資本主義と地域力/玉垣 勲

 ◆世界的な金融危機
 金融危機、景気後退、下方修正などの見出しが連日、新聞紙上に登場していま
す。世界的な金融危機は深刻の度合いを増していますし、依然として先行き不透
明です。金融危機は、世界各国の実体経済にすでに影響をしてきており、世界各
国同時不況入りの様相を呈しています。
 資本主義経済は、景気循環の繰り返しではありますが、金融危機に端を発した
今度の景気下降は、長期的な景気波動の下降局面入りとの見方が大勢であり、
「100年に一度の出来事」とまで公然と言われています。金融と景気の「負の
連鎖」も指摘されてもおり、企業業績の急激な落ち込みと相まって、このところ
産業界、家計ともに先行き不安心理は増幅してきています。

◆新しいパラダイムの模索
 第二次大戦後、アメリカはその圧倒的な軍事力、経済力を背景に世界経済を
リードしてきましたが、今回の出来事は、その支配力に陰りを投げかけました。
国内的には、貧富の差は極度に拡がり、中産階級の没落もあり、貧困層は増大し
ました。ブッシュ政権下の「新自由主義」の行き詰まりは明らかであり、”チェ
ンジ(変革)”を求めるオバマ大統領に未来を託すこととなりました。
 先に開催されたG20の共同宣言からも、これまでのアメリカの指導力、影響
力の低下は否めません。即ち、アメリカ、EU諸国それにアジア圏を中心とした
新興国の三極による協調体制で”未曾有の危機”を乗り切る方向性が示されたの
です。これからの世界経済は、これまでの一極支配から多極化の中で世界秩序の
「新パラダイム」形成への模索が始まりました。この体制変動は、国際経済社会
における日本の政治・経済のこれまでの戦略に再考を迫ってもいるのです。

◆環境変化と企業経営
 日本経済は、平成19年10月~12月期から景気後退局面に入りましたが、
今秋からの景気の落ち込みは想定の範囲を超えた急激なものであり、将来的にも
不況は過去に比し、長期化するものと想定されます。外部環境の激変は続行中で
すが、個別企業は、その対応について、これから正念場を迎えます。過去の土地
・住宅バブルからの脱却からの景気回復が、円安進行による輸出産業に過度に依
存していただけに、世界経済の停滞による円高への急転回は、日本経済にとって
は痛手であり、日経平均株価の急降下を皮切りに、実体経済の下降・低迷を加速
させました。
 日本経済のかじ取りにあたっての当面の焦点は応急的な景気対策の可及的速や
かな実行にありますが、中・長期的には、輸出産業の成長力に過度に負荷した経
済体質からの大転換、内需重視の構造改革が迫られています。その際に個別企業
にとって留意すべきは、企業経営の外部環境が大きく変わるこれからは、従来の
成功体験、ビジネスモデルに拘泥することなく、新時代・変貌する経営環境下に
しなやかに通用・対応できる持続的経営刷新の真価が問われることにあります。

◆アジア圏の一員としての自覚と行動
 世界経済の地殻変動、その典例が、新興国の台頭です。とくにアジアは中国を
はじめ将来の潜在成長力は高く、成長けん引役の一翼を担うものと期待されてい
ます。日本はこれまで長きにわたり欧米をお手本として先進国の仲間入りを果た
す成果を享受してきました。しかし今後はアジアの一員としての自覚と行動への
転換が求められています。アジア諸国との連携強化が、ひいては日本の将来の成
長・発展を約束します。日本はアジア圏に位置し、アジア諸国とは、風土(農耕
民族)、思想・宗教(和の精神、儒教)、文化(伝統の尊厳)などかなりな程度
共有しています。もとよりアジア諸国は、経済の発展段階一つとっても多様では
ありますが、対等の相互補完関係は強められるはずです。
 とくに日本の中小企業は、貴重な資源である「独自のすぐれた部品・組立加工
の技術力」を生かした技術移転を含む貿易取引の拡充、技術者・職人の長期的な
人材養成のノウハウなどソフト面での提供などを通してアジア諸国の発展に大い
に寄与できるはずです。さらに特質すべきは中国、インドをはじめアジア諸国は
IT産業ないしソフトウエア産業振興に極めて熱心であり、この分野でも相互に
切磋琢磨して共存関係を強めたいものです。

◆共同社会と地域力の発揮
 「市場原理」にたつ資本主義には「市場の失敗」の負の側面を内包しています。
利益追求本位の行き過ぎた資本主義、「金融優先の新自由主義」がグローバル下
の金融危機の傷口を深めもしました。その反省から、市場に一定の規制、ルール
の確立(歯止め)が当面のテーマとなています。
 申すに及ばず、現代社会は、「利益社会」(ゲゼルシャフト)と「共同社会」
(ゲマインシャフト)が共存しています。経済社会に生きる我々は、共同(地縁
人縁など)社会の一員でもあります。度を超えた「利益社会の追求」が強者、敗
者の二者択一を迫り、強者の論理、大なるもの賛美の風潮を必要以上に助長した
のではないでしょうか。
 地域社会では、いまも共同社会意識が根底に息づいています。健全な資本主義
の発展のためにいまこそ地方分権、地方経済の復権の好機です。地方経済の担い
手である中小企業の出番です。
 地域社会の生産物、地場企業独自の技術・工芸、さらに今日的テーマになりつ
つある地域の観光資源の振興開発に地域再生の突破口を見い出したいものです。
地域力強化のため、IT利活用による「地方の農・工・商現代版連携」、また、
既成の観念、組織の枠組みを超えた新業態発掘などの地域活性化ビジネスモデル
の構築とその果敢な挑戦・行動の時来る!!と言えるのではないでしょうか。


■執筆者プロフィール

玉垣 勲(たまがきいさお)
ITコーディネータ、中小企業診断士、社会保険労務士
ファイナンシャル・プランナー(FP)、通訳ガイド
(NPO)ITコーディネータ京都理事、(総務省)電子政府推進員