長引いているデフレ不況の中で、大企業では人員のリストラ等で業績を持ち直
してきましたが、中小企業の体力は衰弱気味の様です。すでに一昨年夏に東大阪
商工会議所が行った経営者の意識調査でも、経営課題の上位に挙げられたのは、
1.新製品開発・高付加価値化、2.コストダウン対策、3.販売力強化でした。
かつて上位に顔を出していた労働力確保・人材育成や省力化・自動化の推進と言
ったテーマは、ポイントを大きく下げています。価格競争のために儲からない、
大量販売が難しいと言った状態が、浮かび上がっています。
競合と言うことでは、昔からある同業者間の競争に加えて、近年は異業種から
の参入による業際を超えた競合と、国境を越えたグローバル・コンペティション
が特徴です。企業の存続を考える場合、もはや業界内だけ、国内だけ、を見るの
ではなく、全産業分野を見渡し、全世界の動向を見て、意志決定する必要を感じ
るのです。多国間にビジネス展開する米欧の企業や華僑系の企業と同等な戦略ス
タンスが必要になってくるのでしょう。
先行きが不透明で、また変化の激しい経営環境では、従来の日本的な経営意志
決定(稟議制度に代表されるボトムアップ型)手法よりも、米国型の強力なリー
ダーシップによるトップダウン型意志決定の方が有効に機能することが多いと思
われます。ここで、トップダウン型意志決定を採用するときに留意すべきは、的
確な経営戦略が存在していることです。激変する経営環境の中で経営戦略を策定
し、有効に発動する体制を整備することが、経営者の重要課題になるでしょう。
それは、最近よく耳にするコーポレート・ガバナンス(企業統治)の確立に努
めれば良いと言えます。コーポレート・ガバナンスは、「会社は誰のものか」と
いったことが中心にされることが多いのですが、本来は文字通り「どのように企
業を統治するか」が中心テーマです。コーポレート・ガバナンスのテーマは次の
3点が主体であると考えられます。
1.経営の透明性
社会的存在としての企業認識をもとに、経営戦略・事業見通し、業績等につ
いてステークホルダー(利害関係者:株主・従業員・ビジネスパートナー等)
にタイムリなコミュニケーションを取る。
2.説明責任(アカウンタビリティ)
ステークホルダーの利益を考慮して経営していることの十分な説明。
3.経営コントロール
経営戦略の策定・実行と、企業目的達成のための組織・管理体制の構築及び
維持。
さしあたり特に重要なのが、経営コントロールと言うことになります。この経
営コントロールを有効に機能させるためには、経営行動力と経営監視力が必要で
す。従来から、経営管理ではPlan→Do→See、生産管理分野ではPlan→Do→Check
→Actionと言われてきました。Plan→Doは経営行動力、それ以降の局面は経営監
視力で、この2つが車の両輪です。どちらが欠けてもうまく機能しません。両輪
が揃って、回転して行くことで、目的の地に到達できるのです。
経営戦略を策定したら、それを組織内に浸透させて実行するだけでなく、必ず
チェック(モニタリング)する仕組みを組み込んでおくことが重要なのです。
近年では、経営監視力を高めるための機能として内部監査制度が注目されてい
ます。これは、経営諸活動が合法的・合理的に行われているか、経営管理組織・
制度が経営目的に照らして適切であるか、を客観的に検証・評価して、その結果
および改善案を経営者に直接報告する仕組みなのです。経営的観点から内部統制
の有効性を評価し、組織内コミュニケーションを促進し、内部経営コンサルタン
トの役目を果たすものと言えましょう。従って独立性を担保するため、内部監査
部署は、どの部門にも属さず経営者直属の組織とします。中小企業の場合、この
組織は経営者候補育成にも役立ちます。内部監査担当となった人材が、外部コン
サルタントを利用して内部監査を実施するのも一つの方法です。
経営コントロールを有効に機能させるための経営実行力と経営監視力の仕組み
は、中小企業も工夫次第で構築・運用できますので、ぜひ取り入れていただきた
いものです。
■執筆者プロフィール
中村久吉 e-mail:eri@nakamura.email.ne.jp
ITコーディネータ、中小企業診断士、システム監査人補、社会保険労務士
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