労働の二極分化は中小企業のチャンス ? / 中村 久吉

長引く不況で完全失業率は、今年6月が5月に続き5.4%、近畿地方は更に前年同月比で0.2ポイント悪化して6.5%となっています。このような悪環境の中で労働市場ではパート労働者比率が上昇し、企業は社員に対して能力主義や業績主義の処遇制度を拡大してきました。上級管理職に年俸制を実施する企業も毎年増加しています。
リストラによる人員削減だけでなく、必要な人たちについても人件費の合理化・効率化が進んでいるわけです。同時に、労働の流動化が進展していることになります。これは、一時期言われていたライフスタイルの多様化による労働形態の選択などと言うカッコイイものでは無いと思われます。

 

年功序列型賃金の時代は、労働力はストックでした。労働力は今フローとなりつつあります。フロー化した労働力は、資材を調達するのと同様に市場原理に従って価格が決まるのが原則であり、現状では値下げ圧力が大きく働き
ます。価格破壊は人間そのものに及ぼうとしています。
ところで、パート労働の中身は依然として単純労働や未熟練労働が大半を占めています。もちろん例外も少なくありませんが、専門的で高度の知識をほとんど必要としないマニュアルどおりの労働を提供しているのが大勢なので
す。一方、能力主義や業績主義の対象となるのは、高度の知識や技術を必要とする専門職や技術職です。労働の流動化が進んだ今、この技能は業界で標準として通用する基準または国家資格等の客観的に評価できるもので証明す
ることになるでしょう。労働がストックであった時代は、企業が手厚い社員教育によって人材を育ててきました。工場や生産機械などの設備投資以上の位置づけで企業は人的資本の蓄積を図ってきたのですが、それが出来にくくなり必要なときに即戦力の人材を求めると言う図式になろうとしています。
つまり労働者は、自前で自分に教育して必要な技能を身につける必要に迫られることになります。

 

しっかりしたビジネスモデルの上で、人材戦略を描いている中小企業にとって、現在は欲しい人材を確保できる良い機会だと思われます。労働者にとって魅力的な人事制度を構築しやすい環境でもあるのでは無いでしょうか?


■執筆者プロフィール

中村 久吉  (ナカムラ ヒサヨシ)
ITコーディネータ、中小企業診断士、社会保険労務士
e-mail:eri@nakamura.email.ne.jp