年中行事になっ
ている。書籍にその内容が全部掲載されている。

●とにかく、社長が短期間に変わると、会社の空気、雰囲気が一度に変化す
る。口で変革、変革と言っても、社員はぴんと来ていない。それが、パソコン
から遠い存在だった社長が、もりもりと全社員宛に檄文のメールを送ったら、
確実に会社は変わる。そんなに高い投資ではない。要は、トップの意思とやる
気の問題だ。それを、いつまでも他人のせいにしていては、会社は変わらない
し、まして、変革などおぼつかない。今まで通りなら、そのうちに沈没するの
がおちだ。とにかく、一刻も早くとりかかることだ。


■執筆者プロフィール

株式会社成岡マネジメントオフィス 代表取締役 成岡 秀夫
1952年生まれ京都市出身 大手化学繊維メーカーの技術者から転身し、義兄の
経営する京都の出版社、印刷会社で取締役。1995年に出版社の破綻を経験し、
以降中小企業診断士、高度情報処理技術者、事業再生士補の資格を取得。
2003年独立し株式会社成岡マネジメントオフィス設立。(社)中小企業診断
協会京都支部常任理事、(協)京都府中小企業診断士会専務理事、京都府中小
企業再生支援協議会外部専門家他公職多数。同志社大学大学院ビジネス研究科
非常勤講師(中小企業コンサルティング講座担当)。