意志決定とシステムダイナミックス/柏原 秀明

■ はじめに
 ビジネス・プレイヤーとして国際・国内ビジネスを担うベンチャー・中小・大
手企業は,24時間・365日,外部環境の急激・急峻な変化(社会・政治・経
済・技術・金融・経営など)の波に立ち向かっている。この急激・急峻な変化の
波を乗り越えて継続的に企業業績を向上させるためには,企業活動における迅速
で正しい“意志決定”がますます重要になってきている。この背景には,20世
紀の後半に始まった,“情報通信革命”が,21世紀のビジネスを複雑で変化の
激しい環境へと導いたことが挙げられる。 
 我が国の企業にとって重要なこの“意志決定”のプロセスは,いまやKKD
(経験,勘,度胸)を中心に押し進められるものではないことはご承知のとおり
である。意志決定のプロセスにおいて重要なことに,参画者間の“納得のいく合
意形成”がある。即ち,この“納得のいく合意形成”を得るためには,“客観的
状況・事実データによる複数の分析・評価結果の提示(ドラフト)”による議論
のプロセスが重要である。したがって,ここでは“意志決定”を有効に行うため
の手段としてのシステムダイナミックスとそのツールについて概説する。

■ 意志決定とプロセス
 意志決定(Decision Making)とは,“ある目標を達成するために,複数の選択可
能な代替的手段の中から最適なものを選ぶこと”と説明されている[1]。最終
的に意志決定者が,“意志決定”を行うためには,その意志決定プロセスにおい
て参画者との合意形成を醸成することが必要なことが多い。この合意形成の過程
では,透明性のある確かな情報に基づいて意志決定者と参画者とが議論をおこな
い,納得のいくプロセスを共有することが重要になる。
 
■ システムダイナミックスとツール
 システムダイナミックスとは,1956年にマサチューセッツ工科大学のジェイ・
ライト・フォレスター(Jay Wright Forrester)教授によって創案された。シス
テムダイナミックスは,注目する対象に対してモデル作成を行い,そのモデルに
定義されている変数の時間経過現象を容易に挙動把握できる考え方である。この
システムダイナミックスの考え方の特徴は,対象が線形問題や非線形問題であっ
ても容易にモデル化できることである。したがって,色々な分野(社会・政治・
経済・技術・金融・経営)を対象にした複雑なシステムの時間に基づく厳密もし
くは近似予測結果を取得することができる。
 システムダイナミックスの活用分野は広範である。たとえば,ビジネス経営戦
略問題,企業の財務会計・経営分析問題,社会問題(国際関係,都市の成長・衰
退,企業政策,商品価格の変動,人口増加,産業構造),技術問題(技術の陳腐
化,新製品開発プロジェクト,人工臓器,資源開発システム),生態系・生態学
上の現象(生物集団の発展と調整,食物連鎖,行動科学,個人行動,環境破壊,
産業廃棄物汚染,世界資源,地震)などである[2]。

 システムダイナミックスの基本要素には,以下の4つがある。
・ストック : 蓄積したり減少したりする量を表す
・フロー  : 単位時間あたりに発生した変化量を表す
・コンバータ: 注目する量の変換を表す
・コネクター: 補助変数としての情報ラインを表す

 対象モデルの作成は,これらの4つの要素の組み合わせにより実現できる。こ
こで重要なのは,この対象モデル作成の出来/不出来によって目的を反映した結
果が得られるかが決まることである。したがって,実際の様々な分野で抱えてい
る問題を,如何にして妥当なモデル作成までにこぎつけるかに掛かっている。シ
ステムダイナミックスのツール(ソフトウエア)には,次の3つのパッケージが
よく知られている。
 
・VENTAN社の“VENSIM Software”[3]
・Powersim Software AS 社の“Powersim”[4]
・isee systems社の“iThimk/STELLA”[5]

 これらのツールは,システムダイナミックスの基本的な考え方や機能は同じで
あるが,各社独自の機能付加を行っている。また,これらのツールは,各社の
Web. Siteからフリー版が提供されている。これらのツールを活用し一度,モデ
ル構築を行うと,次回からは,そのモデルを改良して以前の結果と比較し,複数
の選択可能な代替手段の分析・評価を迅速に行うことができる。このことにより
最終的な“意志決定”を実施する場合,合意形成プロセスにおいて複数の代替手
段の分析・評価結果の中より最適な案の選択がスムースに行うことが期待できる。

■ おわりに
 従来から“ヒト・モノ・カネ・情報”を効果的に活用することが,重要成功要
因であることは周知のとおりである。しかし,21世紀のビジネス競争においては,
これに加えて“実行に移す前に迅速・正確に予測すること”が競争優位を持続さ
せることにつながると考える。したがって,色々な選択肢の中から過ちを犯さな
い意志決定を迅速に行うためには,ここで述べたシステムダイナミックスの考え
を取り入れることが,1つの効果的な手段となり得ると考える。機会があれば是
非一度,チャレンジされることをお奨めする。

参考文献
[1] 大辞林 第二版
[2] http://timos.str.archi.tohoku.ac.jp/others/ebi/SD2.jp.html
[3] http://www.vensim.com/index.html
[4] http://www.powersim.com/
[5] http://www.iseesystems.com/


■執筆者プロフィール

柏原 秀明
京都情報大学院大学教授,ITコーディネータ京都理事
ITコーディネータ,博士(工学),技術士(情報工学・総合技術監理部門),
EMF国際エンジニア,APECエンジニア

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コメント: 2
  • #1

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