コストを正しく把握する(その2)/宗平 順己

  前回はABC(活動基準原価計算)というものがあることをご紹介しました。

 ABCを使うことで、商品間や顧客間、拠点間のコストの発生状況を比較する
ことが可能になります。Aというお客様は売上が多いのですが、注文単位が小さ
く、伝票処理や出荷処理にとても手間がかかっています。また、突発的な発注も
多いです。一方Bというお客様は、売上は中程度ですが、まとまった量を早めに
予告を頂いてから、注文してくれます。

 従来ですと、売上高が多い顧客Aが上得意様と考えがちですが、実際ABCで
計算してみると、この会社の利益の5割は顧客Bによるもので、顧客Aによる利
益は5%にも満たないということがわかったりします。単なる仕入れ価格と販売
価格の差額だけをみているとこのようなことは全くわかりません。

 このような極端な場合、顧客Aとの取引をやめ、顧客Bとの取引額を増やすこ
とに人員を割く方が、会社としての利益を大きく向上させることが可能になりま
す。しかしながら、実際にはこのようなことはしませんよね。では、どうしたら
良いのでしょうか?

 ABCの事例をみると目からうろこのような解答がでています。顧客Aに発注
形態の改善を要望するのですが、そのかわりに販売単価を少し下げますというよ
うな交換条件を提示するのです。まさに、Win&Winですね。

 このようなアプローチをとった事例では、顧客Aからの売上を担保しつつ利益
率の改善、何よりも、顧客Aからの注文に追い回されていた社員を煩雑な業務か
ら解放できたという非常におおきなメリットも享受できたようです。

 もう一つこのような話もあります。
製品間のコスト構造を比較分析したところ、製品Xはリリース後、顧客からの指
摘による仕様変更が多く、そのことによる製造ラインの変更やマニュアルの改訂
などの追加コストの割合がとても高くなっていたことがわかりました。原材料費
や工場の操業度だけをもとに原価計算をしていてはわからなかったことがABC
の分析により明らかになったのです。
この企業では、変更が柔軟な製造体制を作るという対症療法的な手段は採用せず
に、設計プロセスの大幅な見直しを行い、このような事態の再発を防ぐという手
を打ちました。原価企画では設計段階でコストの80%が決定されるということ
が示されていますが、まさにこの理論に基づいて諸悪の根源を絶ったということ
です。

 このような事例は経営改革の参考になります。分析の数値が出たのち、如何に
そこから真の原因をみつけるか、そのヒントが多く隠されています。ABCは書
籍も多く出ています。経営改善の第一歩として、ABCの勉強を始められること
をお勧めします。


■執筆者プロフィール

氏 名 宗平 順己(むねひら としみ)
所 属 (株)オージス総研 ソフトウェア工学センター長
資 格 ITコーディネータインストラクター、ITコーディネータ

専門分野
・BSC(Balanced Scorecard)
・ABC/ABM
・ビジネスモデリング
・EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)