分業が進んだ現代社会では、生産と消費との間に分離現象が生じ、メーカーと
消費者との間には卸売業や小売業などが介在しています。市場動向がめまぐるし
く移り変わる現代の経営環境の中で、メーカー、卸売業、小売業の各流通ルート
はさまざまな課題を抱えています。
前回の「卸売業の流通政策の課題」に続き、今回はメーカーと小売業の課題を
まとめました。
1.メーカーの流通政策の課題
市場の成長期には売ることよりもつくる事が重視されたため、メーカーが市
場の主導権を握っていました。しかし、市場が成熟化し物あまりの時代になると
つくる事よりも売るためのマーケティングが重要視されるようになりました。
従って、市場の主導権もメーカーから消費者に最も近い小売業に移行しつつあり
ます。
このような状況の中で、メーカーが抱えている課題には以下のようなものがあ
ります。
(1)製品開発力の強化
メーカーで最も大事なのはいうまでもなく商品開発力です。ところが、この開
発力が低下しています。成熟市場下では、消費者などエンドユーザーのニーズを
適確につかんで商品開発をしなければ、顧客の満足は得られません。しかし、販
売を卸売業に頼りっきりのメーカーが多く、エンドユーザーの声を直接に聴く努
力を怠っているためです。
卸経由の販売体制をとっている場合でも、卸の営業パーソンとの同行営業の機
会を増やすか直接小売店を訪問し、顧客の生の声を聴くことが極めて重要となり
ます。
ただ、現状ではメーカーとの同行営業や、メーカーの営業パーソンが直接小売
店へ訪問することを好ましく思っていない卸売業者も少なくありません。彼らの
販売方針に反する営業活動をメーカーが勝手に行うことや、いわゆる「中抜き」
でメーカーが小売業と直接取引きを行うことを警戒しているからです。
しかし、メーカーサイドからすれば、卸に遠慮をして顧客のニーズ把握を怠っ
ていると商品開発力がますます低下し、自らを死に追いやることもあります。
メーカー側の事情を卸に理解してもらう努力を続け、彼らとの同行営業や直接小
売店へ訪問する営業活動を行わなければなりません。卸側にしても、メーカーが
積極的に小売店へ営業することは自社の業績向上につながります。ですから、か
たくなにメーカーの要望を拒否すべきではありません。
ただし、同行営業に限るとか、メーカーが直に訪問する場合は必ず卸の許可を
得るなどのルール化を行い、メーカー側も卸との信頼関係を破るような勝手な行
動はつつしまなければなりません。
(2)営業力の強化
商品開発力と同様に卸に頼りきった販売では、売上アップは望めません。卸は
卸としての販売政策があるため、特定のメーカーの製品のみを販売することがで
きないからです。
従って、この場合でもやはり、卸との同行営業か小売店への直接訪問を増やし
積極的にみずからの製品を販売することが重要です。ただし、注意しなければな
らないのは、すべての小売店を訪問するのではなく、主要な小売店を訪問するこ
とです。メーカーは営業効率を考え、主要な小売店での自社製品の売上を増加さ
せることによって、卸への存在感を高めることが効果的です。小規模で売上の少
ない小売店への訪問は効率が悪く、原則として卸に任せるべきです。
そして、小売店で捉えたニーズをふまえて卸へ製品提案を行ったり、販促提案
を行えば、卸との信頼関係は強化され、自社製品を優先的に販売してくれるよう
になります。
(3)流通経路の短縮
ここまでは、卸経由で販売するケースからみたメーカーの流通課題を取り上げ
ました。しかし、メーカーの製品開発力や営業力の強化は、流通経路を短縮し小
売と直取引を開始するか、さらにインターネットやDMによるエンドユーザーと
の通信販売を行うとさらに強化されます。ただし、その際の問題点として、以下
のような諸点をあげることができます。
a.小売との直取引のための営業人員の補強が必要になり人件費が増加する
b.卸との取引解消にともない売上げが急減する
c.通信販売のノウハウがない
これらの問題点を解消し、直取引に円滑に移行するためには、
(a) 一挙に直取引に移行するのではなく、エリアを限定して直取引を開始する
(例:近隣エリアだけ直取引に移行し、その他のエリアは卸経由にする)。
(b) 従来の卸取引を継続しながら、補強的に通信販売を行う。その間、通信販売
のノウハウを蓄積する。
(c) 卸との取引を解消するのではなく、顧客情報収集の手段としてアンテナショ
ップを開設する。
等の方法があります。
2.小売業の流通政策の課題
市場に物があふれ、生産した品物が容易に売れない時代には、消費者に一番近
く彼らのニーズを直接把握できる小売業が流通の中で力を得てきました。市場で
優位に立つためには、物をつくる力よりも売る力が重要になってきたのです。
しかし、小売業は消費者に最も近いということで、次のような課題をかかえて
います。
(1)移ろいやすい消費者ニーズを絶えず把握しなければならない
成熟化した社会では、必需品はほぼ消費者に行き渡っているため、生活に潤い
を与える娯楽品やサービスが消費の主流になってきました。それに伴い消費者の
ニーズもめまぐるしく変化し、今日売れた商品・サービスが明日売れなくなる時
代になりました。
小売業は、このように移ろいやすい消費者ニーズをいち早く捉え、さらにその
変化に素早く対応できなければなりません。つまり、消費者ニーズを読み取る感
性が何よりも必要なのです。そしてそれに応じて、タイムリーに商品構成を組み
なおし、レイアウトや陳列方法に変化をつけることで、消費者の飽きを防がなけ
ればなりません。消費者ニーズを読み取る感性が弱ければ、デッドストックの増
加→売上の減少→廃業という結果を招くことになります。
(2)仕入ルートの開拓
決まった仕入先から商品を購入しているだけでは消費者のニーズにかなった商
品を供給し続けることができません。絶えず新たな仕入先を開拓し、魅力ある商
品を消費者に供給しなければなりません。そのためには、国内だけでなく海外か
ら商品を調達したり、インターネットを利用してスピーディーに欲しい商品を見
つけ出すなど、あらゆる手段を講じることが必要です。
移ろいやすい消費者のニーズに応え続けるためには、消費者ニーズを読み取る感
性を磨くとともに、仕入開拓力を強化することが非常に重要です。
(3)メーカー機能の保有
卸売業と同様に、メーカー機能を有することによって、自社の独自性を発揮す
ることができます。とりわけ、消費者ニーズをいち早く察知できる小売業の利点
を活かせば流通の主導権を握ることが可能になります。最近の小売業のプライベ
ート・ブランド化(PB化)は、この観点から捉えることができます。
(4)インターネットの利用
インターネットの普及率が高まる中、インターネットを通じた商品購入が日常
化し、その市場規模は年々拡大しています。小売業者も消費者の購買ルートの変
化に対応できるように、絶えずインターネット購買の状況から目を離してはいけ
ません。例えば、自らインターネットを利用した商品販売を行い、店舗販売との
シナジーを発揮できるマーケティングノウハウを確立することも一考でしょう。
■執筆者プロフィール
梅津 政記(うめづ まさき)
株式会社新経営サービス
チーフコンサルタント 中小企業診断士・ITコーディネータ
TEL:075―343―0770
FAX:075―343―4714
e-mail:umedu@skg.co.jp
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