今年は「チザイ」と言う言葉が新聞や雑誌の紙面を賑わせています。
身につまされる思いで「痴罪」などと言う字を思い浮かべないでください。
知財、つまり「知的財産」のことなのです。
かつて眠れる獅子と言われた中国が遂に目覚めて、世界の工場として活動
しています。膨大な人口に支えられた安価な労働力の前には、とても太刀
打ちできません。ローテク分野は難しいとしてもハイテク分野は未だ大丈
夫と思っていたら、そうでも無いようです。日本企業はじめ先進各国から
の技術移転が進んでいる他、シリコンバレーなどに頭脳流出した人達が現
地で起業して支社や合弁会社を母国に置き頭脳還流するケースが多いと言
います。なにしろ膨大な人口のうえ、国策もあって優れた人材は続々と輩
出して来ます。日本国内では、先進的なITやバイオテクノロジー及びナ
ノテクノロジー等の最先端技術で中国との差別化を図り、かつて米国が取
った特許等の知的資産戦略を推進する必要が叫ばれています。
政府も今年7月には知的財産戦略大綱を決定し、11月27日、国会では知的
財産基本法が成立しました。主な内容は、(1)特許審査の迅速化(2)
大学発明の企業への移転促進(3)知財に詳しい弁護士など専門家の育成
(4)模倣品対策の強化等となっています。
ところで、知的財産とは何なのでしょう?
今回は、知的財産と言われるものの内容を見てみたいと思います。まず、
知的財産に関連する言葉の分類から言いますと、大きく4階層程度に分け
られるようです。最も中核に位置するのは工業所有権、それを包み込む外
側の層が知的財産、更にそれも包み込む外の層が知的資産、最後に知的資
産をも包み込む最外層が無形資産としましょう。
工業所有権には、特許権、実用新案件、意匠権、商標権があります。
工業所有権を含む知的財産には、商号、ドメイン名、デザイン・著作権、
植物新品種、映像音楽作品、営業・放映権、フランチャイズ契約、ソフト
ウェア、ライセンス契約データベース、プロセス等の企業秘密、がありま
す。実務上、良く言われるプロダクトブランドは、もちろん工業所有権で
知的財産です。次に、知的財産を含む知的資産には、著作物、発明、演劇
等、絵画・写真、顧客との関係、顧客リスト等の顧客関係、があります。
コーポレートブランドはこの層になります。一般に、知的資産は人間の知
の価値を表していて、その中で、法律や契約により権利として保護されて
いるものを知的財産と呼んでいるのです。例えば、発明は知的資産ですが、
これを特許制度で権利として保護することによって知的財産となるわけで
す。さて、知的資産を含む無形資産には、のれん、電話加入権、水資源等
の使用権、無形固定資産と言ったものがあります。
それでは、これらの知的財産の価値はどのようにして計るのか?
と言う問題があります。直感的に気付かれると思いますが、これは大変に
難しい課題です。早い話が、確かな知的財産を財務諸表に反映させる「知
的財産会計」を企業会計の原則に導入しようという機運もあって、種々論
議されているのです。知的財産の価値評価は、様々なアプローチで研究さ
れています。最も確かと思われる特許で考えてみましょう。資産価値算定
法の一例は、3側面から考えようと言うものです。(1)特許を獲得する
のに掛かったコスト(2)特許によって生み出される将来の利益の現在価
値(3)その特許の市場での価値、なのですが、現実的には(2)の方法
によるしかないケースが多いようです。これも絶対価値ではありませんの
で問題を含んでいます。次に、最も分かりにくそうなコーポレートブラン
ドの価値評価を見てみましょう。経済産業省は今年6月に、売上高総利益
を算定の基礎とするブランド価値算出法を試案として発表しました。しか
し、この方面では世界の老舗である英国インターブランド社があります。
こちらは(税引き後営業利益-資本コスト)を算定の基礎として、より経
営実践的とも言えます。さらに、税引き後営業利益を基礎とする新しい算
定法を一橋大学の伊藤邦雄教授が発表しました。長くなりますので省略し
ますが、正しく知的財産の価値評価方法は発展途上にあるのです。
「チザイ」は一過性のブームではなく、国を挙げた再生への大テーマで
あることは確かでしょう。知的財産基本法は既に成立し、各種の施策がこ
れから登場することになります。
企業経営に携わる方々には、ジックリと取り組んでいただきたいものです。
参考図書を1冊だけあげておきます。「知的財産ビジネスハンドブック」
中央青山監査法人編著 日経BP社 2800円
■執筆者プロフィール
中村久吉(ナカムラヒサヨシ) e-mail:eri@nakamura.email.ne.jp
ITコーディネータ、中小企業診断士、システム監査人補、社会保険労務士
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