「偽装請負」で大手企業が監督官庁に行政指導をうけている記事を目にすること
がよくあります。この偽装請負とは実態としては労働者派遣であるのに、請負と
いう形だけの契約形態のものです。では派遣と請負の違いとは、なにかというと
派遣は自己の雇用する労働者を該当雇用関係の下に、かつ、他人の為に従事させ
る労務の提供であって、請負とは労働の結果として、仕事の完成を目的とするも
のと業務を処理する事を目的とするものとして成果物の提供を実施することです。
また派遣では労働者を派遣先の指揮命令を受けて、この派遣先のために労働に
従事させることを行うことをいいます。請負では注文主と労働者との間に指揮命
令関係は生じないという大きな違いがあります。
派遣の場合、派遣先の企業では派遣社員の労務管理を実施し一定期間以上の契
約が継続する場合は雇用するように努める必要があるなど責任と義務が発生しま
す。これも含め労働者派遣法改正で労働者保護のための規定が多く導入されてお
り企業としては労働者派遣法の適用を逃れたいのが実情で派遣でない請負で契約
する偽装請負が広がっていったのです。
特にIT業界ではシステム開発・運用業務で技術者が企業に常駐し、企業の担
当者から直接指示をうけたり、元請けのシステム開発会社に下請けのIT技術者
が常駐して、元請けのリーダやSEからの直接の作業指示や残業や休日出勤の指
示をうけたりしているのが実態です。これはあきらかに偽装請負となるもので法
令違反となります。このような状態が永らく続いていたのは発注元企業や受注先
のIT企業の互いの都合のよさとIT業界では労働災害が起こりにくいため表面
化しづらいことで行政の眼が届きにくかったためと思われます。
IT企業も開発・運用担当者が所属する会社と発注側企業と直接派遣契約を結
んだり、下請け会社の担当者への指示は各社の管理者を通じて行うようにするな
どして契約、業務のやり方を変えようとしています。ただ、このような対策を実
施することで、いままでのように受注した開発業務に自社の社員でなく下請の社
員を派遣することができなくなり売上や利益に影響を与えているのが現状です。
ここで、運用形態別にどれが合法でどれが違法かを示してみたいと思います。
◆合法なケースとしては、
1.発注者の依頼に基づいて受託者はその責任者が自己の雇用する労働者へ作業
指示をする
2.多重下請構造でも契約する会社同士で作業依頼・指示がおこなわれている
◆違法なケースとしては、
1.発注者から受託者労働者への直接の作業指示を行っている
2.発注者から再委託先の労働者または責任者へ直接の作業指示を行っている
3.多重下請構造の実労働者へ直接の作業指示をおこなっている
4.受託者が何もせず発注者が直接再委託先へ作業指示をおこなっている
5.再委託先が何もせず受託者が直接再々委託先へ作業指示をおこなっている
6.受託者から他受託者へ業務依頼を行っている
7.同一業務で派遣と請負が混在している
上記のケースに留意して発注元、受託先とも契約、運用する必要がありますが
その他として作業範囲および作業体制の明確化が必要となります。作業範囲につ
いては契約関連書面に記載するのとある程度、契約件名からも推測できるように
しておく必要があります。(どのような業務をどの範囲まで請負うのか推測可能
にする)
また、体制についても適正な運営体制になっているという明確な記述が求められ
ます。
体制図について留意する点として、
1.契約形態が明確になっていること
2.責任者が明確になっていること
3.責任者・労働者とも所属する会社名が明確になっていること
4.作業依頼のルートが契約形態に違反していないこと
5.契約関係にない他社の責任者または担当者に作業依頼をこなっていないこと
6.同一業務または同一チーム内で請負と派遣労働者が混在していないこと
7.請負の場合、体制が会社毎になっていること
8.請負の場合、業務内容が明確であること
IT業界としては特に問題が表面化しなかったり当事者であるIT技術者の認識
の低さなどで改善は遅れ気味ですが、労働者保護の観点から請負適正化の取組を
推進していく必要があります。
■執筆者プロフィール
西田 則夫(Nishida Norio)
情報処理プロジェクトマネジャー、ITコーディネータ
マネジメントの経験を顧客満足の向上に役立てたいと思います。
Norio.Nishida@csk.com
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