人が、幼児から少年少女になり、思春期を経て青年となり、大人になるように
企業組織にも成熟度があります。
今年1~2月に経済産業省が実施した「企業のIT化に関する分析調査」(上場
企業対象)では、経営にITを取り込み活用している度合いから、企業組織を4段
階に類型化して分析しています。4つのステージ及び回答企業の分布状況は以下
のようです。
第1ステージ:IT不良資産化企業群 15%
単にITを導入しただけで、その活用がなされていない段階
第2ステージ:部門内効率化企業群 66%
IT活用により、部門毎の効率化を実現している(特定業務の改善)
第3ステージ:組織全体最適化企業群 17%
ITを理解する経営者の決断と実行により、組織全体におけるプロ
セスの最適化を行い、高効率経営と顧客価値増大を実現
第4ステージ:共同体最適化企業群 2%
単一企業組織を超えて、共同体全体で、ITにより最適なバリュー
チェーンを構成している段階
各ステージを識別する分析・評価の視点は以下のようです。
1.経営の視点
組織形態(組織中心主義からの脱却度合い)
人材・評価制度(成果主義に基づく評価基準)
教育・構成員のインセンティブ(構成員のやる気を引き出す仕組み)
情報共有(即時的業績把握と構成員の情報共有)
経営手法(生産中心主義から顧客中心主義への移行度)
取引関係(組織内調整から市場内調整へ)
変化への対応(柔軟性・迅速性が企業成長力の源泉へ)
2.ITの視点
IT部門の体制(経営戦略とIT戦略の連携)
ITガバナンス(経営戦略に適応したIT投資戦略へ)
IT投資効果分析(ビジネスプロセスに基づくITの適用)
ここで、企業が組織の部分最適から全体最適に移行する(第2ステージから第
3ステージに上がる)時には、経営の壁が存在し、これを打破するのは組織改革
が引き金になると指摘しています。更に、第3ステージから第4ステージに上が
る時には、企業という組織の壁を越えて協働の関係に入りますが、これは顧客本
意の対応を徹底する決断が必要となります。
ところで、これらのステージと企業業績との関係は、この調査では以下のよう
に、上位ステージの企業ほど好調となっています。
ステージレベル 上向き 上向きも将来不透明 横ばい 悪化
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4 50.0% 30.0% 20.0% 0%
3 29.2% 22.0% 36.1% 12.5%
2 18.1% 16.0% 44.3% 21.6%
1 6.3% 21.9% 46.9% 25.0%
参考にステージ3の要件指標を、先の分析・評価の視点順に示します。
1.経営の視点
組織形態:組織の階層構造、社内ポストが必要最小限
人材・評価制度:成果主義に基づく評価基準の明示(スキル標準の策定)
社内における人材の流動化(スキル転換)
教育・構成員のインセンティブ:経営者と社員間の垂直方向でのコミュニケ
ーション活発・円滑
社員スキルの向上を仕組みによって担保
情報共有:企業全体の業績その他の情報を即座に把握→経営トップと従業員
の情報共有がスムーズ→組織階層がフラットで、顧客ニーズが経
営に届き易い
経営手法:IT活用により顧客ニーズを積極的に経営に反映
顧客主義に基づくオンデマンド型の供給体制
取引関係:条件見直しによる取引先のダイナミックな変更と絞り込み
変化への対応:市場ニーズに対して、ビジネスプロセスを即座に適応
経営の視点からIT活用(CRM、SCM、ERP等統合化の恩恵)
業務が独立・モジュール化している
2.ITの視点
IT部門の体制:経営者能力のある情報戦略責任者の存在
経営戦略の一環としてIT投資戦略がある
ITガバナンス:経営戦略の一環としてのIT投資戦略
企業システムを階層化、共通化して管理
IT投資効果分析:全社的なIT投資の評価軸を持っている
今回の調査は上場企業が対象ですが、業種では金融業が一頭地を抜いており、
次いでサービス業、そして流通業が続き、製造業が最も遅れている結果となって
います。全産業平均では、先に示しましたように81%の企業が第2ステージ以下
と、経営に密着したIT活用は、これからが本格化のようです。
この調査・分析が示した4類型は、中小企業が経営革新する際の1つの企業モ
デルとしてヒントになるのでは無いでしょうか。
■執筆者プロフィール
中村久吉(なかむら ひさよし)
ITコーディネータ、ISMS主任審査員、中小企業診断士、社会保険労務士
e-mail:eri@nakamura.email.ne.jp
メッセージ:ITコーディネータは、経営に密着したIT活用の道案内をいたします
ので、大いにご活用ください。
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