これからは過去の分析からの未来予測では生き残れない/成岡 秀夫

<はじめに>

●金融機関は過去の実績を重んじる。どうしても、今後のことに信用がおけない
のか、過去3期分の結果を並べて未来を推定する。しかし、これからの時代、ど
れくらい過去の実績から未来が分かるというのだろうか。はなはだ疑問を感じな
がら、とはいえ金融機関に納得してもらうためには、致し方ないと割り切って当
方も対応している。しかし、古くは Windows95の出現以降、IT技術の革新が始ま
り、変化の速度はドッグイヤーという言葉に象徴されるがごとく、旧来とは比較
にならないくらい早くなった。

●過去から未来を推計するのは、古くは昭和40年代の高度成長の時代ならよかっ
た。いまはそんなことは通じない。環境は激変するし、得意先や仕入先の状況も、
時々刻々変化する。売上も伸びたかと思えば、何かの影響で急降下することが多
い。売上を伸ばして対応するという計画は、成り立たない。当面の売上が現状維
持できれば、ご同慶の至りだ。多少の減収は覚悟しないといけない。最大で40%
くらいの減収はあり得ると仮定する。最悪はもっと悪化するかもしれないが、一
応40%減収で会社のキャッシュフローが回るかを、真剣に検討する。

●それくらい条件が変わると、今までの実績を並べても全然参考にならない。
10%くらいの減収で何とか経営を成り立たせるというなら、過去の実績を並べて、
その延長線上で検討すればいいが、40%というと過去の常識は通用しない。全く
違う発想で、今後の経営の展開を検討する必要がある。過去の経験則や、成功事
例は役に立たない。しかし、金融機関の方々は、当事者のビジネスそのものが実
感として理解しがたいから、どうしても過去の実績や経験から、今後の業績を予
測しようとする。

<もはや過去の経験則は通じない>

●いまや、あらゆる企業が今後の展開が読めないで迷っている。アメリカ市場で
の成功に酔っていた自動車産業が、一敗地にまみれた。どんどん成長すると思っ
ていた市場が、実は虚構だった。住宅バブルに乗って、虚構の成長をベースにバ
ブルを謳歌していたビジネスの足下が崩れた。日本は土地バブルがはじけたが、
アメリカは住宅バブルがはじけた。名前と生年月日と住所だけを記入すれば、
800万円もするピックアップトラックがローンで購入できた。そんな状態が、ど
こかでおかしくなると分かっていたが。

●輸出で稼いでいたのが悪いように言う人がいるが、日本が国内市場だけでこの
1億人以上の人を養えるはずがない。明治以来、原材料の乏しい日本は、原料を
輸入して、国内で付加価値の高い製品に加工し、世界に向けて販売した。それで
成長したのが日本だった。その延長線上で拡大発展をとげた。原材料の乏しい日
本では、そうするより他に方法がなかった。選択は間違っていなかったと思われ
る。今後も、人口が減少する社会では、それが最良の選択肢だ。少子高齢化だか
ら、仕方ない。

●20年後には、65歳以上の高齢者人口が全体の3分の1以上になるという。諸外
国に例を見ない超高齢化社会の到来だ。果たして、ガソリン自動車が電気自動車
に変わって、どれくらいの高齢者が電気自動車を活用するだろうか。自動車産業
が、今後の高齢化社会を電気自動車の技術だけで、乗り切れるとは思えない。ま
さに、自動車が現在の60%くらいの台数になる社会が、数年後に到来するかもし
れない。今まで、自動車、自動車で国内産業を牽引してきたのが、そのまま続く
とは思えない。

<これから何で生き残るか>

●残念ながら、今後経済が回復しても、俗に言う「L字回復」状態が正しい。V
字回復は有り得ないと心したほうがいい。底辺まで行って、その後は底辺のまま、
平行線をたどる。だいたい、60%くらいと想像していると間違いない。60%で成
り立つ経営にしないと、長い目では生き残れない。そこには、過去の経験則も通
用しないし、過去の延長線上のビジネスも出るも成り立たない。60%経済で事業
性の乏しいビジネスは、淘汰されると考えるべきだろう。損益分岐点が、現在の
60%になるということだ。

●これは、非常に厳しい。損益分岐点の理屈なら、固定費を徹底的に削減し、変
動費率を上げて、安全余裕率を高める。固定費を徹底的に削減するということは、
仕事のやりかたを抜本的に見直さないと、できない。3人でやっていたことを、
2人でする。いや、 1.5人でやらないといけない。いや、いっそ、本当にその業
務が必要なのか、改めて見直してみる。以前から、慣習的にやっていた作業なの
で、続けてはいるが、本当に意味があるのか。役立っているのか。分厚い資料だ
が、何人の人が活用しているのか。

●社内向けの仕事や、社内営業的な業務、社内の会議の資料作成に時間が費やさ
れていないか。お客さんは、市場は外部なのに、勘違いして、社内の合意を取る
ために、相当なエネルギーが消費されていないか。自社の強みや特徴を活かして、
今後の人口動態を考慮して、こういうマーケットにこういうサービスや商品、製
品を出してみてはどうだろうか。簡単にはいかないが、少しずつ、少しずつシフ
トする。努力を継続することが大事だ。それと、方向を間違わないことだ。一度
方向を間違うと、ずっとずれていく。

<過去のそのままの延長線上に未来はない>

●今からどうする、そこが一番大事なところだ。過去のそのままの延長線上に未
来はない。これからは、そんな甘いことは、通用しない。経済のパイ全体が大き
くなっていた時代なら、それでも良かったろうが、これからは、60%で利益の出
る体質に転換することが求められる。過去の成功体験しか頭にない経営者の方に、
果たして今後の難局を乗り切ることができるだろうか。もし、後継者の方が決ま
っているなら、思い切って徐々に事業承継を進める絶好の機会かもしれない。若
い新しい感性で乗り切らないと、難しい。

●事業承継は大きなテーマだが、よく単純に相続の問題と置き換えられる。しか
し、現状のような非常に厳しい環境のときこそ、次世代にバトンタッチする機会
かもしれない。価値観を転換し、次代に通用する企業に脱皮するには、過去の成
功体験を捨て、新しいテーマに果敢にチャレンジすることが必要だ。これは、相
当なエネルギーが要る。今後、20年、30年通用する企業にするには、ここで痛み
を感じながら、体質改善することが必要だ。その際には、ITの活用が欠かせない。

●過去の決算書の数字をよく並べるが、果たしてそこから未来が描けるか。売上、
原価、費用、資産と負債。どれをとっても、中味が変わっていかないと、今後の
成長もなければ、企業の存続も危うい。チャレンジしたことが、全部成功するわ
けではない。3割成功、3割失敗、4割結果不明。それが現実だ。しかし、3割
の成功から今後のキャッシュを生み出すコア事業が育つことを信じて、路線の選
択をする。未来に責任をもてるのは、後継者の方々かもしれない。ここで、未来
にかけてみるのは、現在の経営者の大きな決断だ。


■執筆者プロフィール

株式会社成岡マネジメントオフィス 代表取締役 成岡 秀夫

1952年生まれ京都市出身 大手化学繊維メーカーの技術者から転身し、義兄の
経営する京都の出版社、印刷会社で取締役。1995年に出版社の破綻を経験し、
以降中小企業診断士、高度情報処理技術者(システムアナリスト他)の資格を
取得。2003年独立し株式会社成岡マネジメントオフィス設立。現在、社団法人
中小企業診断協会京都支部常任理事、協同組合京都府診断士会専務理事、再生
支援協議会外部専門家他公職多数。