損のとき得のとき / 松井 宏次

桜前線が南から穏やかに訪れてくる季節になりました。
この春、桜色ってどんな色?と、桜の花をあらためてじっくりとご覧になっ
てはいかがでしょうか。これまで抱いていたイメージとは違う花の色が見え
てくるかもしれません。

さて、今回の話題は、提唱者の一人であるカーネマンのノーベル経済学賞
受賞であらためて取り上げられる機会も増えた「プロスペクト理論」です。

ケース1
 A.確実に800ドル手に入る
 B.85%の確率で、1000ドル手に入る。

ケース2 
 A.確実に800ドル失う
 B.1000ドル失う確率が85%あって、全く失わない確率も15%ある。
 
さて、あなたは、それぞれのケースでどちらを選びますか・…

ご存知のかたも多いと思いますが、実験結果は、多くの人は、ケース1では
Aを、ケース2ではBを選ぶとのことです。(実験が行われたのは1979年の
米国で、貨幣価値もその条件下ですが)
確率からみれば、ケース1は、Bは、平均850ドル手に入り、ケース2では
Bは平均850ドルを失うことになります。何度も繰り返せば、この損得に落
ちつくはずですが、人はそうした合理的な判断をしないものだ、という結果
です。
ここに表れたのは、得の局面では「不確実だけれど大きくなるかも知れない
儲けより、確実な儲けを、好み(ケースA)」、損の局面では「確実な損よ
りも、大きいけれど、もしかしたら無しかも知れない損を好む(ケースB)
」、という傾向です。

この理論では、同じ額でも、損と得で人が受けるインパクトが違う、つまり、
100万円が手に入る喜びと、100万円を失う悲しさとでは、失う悲しみのほう
が大きい、ということが、基本のひとつにおかれています。
そして、そうしたことから、例えば、これまでの投資を無駄に(確実な損に)
したくないために、不合理に追加投資をしてしまう、といった判断の偏りや
歪みなども、説明されていく理論モデルになっています。

ビジネス上の意思決定で陥りやすいミスの回避のために、心的な理論やモデ
ルを、どの程度活用されておいででしょうか。
スポーツでフォームの癖をチェックすることがあるように、ビジネスを進め
るなかでの判断のはたらきかたについても、理論やモデルの理解に照らし、
ご確認をされることは有効です。


■執筆者プロフィール

松井 宏次(マツイ ヒロツグ)
ITコーディネータ 1級カラーコーディネーター 中小企業診断士
e-mail:hiro-matsui@nifty.com