平成21年12月4日、中小企業の債務負担の状況を考慮して、金融機関に貸
付条件の変更等を促す「中小企業金融円滑化法」が施行されました。
これは、元本の返済猶予や、返済期間の延長、旧債の借換え、デット・エクイ
ティ・スワップ(債務の株式化)など、債務の弁済負担の軽減行うすべての措置
が含まれたものとなっています。
1.中小企業金融円滑化法のポイント
(1)中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律に
定められたこと
a、中小企業者等から返済条件の変更等の申込みを受けた金融機関は、できる限
りそれに対応するよう努める義務がある。
b、金融機関は、金融円滑化法に対応した社内の体制整備を行い、その情報を開
示する義務を負う。
c、金融機関に、貸出条件の変更等の実施状況を当局に報告するよう義務付ける。
(虚偽報告に関しては、罰則を付すこととする)
行政庁はこれを取りまとめて公表する。
(2)金融検査マニュアルで追加、改訂されたこと
a、マニュアルの指針に「経営相談・経営指導等をはじめとした金融仲介機能の
発揮」が書き加えられた。
[金融検査マニュアル本冊 金融円滑化編チェックリストより]
・金融機関が債務者の経営実態を踏まえて、経営相談・経営指導及び経営改善
に関する支援を行うことの確保
b、不良債権に該当しない条件変更の要件が拡充された。
[金融検査マニュアル別冊 検証ポイント5(2)(ニ)より]
・債務者が抜本的な経営再建計画を策定していない場合であっても、債務者が
中小企業であって、かつ、貸出条件の変更を行った日から最長1年以内に当
該経営再建計画を策定する見込みがあるときは、当該債務者に対する貸出金
は当該貸出条件の変更を行った日から最長1年間は貸出条件緩和債権には該
当しないものとして判断して差し支えない
2.中小企業に対する返済猶予の現状等
(1)緊急保証制度の利用
2008年10月に創設された「緊急保証制度」は中小企業にもっとも利用
された制度で2010年3月末時点でその利用実績は103万件、総額19兆
円を超えています。
(2)返済猶予の実行等
金融庁の「金融円滑化法による貸付条件の変更等の状況の実績」によると、
施行から2010年3月末までの返済猶予の申込みは、全金融機関合計で、
46万5,904件、金額ベースでは12兆8,129億円にのぼります。そ
のうち、35万4,463件、金額ベースで10兆1,027億円が実行され
ています。これは実行率で76.1%となります。未実行の中には、「審査中」
が8万9,742件(2兆2,085億円)、「取下げ」が1万5,435件
(3,046億円)あり審査中と取下げの件数を除いた実行率は98.3%と
なります。ちなみに、「謝絶」は6,264件、金額ベースで1,956億円
となっています。
また、返済猶予期間はおおむね半年から1年以内ですが、半年間様子をみて
期間延長されることが多いようです。
(3)経営改善計画
上記のような返済猶予の大規模な実行は、政府の緊急保証制度の返済負担の
軽減の意味があり、返済猶予を受けた企業は、最長1年以内に「売却可能な資
産、削減可能な経費、新商品の開発計画、販路拡大の見込み」などを含む経営
改善計画等を提出することが求められます。
金融機関が貸出条件の変更を行う際に、経営改善計画等がなくても、最長1
年以内に計画等を策定することができる見込みがあれば、不良債権とはなりま
せん。しかし、条件変更の申込みをするときに経営改善計画が策定できていれ
ば金融機関との交渉がスムーズに進むこととなります。ある都市銀行では、条
件の変更を行った中小企業で経営改善計画が未策定の先が1万9,000件程
あるといわれていますので事前の策定がより必要になってくると思われます。
ITを利用すれば、経営改善計画を素早く、簡単に作成することができ、ま
た、経営者の考えるいくつかの戦略についてシミュレーションし、最適なもの
を選択することができます。
新規の融資が厳しく、返済猶予を受けることは資金繰りの厳しい会社にとっ
て最後の手段となります。一時的ではありますが目先の資金繰りに追われず、
新たな取り組みにチャレンジする最後のチャンスであると考え、真摯に取り組
んでいただきたいと思います。
私どもが応援させていただきます。
■執筆者プロフィール
竹内政明(たけうち まさあき)
竹内政明税理士事務所
代表 税理士・ITコーディネータ
(TKC全国会会員・電子申告、書面添付推進事務所)
TKC継続MASシステムによる経営改善計画策定から業績管理のお手伝いを
させていただきます。
TEL075-863-3377
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e-mail masaaki@oak.ocn.ne.jp
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