製造実行システム(MES)のすすめ/馬塲 孝夫

●最近、日本のものづくりに関する話題が色々な所で見られます。企業のみなら
 ず政府も、従来のものづくり大国-日本-が、中国、韓国などの急速な追い上
 げに危機感を抱いている結果であると思います。
 ちなみに、政府レベルでは、1999年の議員立法により成立した「ものづく
 り基盤技術振興基本法第8条」に基づく年次報告として、経済産業省・厚生労
 働省・文部科学省が連携して「ものづくり白書(製造基盤白書)」を作成して
 おり、最新版である平成15年度版は、昨年6月に国会に報告されました。

●その一節に「新たな発展の時代に向けた我が国製造業の取り組み」が述べられ
 ておりますが、この中で企画開発・生産・物流プロセスの革新や、国内生産回
 帰・活用などが唱われています。これはひところ、安価な労働力や、製造イン
 フラを求めて海外進出していった製造業が、自らのコアコンピタンスとして、
 自国の高度な製造技術や、「摺り合わせ型アーキテクチャ」に基づく生産シス
 テムなどの重要性を再認識した結果であり、そしてグローバル時代の競争力強
 化のためには生産システムを高度化すると共に、自国内での優秀なリソースを
 活用して付加価値の高い製品を製造していこうとするパラダイム変化と捉えら
 れます。

●実際、最近では日本を代表する製造企業が、工場の国内回帰を表明したり、実
 施したりしています。ある電機メーカでは、最新鋭液晶パネル工場のブラック
 ボックス化を行い、製造ノウハウが外部に漏れないように厳重管理している事
 が知られています。また、ある複写機メーカでも、他社にマネのできない付加
 価値の高い製品を作るために生産拠点を国内に移し、高度な生産システムを構
 築する事を表明しました。そのために、積極的な自動化や省力化を行い、国内
 組立工程の1/4を無人化し生産性を飛躍的に向上させる、としています。さ
 らに、ある自動車メーカでは、これまで自動化率の低かった自動車の組立ライ
 ンに複数の作業を同時にこなす新型の高機能ロボットを国内の全工場に導入し
 従来のカイゼン活動とロボット化を組み合わせた生産革新に取り組むとしてい
 ます。

●日本の製造業の強さは、現場のQC活動に見られるボトムアップ的な生産改善
 活動でした。それをできるだけ無人化し、コスト競争力のあるシステムにする
 ためには生産管理システムと、生産設備の制御システムであるFAシステム、
 そして作業者が有機的に統合化された生産システムが必要です。そのようなシ
 ステムが、製造実行システム(MES:Manufacturing Execution System)で
 す。

●MESとは、(1)情報システムの活用により、製造業の品質、生産量、納期
 コストなどの改善を行うことを目的とした、製造現場・生産制御のためのソ
 リューション、(2)ERPのような基幹業務システムと製造設備を制御する
 システムの中間にあって、生産現場の人、業務、モノ、設備などの生産資源を
 最適化するITシステムとされています。

●MESの概念は古く、1990年、アメリカのコンサル会社AMRリサーチに
 よって提唱されました。半導体業界にいち早く導入されましたが、これは半導
 体業界における自動化率が高く、現場の自動化設備と生産管理システム、工場
 管理システムのとの情報統合がおこない易かったのが理由です。しかし、いわ
 ゆる加工組立型の工場では、現場作業者による組立工程が主流であったため、
 一貫した情報システムであるMESの必要性はそれほど強く認識されてきませ
 んでした。

●しかし、現在起こっている、製造業の国内回帰、それに伴う積極的な自動化・
 省力化投資のトレンドに対し、今後MESは重要な役割を果たすと考えられま
 す。MESは、これまでの現場と情報システムとしての生産管理システムとの
 ミッシングリンク-失われた環-だと言われています。すなわち詳細な製造現
 場情報と生産管理システムとの情報の不連続性を埋めるものであるのです。加
 工組立型製造業において、省力化・自動化が進展すればするほど、現場生産設
 備の制御システムであるFAシステムとのリンケージがますます強まり、より
 高効率の生産システムが構築できるのです。このような徹底した考え方によっ
 て、製造原価に占める労務費の割合が高い製品でも、自動化にチャレンジする
 のがMESの一つの目的です。

●製造業のIT化を考える場合、ここで述べたようなパラダイム変化に充分留意
 する必要があると思います。そしてそのような変化を経営戦略に活かして行く
 ことが肝要だと思います。少子化に伴う本格的な労働力不足時代の到来にそな
 え、中国に対抗できるコスト競争力を持つFAシステムとMESの効果的な構
 築技術が、これからの生産システムのキー技術となるでしょう。


■執筆者プロフィール

馬塲 孝夫(ばんば たかお)
  ティーベイション 代表/ITコーディネータ補
  E-mail:t-bamba@pop01.odn.ne.jp
◆技術経営(MOT)、FAシステム、製造実行システム(MES)◇
◇生産情報システムが専門です。◆