最近、複数の公的中小企業支援機関で聞いた話ですが、今年はセミナーや研修
会の集客が大変スムーズに行っているのだそうです。その理由はいろいろ考えら
れますが、やはり1年前のリーマン・ショック以来の不況が深刻で、企業として
も何とか現状の打開策を見出したいとの思いがあり、勉強モードに入っているの
ではないか、ということでした。この京都では、伝統産業が多く存在し、そのほ
とんどの市場が飽和しているだけでなく、市場規模が退化縮小に向かっているケ
ースが多い現実からすると、ひとしおの思いです。
ITコーディネータ京都では、2002年から毎年「経営者研修会」を開催して、そ
の中で経営戦略やビジネスモデルの見直しを行い、再構築した経営戦略の達成に
必要なITの導入及び活用を企画する機会を作ってきました。大きく変化した経営
環境に対応して、改めて自社の経営戦略やビジネスモデルを検討し、今後ともに
付加価値(利益)を創出し続ける仕事の仕組みを構想したうえで、その実現に必
須のITのみを利用しようというスタンスです。この様な取り組みを「IT経営」と
言って、数年以上にわたり一貫して推進して来ました。
ところで、この取り組み前半の最大の山場は、言うまでもなく如何に有効な経
営戦略若しくはビジネスモデルを見出すかにあります。後半の山場は、策定した
経営戦略等の達成を効率よく支えるITの要件を明らかにすることですが、今回は
経営戦略の策定について考えてみます。一般に経営戦略の階層としては、全社戦
略(corporate strategy)、事業戦略(business strategy)、そして機能戦略
(functional strategy)の3つに分けています。
最も上位の全社戦略は企業戦略ともいわれ、事業ドメイン(事業領域)の決定
や、事業間の経営資源の配分など企業全体の方向性を示す戦略です。次の事業戦
略は、個々の事業分野の単位で策定される戦略であり、下位の機能戦略は、研究
開発、購買、生産、マーケティング、財務、人事など機能別に具体的に策定され
ます。この中で事業戦略の策定においては、とくに競争優位を確立することが求
められていて、競争戦略が重要視されるとともに、ITが最も貢献できる分野でも
あります。
あまり注目されることは少ないのですが、事業ドメインの選択は市場が飽和若
しくは縮小傾向にあるときは、決定的に重要です。市場の境界を、どこに引くの
かは事業展開のあり方を左右する命題です。競争戦略では、M.E.ポーターの示し
た競争戦略論がポジショニング・ビューとして有名ですが、一方ではJ.B.バーニ
ーの主張する資源ベース・ビューがあります。前者は業界内に自社が占めている
ポジションを競争力の源泉とし、後者は自社の持つ組織能力が競争力の源泉であ
ると考えますが、双方の理論は相互補完しなければ完成しないところから、端的
に外部条件と内部条件の双方を検討して戦略を立案するのが良いと考えておきま
す。
前述の「経営者研修会」では、経営戦略の立案手法としてSWOT分析を用いてき
ました。これは、『彼を知り己を知れば、百戦すとも殆うからず(孫子)』と言
われるように、正に彼(外部経営環境)と己(内部経営資源)から 、今後の打
ち手(成功要因)を抽出する方法で、合理的です。企業を取り巻く外部環境の変
化で自社に有利に働く要因を機会(Opportunities)、自社に不利に働く環境変化
を脅威(Threats)と捉え、自社内部の経営資源状況で他社より比較優位の点を強
み(Strengths)、他社より劣っている点を弱み(Weaknesses)と考えて、機会と強
み、機会と弱み、脅威と強み、脅威と弱みの組み合わせから、今後の成長発展へ
の方策または強化すべき課題を検討します。
しかし、研修会という限られた時間の中で、また特別なシーズを持たず、恵ま
れた事業機会にも遭遇していない普通の中小企業の場合、”これなら行ける””
ブレークスルーできる”と思わせるようなインパクトのある重要成功要因を見出
すことは困難です。やはり、インパクトのある打ち手を見出すには、戦略策定手
法に慣れることと十分な分析ができるだけの調査資料の裏付けが必要です。さら
に、一つの手法だけでなく複数の手法を併用することも有効です。前記のSWOT分
析は基本的な手法ですが、特に飽和市場向けに有効な経営戦略策定手法と思われ
るものに、ブルーオーシャン手法があります。
これは、フランスのINSEADビジネススクールのW・チャン・キム教授とレネ・
モボルニュ教授が提唱した実践的な経営戦略策定手法です。競争の激しい既存市
場を「レッド・オーシャン(血で血を洗う競争の激しい領域)」とし、競争のな
い新たな市場である「ブルー・オーシャン(競合相手のいない領域)」を切り開
くための方法を提示しています。従来の製品機能を「減らす」「取り除く」「増
やす」「付加する」アクション他によって、「バリュー・イノベーション」を実
現するとしています。そのために、「戦略キャンバス」等の具体的なツールが準
備されています。
数日以下の経営者研修会では、会社の今後数年間以上にわたる付加価値創造の
仕組みを実用レベルで策定するには至りませんが、ITコーディネータは皆様の経
営戦略策定を訪問コンサルティング等によって支援いたします。研修会では、手
法の習得に重点を置き、自社にてじっくりと経営戦略やビジネスモデルの再構築
を実施されては如何でしょう。その手助けが必要な際は、いつでもITコーディネ
ータ京都に、お申し付けください。
(NPO)ITコーディネータ京都 E-Mail:office@itc-kyoto.jp
参考文献:
(1)社会保険研究所 ビジネス・キャリア検定試験 2級 標準テキスト
経営情報システム(情報化企画)
(2)ランダムハウス講談社 ブルー・オーシャン戦略 2008年4月 第20刷
■執筆者プロフィール
中村久吉(なかむらひさよし)
ITコーディネータ、中小企業診断士、社会保険労務士
ISO27001主任審査員、プライバシーマーク主任審査員
e-mail: ohnakamura@gmail.com
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