平成18年より新会社法が施行された。
それまでの会社に関する規定は、商法第2編、有限会社法、商法特例法など、
さまざまな法律に分散しており、1つの法律にまとまっていなかったが新会
社法に会社に関する法を体系的にまとめ、わかりやすい口語体表記、と好評
である。
また、新会社法は実質的な改正も大幅に行い、中小企業に関する部分とし
ては株式会社制度と有限会社制度の統合、機関設計の柔軟化、事業承継に活
用できる株式制度の拡充、会計参与制度の導入、最低資本金の撤廃、合同会
社の新設など、多岐に亘りそれによって得られるメリットも大きくなってい
る。
●中小企業にとってメリットが大きいと思われる事項例
1.自社の定款の「株式の譲渡制限」について「相続」までを対象とし、相続
によっての株式の分散を防ぐ。
中小企業の経営者にとって意中の後継者にすんなりと事業承継ができるこ
とが理想であるが、旧法では一般承継と言われる遺産相続等は、会社の承
認の対象外で、被相続人が有していた株式は法定相続に従って分割拡散を
余儀なくされていたが、新会社法では相続による株式の移転も、会社の承
認の対象として、被相続人が所有している株式を特定の相続人に全株を承
継することを定款で定めることができる。
但し、その場合の注意点として、
1)定款に「株式を譲渡する時には会社の承認を必要とする旨」を定める。
(これを株式譲渡制限会社といい、好ましくない者に株式が譲渡された
り株主総会が荒らされたりすることを防ぐ)
2)遺言で意思表示をしておく。
3)経営者の意向と会社の意向とが同じであること(経営者とは全く別の
意向が会社にあれば、経営者の思い通りにはならない可能性がある)
2.自社のノウハウを活かした第二創業が容易となる。
旧法においては株式会社設立には1000万円以上の資本金が必要であっ
たが新会社法では資本金は1円でもOKとなった。このことは、自社のノ
ウハウを活かして新たな事業を立ち上げたいが、リスクの波及が本業に影
響するのは避けたい、手持ち資金に余裕がない、と2の足を踏んでいた事
業者にとっては、多額の資本金を要せずに特別目的の別会社が容易に設立
でき、責任と会計が明確に分離でき、メリハリの利いた事業展開が可能と
なる。但し、1円株式会社とはいえ、定款認証、登記費用、司法書士手数
料等で約30万円前後の経費がかかる。
3.技術があるが出資には躊躇、しかしちゃんとした配当果実は受けたいと願
う中小企業に事業展開の朗報LLC(合同会社)が導入された。株式会社等
では出資額に応じて利益分配が決められているが、LLCは利益分配割合
を事前に自由に決められる。例えば、中小企業は技術力提供のみで、資本
は第3者が100%提供した場合、旧法では事業の結果得られた利益の配
当は100%資本出資した第3者に全額配当となるが、LLCでは事前に
利益配当比率を技術を提供した中小企業が60%、資本提供の第3者が
40%の配当分配率とする、ということができる。
但し、損失発生の場合は、事前に取り決めた分配比率で負担が生じる。
更に、特定の事業や単発的な事業を起業する場合には、合同会社のもう1
つの形態であるLLPも検討に値する会社形態である。
●中小企業が従前にも増して注意すべきこと
1.取引先の信用チェックがより重要となる
旧法では、株式会社設立には資本金が1000万円以上という制限があっ
たために、○○株式会社ですと差し出された名刺をみれば、そこそこには
信用し、胡散臭い株式会社でない限り、信用チェックはあまりされていな
いというのが大半であった。
しかし、新会社法では登記諸費用に必要なお金30万円前後あれば簡単に
株式会社が設立可能となるだけに、悪意を持った者が詐欺まがいの行為を
目的とした「ペーパーカンパニー」でも容易に設立できることを意味して
いる。その対処の1つとして「登記簿謄本」のチェックを入念にすること
により、その会社の内容がある程度理解でき、リスク対応の道が開ける。
(新規取引先企業の登記簿謄本確認は必須の信用チェックとなる)
1)本店登記の場所(実際に会社がある住所と同じか)
2)設立時期(事業経験の長短を判断)
3)事業の目的(取引の事業内容が元々の本業と合致しているのか)
4)資本金(会社の規模を推量)
5)役員の顔ぶれや就任時期等(経営者の内容・構成、会計参与の有無等
で会社の性格を推量)
尚、既存会社が取引金融機関からの信用をより強める方法として、会計参
与組織の導入は効果がある制度でもある。
2.決算広告のチェックが厳しくなると想定される
1円株式会社や株式譲渡制限会社であっても株式会社となれば決算広告が
義務づけられている。決算広告とは決算期毎に貸借対照表の要旨を官報、
日刊新聞紙、インターネットの何れかに掲載し公告しなければならないこ
と。しかし、旧法の時はこの義務を確実に履行しているのは上場企業、一
部の中堅企業で、大半の株式会社の決算公告のチェックまでは予算もなく、
手も回らないということで監督官庁は目をつぶっていたというのが実態で
ある。
しかし、新会社法では1円株式会社もあり得る、ということで監督官庁よ
りも取引先企業が信用チェックの観点から決算公告に関心を向ける可能性
は大であるとも考えられる。
●信用チェックにはIT活用が優れもの
取引先の信用チェック方法として、信用調査会社に調査依頼、所轄法務局
で登記簿謄本入手、ホームページ上の決算公告を検索、というのが初歩的
な信用チェック方法である。
信用調査のたびに法務局に出向いて登記簿謄本を入手する手間と時間、郵
送依頼の場合には郵便往復日数がかかる、ということで欲しい時にすぐ入
手できないという難点が生じ、登記簿謄本の確認を省略していたケースが
あるが、ITを活用することによりホームページ掲載の決算広告の検索だ
けでなく登記簿謄本の入手も容易に可能となる。
そのための作業としては、事前にIDを法務局に申請・取得しておくだけ
でよく、ID取得後はインターネットで登記簿謄本の取得が入手でき、迅
速な信用チェックが可能となる。
■執筆者プロフィール
恩村政雄 E-メール: obcc.onmura@nifty.com
OBCC主宰(onmura・ビジネス・クリエーティブ・コンサルタンツ)
NPO法人ニュービジネス支援センター 理事長
TEL/FAX: 075-981-3830 URL: http://www.npo-fc.jp
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