IT経営のヒント(その3)/中村 久吉

 今回で3回目となるIT経営のヒントは、本年7月開催のIT経営応援隊事業で発表された東大阪の工具製造業「フジ矢」の野崎恭伸社長の話しからです。

 

 如何にして、ITを導入したかということを説明して行きます。

 創業者でしたら、ものをつくることも売ることも、何でもできるスーパーマンですが、私の場合は創業者でもなくて、会社に入って約2年半で急遽、社長になりましたので、ものをつくることも売ることもできない。そうであれば、やはりトップの力で会社を動かすのではなくて、ボトムアップで全員の組織の力で会社を動かさなければならなかった訳で、なるべく全員参加型で、各種の情報をオープンにしてきました。

 それが当社の3カ年計画で、社内では「3Dプラン」と言っているのですが、中期方針を立ててやっております。

 

 3Dの中の一つ目は、デリバリー(物流)です。当社はメーカーで、ポイントは、QCDと言えます。クオリティー(品質)やコストについては、いままで一生懸命に品質を上げようとか、コストダウンしようとやってきたのですが、デリバリーについては、あまり考えてこなかった。当社のライバルメーカーは日本国内だけで7~8社ほどありますが、他社もQとCに関しては懸命にやっていますが、Dはあまりこだわってやっていない状況です。これからの当社は、Dのところで他社と差別化できるようにやっていこうという訳で、デリバリーをやっています。

 当社の製造工程のなかでは、デリバリーの強化に一気通貫生産というものを導入しています。どういうことかというと、当社の場合は60工程ぐらいあるのですが、最初の工程にぽんと材料を投入してから、最後に製品として上がって、お客さまの手元までお届けする時間を、いかによどみなく、滞りなく送れるようにするか ? いかにリードタイムを短縮して、在庫を減らして、生産性を上げて行くかに取り組んでいます。

 

 二つ目はデベロップメントで、メーカーとしては当然ですけれども、やはり新製品開発力の強化です。新しい商品を出さなければ、なかなか市場で生き残っていくことができないので、新しい商品を出そうという訳です。

 

 三つ目はデザインです。最近は当社でも顧問デザイナーをつけて、デザインを強化しようとしています。工具というものは、デザインにこだわった商品が非常に少ないので、ブランドイメージを向上させるために、いかにかっこいい製品をつくれるかということが重要です。

 デザインというのは、狭い意味では見た目ですが、広い意味では企業イメージを向上させるような戦略をとろうではないかということで、例えば環境対応商品をつくるとか、そういうものも含めて、デザインでブランドイメージを向上させようということです。

 

 この三つの項目を、フジ矢中期方針ということで現在もやっております。このような経営方針をつくったあとで、実際にITを導入していくのですが、当社の場合は、その後にITプロジェクトチームというのをつくりました。これは少数制でやろうということで、5名ぐらいのメンバーとなっています。

 

 当社も中小企業ですので、人・もの・金が非常に制限されています。そのなかで人は、ITコーディネータの先生にいろいろなご指導をしてもらって、外部のパワーを借りた。お金のほうも限りがありますので、平成13年度の「IT活用型経営革新モデル事業」という、経済産業省の補助金事業に応募して、その補助金をもらいながらITシステムを導入しました。つまり当社の場合、限りある資源ですので、内部に足りないものは、なるべく外部の力を借りてやろうと、外部のパワーを非常に活用したということも成功の一因と思っています。

 

 次に、支援した専門家のITコーディネータ川端一輝氏の補足です。

 

 経営改革のプロジェクトであれ、新製品であれ、いろいろなプロジェクトが成功するためには、三つの必要条件があります。一つ目は、目標がはっきりしていることで、何のためのプロジェクトなのかという目標が明確になっていること。二つ目は、現状がきちんと認識されているかどうか。いまの状況がどうなのかということが、きちんと把握されているかどうか。そして三つ目は、その上に立ってやる気があるか。この三つが成功条件です。

 しかし、この三つをプロジェクトメンバーが認識共有しながら、最初から最後まで持ち続けるということは、実は非常に難しいことでもあります。しかし、これが成功のための3条件で、この三つのうちの一つでも欠けると失敗に終わる可能性が非常に高い。一つが欠けるとだめだと言ってもいいかもしれません。

 

 次に、その三つが整えば、すべてうまくいくかというと、そうでもない。目標に向かっていくけれども、右往左往したりするので、きちんと一つの目標に向かってパワーを結集するというのは、けっこう難しい。そのためには、いくつかの欠かせない要素があります。これを外すと目標に到達するのは無理だね、難しくなるねという、こうであるべきというものを設定します。

 そして、更に行動計画が必要です。何をやって行くのか? 現状から目標に至るまでの中間ポイントと言いますか、どんなふうに実行していって目標を達成するかということです。

 私が訪問した当初は、ITの話は何もしなかったので、あの人は何をしに来ているのだろうと思われたかもしれないのですが、野崎社長が言われたように経営戦略をつくるところから入って行く。その上で、情報システムが動いて仕事がスムーズに回るようにすれば、IT化は成功するのです。

 

 以上、お二人の話から、ITを適用する前に仕事の仕組みを再構築すること、つまりビジネスモデルを組み直してからITを適用することが重要だということを感じ取っていただけたでしょうか。

 


■執筆者プロフィール

 中村 久吉(なかむら ひさよし)

 ITコーディネータ,中小企業診断士,社会保険労務士,ISO27001主任審査員

 e-mail: eri@nakamura.email.ne.jp

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コメント: 1
  • #1

    Tyron Veillon (日曜日, 22 1月 2017 16:41)


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