1.はじめに ここでは、「日本の産業効率化」について振り返ります。この効率化を考える 場合、世界的な視点、すなわち国際的な競争力の観点から説明します。そして、 国内における製造業に注目した効率化に注目すると共に、その効率に起因する解 決方法について述べます。 2.国際的な産業効率の比較 (1)国際経済競争ランキング 国際的な産業効率比較をする場合、国際競争力ランキングを参考にすることが 総合的な評価指標として相応しいと考えます。アメリカは、2000年から2004年に かけて第1位と評価されています。また、シンガポールは、過去4年間、ほぼ5 位以内(8位:2002年)に入っています。これらの国は、国の規模に関わらず国 際的に競争力において高い評価をうけていることを示しています。一方、日本に 注目してみますと、過去5年間、21位(2000年)、23位(2001年)、27位(2002 年)、25位(2003年)、23位(2004年)と1990年代初頭の上位ランキングから大 きく下がっています。 (2)国別の製造業間の効率度 前述の評価結果の傾向に基づいて、国別の製造業における効率度の比較をしま す。1995年では、アメリカ、ドイツおよび日本における製造業の効率度(各産業 部門についてGDP比率を労働人口比率で割った値…1以上のときの産業部門は効 率がよい)はつぎの通りです。すなわち、アメリカ(1.25)、ドイツ(1.18)、日 本(1.06)です。アメリカ、ドイツの製造業の効率度は、日本(1.06)のそれより も高い効率を示しています。 3.国内産業における効率度の検討 国際競争力ランキングおよび製造業の効率度の比較結果からは、日本の産業、 特に製造業では、日本の国際競争力が、高い位置にあるとの認識は、必ずしも正 しくないことが判りました。ここでは、この原因について検討します。 (1)製造業年間総労働時間 日本の製造業における平均の年間総労働時間は、他の先進国、ドイツ(1510時 間:1.00)、フランス(1700時間:1.13)、イギリス(1920時間:1.27)、アメ リカ(1980時間:1.31)に比較して、大きく上回っています。例えば、ドイツ を”1”とすると、日本(2560時間:1.70)は、約1.7倍の労働時間をかけてい ることになります。また、日本の場合は、約600時間が、サービス残業として正 当な賃金が支払われない場合が発生していると推定されます。ILO (International Labor Organization)では、以下のように述べています。 ●より長時間働くことは、必ずしもより良い労働につながらない調査結果に関 し、ILOのソマビア事務局長は、「労働時間は、その国の全体的生産性と生活の 質を計る重要な指標のひとつである」としながらも、「長時間労働の利益は明ら かだが、より長時間働くことが、より良い労働を意味するとは断言できない」と 付け加えています。そして、「生産性、報酬、失業、技術水準、社会保障、雇用 安定、さらに仕事と娯楽に対する文化的姿勢まで含めた数多くの要素を検討し て、はじめて意味のある成果が得られる」ということに注意を促しています。 (2)仕事の満足感 日本における仕事の満足感は、9ヶ国中(フランス、イタリア、イギリス、ド イツ、ロシア、アメリカ、フィリピン、デンマーク、日本)最下位です。 (3)ホワイトカラーの生産性 日本の労働生産性は、ブルーカラーでは高いが、ホワイトカラーでは低いとい われることが多くあります。また国際的に見ても、日本のホワイトカラーの生産 性は低いとされています。日本のホワイトカラーの生産性に関しての問題意識項 目には以下のものがあります。 ・ホワイトカラーの生産性はブルーカラーに比べ低いと考える人が6割以上で ある。 ・ホワイトカラーの生産性が問題になっている主な理由は ・従業員構成の変化 ・売上高重視から高付加価値化への変換 ・景気後退による過剰雇用発生 ・現業部門に比べた生産性向上の立遅れである。 ・産業全体に占めるホワイトカラーの比率は年々高まっており、国民経済の視 点からもホワイトカラーの生産性向上の重要性が高まりつつあります。 このことを踏まえて、アメリカと日本の仕事に対する考え方の違いを次に示し ます。 ・アメリカ 「会社=「仕事」の複合体」 ・「就職」意識 「職務」に相応しい適正な処遇と成果に応じた公正な評価を最重視 ・個人の負担で能力を向上し、「職」を確保した(仕事能力は入社の前 提)「仕事」が基本 ・個人別の仕事内容は明確な権限と責任範囲も明確(評価は全て個人に帰 属) ・会社方針なり目標は各人の「職務」に細分化(必ずしも全員が共有する 必要なし) ・独力で要求水準をクリアー。個人の尊重を基本に仕事を任せ公正に評価 し短期業績を重視する経営 ・日 本 「会社=「人」の協働体」 ・「就社」意識 「雇用=生活の安定」を労使ともに最重視 ・会社の提供する育成プログラムを活用し能力を高める(仕事能力は入社後育 成)「人」が基本 ・個人別の仕事内容も権限と責任範囲もファジー(評価は関係者全員に帰属) ・全員が会社方針なり目標を共有化しチームワークで要求水準をクリアー。チ ームワークを基本に人を育て活かす長期的視点からの経営 4.おわりに 「日本産業の効率」について、産業労働者の視点からその効率の関係を述べま した。日本における産業効率を向上させるための資源は、人的資源のみといって も過言ではありません。したがって、その人的資源を効率的および効果的に活用 するためには、「正味の製造業年間労働時間の短縮」と「仕事への満足感の増 大」に対処することが不可欠です。併せて、産業効率の向上のためは、アメリカ と日本の仕事に対する考え方の違いを十分に認識し、状況を良く把握することが 重要です。一方、産業の効率を阻害する要因として、日本独特の商習慣がありま す。例えば、流通関連では、製造業者→商社→1次問屋→2次問屋→小売りのよ うに、製品が商品として最終顧客に届くまでに介在する業者が依然多数存在して いることです。このような状況も産業効率を考える場合、改善の対象とされなけ ればなりません。 [参考文献] 1)http://www.asianstocks.info/ecodata/competetive.htm 2)人見勝人、龍谷大学MBAコース、生産システム工学講義資料 2001、No.55 3)ホワイトカラーの生産性 http://www.d-cruise.co.jp/sanseiken/31kikansi/31data.htm ■執筆者プロフィール 柏原 秀明 京都情報大学院大学 教授 技術士(総合技術監理・情報工学部門) ISO-9000審査員補、ISMS審査員 ITコーディネータ、公認システム監査人補 E-mail : kasihara@mbox.kyoto-inet.or.jp |
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