近頃、世間を騒がせる企業の不祥事問題が頻繁に発生しているのは、皆さんもご
承知の通りかと思います。
マンション耐震強度偽造問題、IT関連企業の証券取引法違反、無人ヘリ不正輸
出疑惑などなど、この数ヶ月の間にも既に忘れてしまうほどの不祥事が起こって
います。
一方で、CSR経営を企業に求める声が高められつつあります。
CSR(CSR:Corporate Social Responsibility企業の社会的責任)
CSRとは、企業利益の追求だけでなく、企業活動のさまざまな社会的な側面
(法律の順守、環境保護、人権擁護、労働環境、消費者保護など)においても、バ
ランスのとれた責任を果たすべきだとする経営理念のことをいいます。
これまでの日本においてはCSR=コンプライアンス(法令順守)という理解が
広がっていましたが、CSR経営とはコンプライアンスは当たり前のことであり
ステークホルダーの満足度を高めることが重要なのです。
CSRについては今に始まったことではなく長い歴史があります。西欧では約
100年前から、日本でも古くは江戸時代から企業(組織)の社会責任とは何か
という議論はずっと続いて来ました。
江戸時代、近江商人の経営理念として知られる『三方よし』、つまり『売り手よ
し、買い手よし、世間よし』であり、今で言えば『ステークホルダーの満足度を
高める』こそが日本のCSRの原点はないでしょうか。
CSR問題でよく事例に出されるのが、1997年に起こったスポーツ用品メー
カー「ナイキ」の東南アジア下請け工場において少年の違法労働を黙認していた
児童労働問題で、アメリカのNGOや学生グループがナイキの経営体質に不満を
訴え、製品の不買運動を起こし、訴訟にまで発展した事件です。この事件により
ナイキは売上の低下だけでなく、企業イメージの失墜による株価の暴落などが起
こり、相当な額の損害が発生しました。
この事件以来アメリカでは、ただ安くて良いものを求めるだけでなく、その企業
のCSRを重視する消費者が特に増えてきました。
あるスーパーマーケットでは、赤ちゃん連れの母子が買い物をしているとき、彼
女は紙おむつのパッケージの裏を必ず見ていました。これは価格を見ているだけ
ではなく、そこに“social label”(この製品が、社会的な基準に沿った条件下
で作られていることを証明するラベル)が記載されているかを確認していました。
これは彼女にとって品質や価格以上にその企業のCSRの取り組み(この場合
「児童労働をさせていないこと」)が重要な選択肢になっているということです。
このように、少々値段が高くても社会貢献だと考えて購入する人が増えてきてい
ます。こういった考え方のもとで生活を送る人達のことをLOHAS(ロハス)
と呼ばれています。
LOHASとはLifestyles of Health and Sustainabilityの頭文字をとった略語
で、人と地球にとって、健康で持続可能なライフスタイルという意味であり、1
998年アメリカの社会学者ポール・レイ博士達が全米15万人を対象とした生
活価値観調査の結果から、環境問題や平和、社会正義などに関心が高く、自己実
現願望が強い人々が多くいることを知り、「生活創造者」と定義しています。
これまで先進国において大量生産・大量消費により、便利さや豊かさを手に入れ
て来ましたが、1990年代に入ると環境汚染問題や、地球温暖化による世界規
模の環境問題に直面し、国・行政だけでなく企業においても対応を求められてき
ました。
そして、従来の産業構造にとらわれない新しいビジネススタイルや企業が台頭し、
新しい価値観を持つ、例えば地球環境や人間関係、社会正義、自己啓発に深い関
心を寄せる人々が出現してきました。
これがLOHASの始まりだと言われています。
ご存知かと思いますが、日本でも以前からLOHAS的な商品・製品・サービス
がたくさんあります。
有機野菜、無添加食品、生産者表示、太陽光エネルギー、省エネ住宅、フロンガ
ス、ハイブリッド自動車、バイオテクノロジー、アロマテラピー・・・ 等々
このような製品・サービスを選択・利用することがLOHAS的であると捉えら
れていないかのしれませんが、環境・健康などにこだわりを持った生活スタイル、
つまり「心の豊かさやゆとりのある生活を優先させたい」との考え方を持った人
々が着実に増えています。
これまで企業では製品・サービスの経済価値に重点を置いて取り組んできました
し、消費者側も“より良い物をより安く”を求めてきました。
その結果、いわゆる大量生産、大量消費、大量廃棄で深刻な環境破壊と人間(健
康)破壊を引き起こしてきたと言えます。
これらを反省した上で、CSRに取り組み、製品・サービスの社会価値の向上を
目指す企業と、それを望む人々(LOHAS)が互いに関係し合うことによって、
よりよい環境が構築されて行くのではないかと思います。
■執筆者プロフィール
新田 実(にった みのる)
資格 :ITコーディネータ
勤務先:タイムテック株式会社
URL:http://www.timetec.co.jp
メール:nitta@timetec.co.jp
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