仕事柄いろいろな事業所、事務所、工場、本社などにお邪魔することが多い。
総合的に見ると、業績の良くない会社にはそれなりに共通の特徴が感じられる。
その企業が危険な水域に入る予兆として、以下のことが言えるのではなかろうか。
●経営者の人柄・人物
高度成長期に創業されて30年以上経ち、ぼちぼち後進への事業承継を考えてお
られる経営者も多い。そういう方の一番陥りやすい落とし穴は、過去の成功体験
の呪縛から抜け出せないことだ。業績を伺うとほとんどが最大ピークの時点での
売上、従業員数、利益額をおっしゃる。そこから10年くらいでジェットコースタ
ーのように業績が急降下している。そういう方に限って業界団体の役職が多い。
どうでもいい会合に時間をとられる。
業績は、たいてい売上、利益のお話が中心になる。資産や負債の内容にはなら
ない。借入金の背景や理由もよく分からない。ここ数年の業績の変化、推移とそ
の理由、原因を聞いてもよく分からない。要するに、他人のせいだという結論に
なり勝ちだ。仕入先が悪い、取引先が悪い、顧客が減った、金融機関がカネを貸
さない・・・・、愚痴のオンパレードになる。業績や実績の資料をお願いしても、
すぐには出てこない。担当者に電話をして持って来てもらっても、それがたいて
い当方からのお願いの主旨と違う内容のものが出てくる。名刺が縦書きで、メー
ルアドレスが書いていない。書いてあっても、共通共有のアドレスで経営者個人
の固有アドレスではない。
●社員や従業員の様子
受付の女性に元気がない。返事が暗い。対応が遅い。アポイントの電話のとき
に社長のスケジュールが分からない。連絡が取れない。折り返しの電話の返信に
時間がかかる。用件の電話がたらい回しになる。お待ちくださいの待機時間が長
い。また出た次の担当者に同じ事を言わないといけない。あまり来客や人の出入
りがない。宅急便や来訪者もほとんどない。訪問中に電話もかからない、いたっ
て静かな事務所。従業員の制服があるのだろうが、ばらばらの印象。名札が曲が
って付いている。帽子のかぶりかたもいい加減。全体的にくたびれた、疲れた印
象が強い。活気ややる気、明るさが感じられない。
●事務所の様子・雰囲気
立派な社長室はあるが、全然機能的ではない。応接セットは置いてあるが、来
客との談笑用だ。きちんとした会議室的なデスクと椅子ではない。たいていホワ
イトボードはない。応接間には、業績の表彰状よりゴルフ大会優勝のカップが並
んでいる。有名人とのツーショットの写真が飾ってある。その横に、「経営理念」
と書いた紙が無造作に壁に押しピンで留めてある。ちぐはぐな感じがして居心地
が悪い。椅子やデスクが片付いていない。椅子もサイズがばらばら。重要な書類
の綴りが無造作に周囲の棚にそのまま置いてある。
逆に異常にお金をかけたであろう応接間、社長室も居心地が悪い。成金趣味で
インテリアもちぐはぐな感じがする。壁にかけてある絵、カレンダー、色紙など
が非常にアンバランス、統一感がない。自社の製品や商品も、非常に古いものが
やたら並べてある。日付を見たら5年前、10年前の自社製品が無造作に置いてあ
る。
廊下の奥のトイレを借りるといろいろ見なくてもいいものも見てしまう。トイ
レの清掃が行き届いているかどうかも重要な判断のポイントだ。
●製品や商品、事業所内部
社内はそう簡単に見学はできないこともあるが、倉庫や製造現場を社長に要領
よく案内をしてもらえると、非常に安心できる。あるいは案内を担当した若い社
員や、比較的年配の役員の方でも、説明がうまくポイントを外さない。特に製造
業の現場、物流倉庫などを拝見すると、おおおよその企業業績が判断できる。物
流センターの整理整頓状況も、おおいに参考になる。現場を見ればおおよその察
しがつく。
倉庫横の事務所の乱雑さも参考になる。壁に張ったメモや伝票、掲示物、本社
からの回覧の書類。ほとんど賞味期限が切れたような書類が、薄汚れて壁に押し
ピンで無造作に留めてある。電話番号の掲示、緊急連絡網の掲示、今日の朝礼で
の伝達事項のメモなどが無造作に張ってある。
●ITレベル
業績の悪い会社のITレベルは低い。低いのは低いなりにその原因がある。ほと
んどの場合トップの理解が不足している。現在の経営環境では、自社がどういう
風にITを利用活用し情報化に取り組み、最終的にどういう姿を目指すのかという
ビジョンが描けていない。あるいは、自分で描けないので外部に丸投げする。我
がことになっていないから、外部からいい提案があっても理解できない。自分で
できなくてもいいのだが、IT技術の中心的な部分はきちんと理解し、周囲や外部
のスタッフに的確に方向性を示さないといけない。それが全くできていない。出
来ていないことが自分ではなく、他人のせいになる。
●総じて
事業や会社の成長は、トップの器以上にはならない。これは絶対的な古今東西
からの真理だ。業績を伸ばし企業が成長するには、いろいろな要素が必要だが、
まず一番必要なのはトップが変わることだ。それなくして、いくら会議のやり方
を変えたり、組織図をいじったりしても、根っこが変わっていないとその効果は
全く現れない。そこを部下や他人、外部環境のせいにしている限り、自ずと限界
がある。生き残り成長を目指すためには、まずトップの自覚と変革への覚悟が必
要だ。
■執筆者プロフィール
株式会社成岡マネジメントオフィス 代表取締役 成岡 秀夫
1952年生まれ京都市出身 大手化学繊維メーカーの技術者から転身し、義兄の
経営する京都の出版社、印刷会社で取締役。1995年に出版社の破綻を経験し、以
降中小企業診断士、高度情報処理技術者の資格を取得。2003年独立し株式会社成
岡マネジメントオフィス設立。
(社)中小企業診断協会京都支部常任理事、(協)京都府中小企業診断士会
専務理事、京都府中小企業再生支援協議会外部専門家他公職多数。
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