ITツールに頼りすぎのコミュニケーションは危険/成岡 秀夫

●この4月から某私立大学のキャリア教育の特別授業の非常勤講師を拝命して、
 現在毎週土曜日の特別授業に出向いている。3回生120名余りのメンバーを4ク
 ラスに分けて、各クラス30名前後を夏季休暇のインターンシップに向けて授業
 をする。まず、特別にこの講義を受講した動機を明確にさす。次に、インター
 ンシップを受けてみたい業界と、大学にエントリーしていただいている企業群
 から、インターンシップ先の企業を選んだ理由を書かせる。

●このレポートを担任教官が読んで評点をつける。そして、志望動機を面接でヒ
 アリングし、インターンシップ先の調整をしたり、変更させたりする。人気の
 業界や企業に希望が集まる傾向は、どうしても起こるので、振り分けが大変
 だ。授業は、マナー的な座学もあるが、メインは、クラスの各人が全員8分づ
 つ、その企業を志望した動機や業界を選んだ背景、また、業界を研究して分
 かったことなどのレポートをクラス全員の前で発表する。

●先日、その発表を、どんなツールを使っても構わないと言ったら、すぐに手を
 挙げて発表した学生がいた。彼は、全くデジタル系の発表ツールを使わずに、
 自らの口一本で、しゃべりまくった。それが、非常によく整理され、きんと理
 屈が通っていて、すらすらとしゃべれたので、拍手だった。

●一方、昨日行った授業では、ほとんどの学生がPowerPointのシートを4枚から5
 枚くらい作成して、プレゼンをしていた。なるほど、PowerPointを使うと、見
 た目きれいで分かり易い。しかし、シートの作図に一生懸命懲り過ぎて、肝心
 の中味が薄かった学生がほとんどだった。内容的に同じことを伝えるのに、確
 かにデジタルメディアを使うと、一見、見栄えはいいし、格好いい。まして、
 大勢の前で話すとなると、最近はPowerPointを使わないと、非常にレベルが低
 いように見られることが多い。

●100人や200人の前での講演ならいざしらず、30名程度の狭い空間なら、むし
 ろ、デジタルメディアに頼るより、身振りや表情を交えて、身近なコミュニ
 ケーションを取ったほうが、分かり易いことも多いのだ。何かといえば、メー
 ルやグループウエアでのコミュニケーションは便利だし、どこの企業でも活用
 されているとは思うが、それに頼って、本当の人間対人間の生身の会話がなさ
 れていないことが、ままあると思う。

●グループウエアの回覧板などでの重要な情報伝達とそれに対する意見交換など
 は、非常に見るのが面倒くさい。誰が、何を書き込んだかを、ずっとウォッチ
 していなければならず、あまり重要な情報交換には適さないにも関わらず、結
 構、そういう風に活用されている企業も多い。

●大事なことは、ツールを使い分ける企業風土を持っていること、その文化を作
 ることだ。企業文化や、企業風土にマッチしていないITツールをいくら導入し
 ても、それが利用、活用されないと意味がない。結果的に業務の効率化や、生
 産性の向上につながらないばかりか、かえって、マイナスに作用することもあ
 る。

●そこの眼力が必要になる。いま、自分の組織や会社でのコミュニケーションに
 欠けているものは何か。何が円滑な情報共有と意思決定を阻害しているのだろ
 うか?意外と便利なITツールではなくて、もっと基本的な部分であることも多
 い。京都の有名な某経営者の言葉ではないが、「意識改革」だけで、生産性は
 向上し、利益も上がることもあるのだ。

●ITツールの活用を考えると同時に、それが、うまく運用できる環境を整え、積
 極的に全員が取組んでいける風土を、まず作ること。そこが、組織での本当の
 意味での活性化につながると思う。



■執筆者プロフィール

成岡 秀夫       
株式会社成岡マネジメントオフィス 代表取締役
中小企業診断士/ITコーディネータ
システムアナリスト/上級システムアドミニストレータ
昨年の10月に法人設立。永年の企業経営の経験を活かして、
企業の活性化に貢献。生まれる前からの阪神ファン。
naruoka@nmo.ne.jp http://www.nmo.ne.jp